2


「・・・っ」

「サイ?どうかした?」

急に右目を押さえて立ち止まったサイにアカネは訪ねる。サイは直ぐに「なんでもない。」と返し、何事も無かったかのように歩き出す。アカネと焔伽は少し気にしている様子だったが、それ以上問い詰めてはこなかった。

「(なんだ・・・?今の感覚は・・・・)」

一瞬、『あの日』と同じ感覚がした・・・
覇王と対峙した一年前と同じ感覚。直ぐ側に奴がいるような気配。一筋の汗が頬を伝った。

「本当に大丈夫なのか、サイ。顔色悪いぜ?少し休むか?」

「心配ない。少し眩暈がしただけだ。」

考えても答えは見出せず、もうその感覚も消えてしまった。仲間に心配をかけないように平常心を取り戻す。

「ねー、あそこに見えてるのが犬神山?」

三人から見て右手にそびえる巨大な山を見てアカネが言った。山は天まで届きそうな程高く、頂上付近は白い雪が覆っていた。

「あぁ、そうだぜ。あそこには犬神一族が住んでるんだ。マジ怖ェから近づかねぇのが賢明だな。」

「えっ、そんなに凶暴なんだ。」

「凶暴・・・ってか、縄張り意識が強いんだ。下手に踏み込んだりしたら怪我じゃ済まねぇよ。昔入って危ない目に合った俺が保障する。」

「焔伽入ったんだ?!」

ケラケラ笑う焔伽を見てアカネは驚いたように言った。しかしその笑いは直ぐに消え、三人同時に立ち止まる。

「ねぇ・・サイ。」

「気付いてる・・・・出て来い。」

妖の気配を感じた三人はそれぞれの武器に手をかけた。程なくして、目の前に黒い服の男が舞い降りてきた。音も立てずに地面に着地し、三人を見据える。対峙しただけで、この男がそこらにいる妖の数倍格上だということは直ぐに分かった。

「お前がサイ、か。」

灰色の髪、赤い目の男はサイを見て言った。己の名を知っている男に対し、警戒の眼差しを向ける。

「何故俺を知ってる・・・?」

「右目を覇王に呪われた人間・・・それなりに有名だがな。」

覇王と名の出た瞬間、サイは男を睨み、刀の鍔に手をかける。男はそれを見て鼻で笑う。

「・・・覇王ってのは、恨みを買うのが得意だな。」

「てめぇ、何モンだ?」

ほんの一瞬焔伽に視線をやり、直ぐに目を逸らした。

「答える義理は無い。」

男は言い終わるか終わらないかで飛び上がり、腕を振るって漆黒の炎をサイに向けて飛ばす。

「この炎・・・狐か・・・!焔伽、頼んだ!」

「了解!」

サイは飛んでくる炎を刀でなぎ払う。辺りに炎は散り、地面をも焦がした。焔伽はアカネを守るように一歩手前で二本の刀を抜いて構える。男はサイの振り下ろした刀を、炎をまとった右手で受け止めた。

「どうした?この程度じゃ、覇王に傷は付けられないぞ。」

「俺の本気が、この程度だと思うか?」

サイは男を宙へ蹴り飛ばし、それを追って素早い斬撃を繰り返す。男は全てを受け流し、爪で空を切り裂いた。目には見えない刃物のような衝撃波がいくつも降り注ぐ。サイはそれを刀で受け流した。男は地面に着地し、一拍遅れてサイも着地する。向き合うと、お互いに一撃ずつ攻撃を受けていた。

「全てかわしたと思ったんだがな・・・」

「それは俺も同じだ。」

男は少し楽しそうに笑うと後ろへ飛び退いた。

「なら・・・これはかわせるか?!」

男は瞬間的に何かを口ずさみ、右腕を前に突き出した。そこから現れた巨大な炎の黒竜が勢い良くサイに食らいつこうとする。かわせば仲間が危ない。右目の包帯を外し、刀で黒竜を受け止めた。蒼い炎が刀身から溢れ出す。

「・・・・くっ・・・・!」

押される体を何とか堪え、黒竜の口に刃を滑り込ませると、一気に縦に引き裂いた。振り切った刀から蒼い炎が男目掛けて放たれる。その炎を追うように突きを繰り出すと、確かな手ごたえが伝わってきた。炎が消え、男の姿が目に映る。刃を受け止めた男の左の手の平を、黒い炎を突き破ったサイの刀が完全に貫いていた。



[ 25/198 ]

[*prev] [next#]




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -