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犬神山の麓。戦いの後、半日かけてなんとかここまでたどり着いた。しかしここまでの間に歩いて来たのが悪かったらしく、サイは先ほどよりも遥かに辛そうにしていた。それでも苦しいとも痛いとも言わない為、余計に心配になってしまう。

「サイ、しっかり・・・」

「大丈夫だ・・・・」

焔伽の肩を借りて歩いているサイはどう見ても大丈夫ではない。アカネは焦るように二人の数歩先を歩いた。犬神山を見上げれば、深い緑と霧。巫女や法師でなくとも、犬神山がとても清らかな山である事は分かった。麓に立った時点で、空気の違いを感じる。この山には犬神以外の妖はいない、そんな気がした。

「ねぇ、山に入ってなにするの?薬草とか探す?」

「前にここに来た時は先生の病気を治すために薬草を探しに来たんだ。原因が分かるなら薬草を探せばいいんだが・・・生憎俺にはこの毒は分からない。」

「さっきの美蠍紀って妖・・・解毒は出来ないって言ってたし・・・」

こうして考えている時間も惜しいと、アカネは眉間にしわを寄せた。焔伽は犬神山の頂上を見上げ、一言。

「サイを診てもらう・・・犬神一族に。」

焔伽の発言にアカネは驚いた様子だった。先ほどの焔伽の話、山に入るだけでも危険だというのに、その危険と直面しに行って大丈夫なのだろうか、と。

「賭けてみるしかねぇ。此処でこうしててもサイは善くならねぇし・・・行くしか」

「・・・ない、ね。」

アカネも心を決めて歩き始める。遥か先の頂上を目指して、三人はゆっくりと進み始めた。



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テーマ「人外ファンタジー」
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