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「ひゃっ!」

短い悲鳴と共にアカネの姿が見えなくなる。まさか崖から落ちたのでは、と目を見開いた。

「アカネ?!」

焔伽が慌てて駆け寄ると、銀髪の男がアカネの腕を押さえつけていた。他にも何人かの気配を感じる。薄暗くともはっきり見える程美しい銀髪。間違いない、犬神だ。

「痛い・・・てば!ちょっと、離してよ!」

怖いもの知らずなアカネは押さえつける男の腕をバシバシ叩いて逃れようとする。焔伽は取り合えずほっと息をついて近づいた。

「貴様等人間だな・・・我等犬神一族の霊山に何の用だ。」

ボロボロな姿の三人を見据えて男は言った。その目には明らかな警戒と殺気が満ちている。僅かでも不審な動きを見せれば、その場で殺す気なのだろう。

「・・・・怪我人を助けたい。頼む、姫宮に会わせてくれ。」

「何・・・・?」

姫宮、とその名に犬神は反応し、焔伽を睨みつけ、より警戒を強める。アカネは何の話をしているのか分からない様子で、焔伽と犬神を交互に見つめた。

「何故貴様のような人間が姫宮様を知っている。」

「いたたたた・・・!力入れないでってば!傷にしみる・・・!」

更に力を込めて握られた腕の痛みにアカネは顔をしかめる。しかし犬神はそんな事気にも留めず、じっと焔伽を睨み続ける。

「前に一度助けてもらった事がある。時間が無ぇんだ、頼む・・・!どうしても姫宮に会わねぇと仲間が・・・!」

焔伽は頭を下げて言う。アカネもそれに合わせて頭を下げた。

「貴様等人間がどうなろうと、我等には関係の無い事だ。早々に立ち去れ。」

頭上で放たれた冷たい一言に、アカネは勢いよく頭を上げる。

「何で・・・!どうして・・・!その人に会えばサイは助かるかもしれないのに!それだけを信じてここまで登って来たのに帰れだなんて・・・!このまま引き返してたら、サイは・・・!ねぇお願い!出来る事は何でもする!仲間を助けて・・・・!!」

「アカネ・・・・」

言い終わった後、頭を下げたまま、痛みも忘れて必死に犬神の腕にしがみ付いて懇願するアカネを見て、焔伽ももう一度頭を下げた。既に意識を無くしているサイの左腕は、肩から指先まで完全に赤紫に変わっていた。未だに出血は止まる事なく、焔伽の服を濡らし、地面に赤い染みを作っていく。犬神は傷だらけの三人を見、やがて側にいた別の犬神に頷く。その犬神は銀色の毛並みの巨大な犬に姿を変え、岩に登り、遠吠えをした。犬の声が山に響き、暫くして山頂の方から光の玉が飛んできた。それはアカネ達の前に降り立ち、人の姿へと変わる。

「夢告(ゆめつげ)様・・・」

アカネの腕を握っていた犬神はその手を離し、夢告と呼んだ男に頭を下げた。その男は犬神一族の中でも上位の立場なのか、他の犬神とは違う気配を感じさせた。

「まさかこんな所まで人間が登って来るとは・・・」

夢告はざっと三人を見渡し、側にいた犬神二人に向かって合図を出した。すると犬に姿を変え、一匹はアカネを、もう一匹は焔伽とサイを背中に乗せた。サイが落ちないよう、焔伽はしっかりと支える。

「姫宮様がお前たちに面会すると仰った。山頂まで連れて行く。・・・万が一不穏な動きを見せたら、その場で死んでもらうぞ。」

「感謝する。」

夢告もまた、犬へと姿を変え、先に山頂へ向かって空を蹴った。それに続くようにアカネ達を乗せた犬神も跳びたつ。

「サイ・・・もう直ぐだからね・・・・」

擦り傷だらけの手を伸ばしてサイの髪に触れるアカネに、焔伽は頷き、やがて見えてきた犬神の屋敷を見つめた。



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