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奥へ進むに連れて、道はどんどん歩きにくく、更には霧が立ち込めてくる。体に何の異常もないアカネと焔伽ですら困難な道のり。毒によって足がふら付いているサイには、かなりの難関だった。

「・・・・ハァ・・・っ・・は・・・」

俯いたまま、呼吸を荒げる様子を見て焔伽は眉間にしわを寄せる。

「・・・・やべぇな・・・あの女・・・美蠍紀は数日だと言ってたが・・・このまま揺り動かし続けたらもたねぇ。」

支えている右腕が異常な程熱い。恐らく患部の左腕はもっと熱を持っている筈。戦闘直後とは比べ物にならなかった。恐らくサイ自信も、意識を保っているのがやっとの状態だろう。

「・・・厄介な事してくれやがって。あの女、次会ったらタダじゃ置かねぇ・・・ッうを!」

岩だらけの斜面で、体のバランスが崩れたのを慌てて立て直す。

「・・・悪い・・・・足、滑らせた・・・・」

サイは顔を上げないまま言う。

「気にすんなって。それより大丈夫か?足挫いたりしてねぇ?」

すぐさまアカネが駆け寄り、手拭いでサイの額の汗を拭った。

「サイ・・・こんな所で死んじゃ駄目だからね!」

「誰が死ぬか・・・誰が。」

涙目で、何故か怒っているアカネを見てサイは笑いながら呟く。この毒で死ぬ事はない、美蠍紀はそう言っていた。彼女にとって、恐らくサイの左腕を完全に潰す事が目的なのだろう。

「え・・・?!」

アカネはサイの左腕を見て固まった。

「・・・アカネ?どうした?」

肩を貸している焔伽の位置からでは、サイの左腕を見る事は出来ない。

「・・・・ねぇ、サイ・・・左腕、どこかで切った?」

力なくぶら下げられた左腕からは、鮮血が流れ落ちていた。しかしサイの服が破れていないのを見る限り、道中に木の枝や岩肌などで切ったとは考え辛い。慌てて袖をめくり上げると、布で止血した傷口から止めどなく血が流れていた。肌の色も傷口の方から肘にかけて赤紫に変色している。

「・・・ねぇ、焔伽・・・」

「あぁ、こりゃもうチンタラしてたら間に合わねぇ。」

焔伽は改めて危機感を覚え、担いでいた右腕を引っ張り、サイの体を負ぶった。背中に顔を押し付けたまま、「マジでごめん・・・」とサイは呟く。

「だぁから気にすんな!ダチを助けるのは当たり前だろ!」

「そうだよサイ。焔伽には上まで馬車馬の如く頑張ってもらうからね!」

アカネは邪魔にならないよう、サイの刀を抜いて手に持った。

「よ、よーし!任せろ!」

焔伽は一度担ぎなおすと、足を進めた。山の中腹は平らな道が多く、少し歩きやすい。早く進める道は早く進み、少しでも早く犬神に会おうとする。彼らに会う為には、中腹までは登らなければならない。薄っすらと霧が立ち込め、日が傾いても二人が足を止める事は無かった。途中、焔伽の体力を気遣ってアカネは何度か休息を勧めたのだが、一度も休まないまま既に五時間が経過しようとしていた。

「日が暮れたらどうする・・・?登るの危なくない?それに、焔伽も・・・」

「辺りが・・・完全に・・・見えなくなるまでは、登る・・・!」

先を見据えて、途切れ途切れに焔伽は言う。ここまでの彼の様子を見てきたアカネは黙って頷く。時折サイの様子を伺っては二人より先を歩き、通行の邪魔になりそうな木や岩を退かしていく。一歩一歩踏みしめながら、焔伽はその後を登る。

「・・・アカネ、大丈夫か?あちこち・・・傷、出来ちまってるけど・・・!」

足を滑らせたり、枝や石粒によってあちこちに傷が出来ているアカネを気遣う。振り向いたアカネは笑顔で両手を振った。

「大丈夫大丈夫!全部掠り傷だから。サイや焔伽の事考えれば・・・・全然・・・・」

焔伽は隣まで進み、両手を下ろして俯いたアカネの頭に手を乗せる。

「泣くなよ。お前が笑ってねぇと、俺らも進めねぇ。」

「・・・な、泣いてませんよーだ!」

アカネは先に走って行き、術で岩の粉砕や枝の伐採を行う。それを見て焔伽が笑みを浮かべた、その瞬間。



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