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阿須波の大火山内部、獄炎宮。
燃え盛るマグマに囲まれた宮殿に、マグマより赤い髪の男が立っていた。整った顔立ちは、じっと目前の巨大な鏡に向けられている。それに映る己の首に提がる四つの宝珠に触れ、静かに目を閉じた。
「あと、一つ。」
男は言うと、踵を返し王座に座る。足を組み、右腕で肘をついて呟く。
「美蠍紀(みかつき)。」
同室にいても聞こえるか聞こえないかの大きさ。しかし呼ばれた名の主、美蠍紀は瞬時に姿を現した。
「お呼びですか、覇王。」
紫髪の妖艶な女は王の前に跪き、目を伏せて主の言葉を待つ。
「サイの所へ行け。」
サイ・・・その名が出た瞬間に美蠍紀は顔を上げた。一年前、覇王の左腕を使えぬようにし、覇王によって呪いを与えられた人間。覇王を慕う美蠍紀にとって、最も憎むべき存在だった。
「殺しても?」
「いや・・奴にはまだ使い道がある。それに・・・私に届け物をしてもらわねばな。」
薄く笑みを浮かべる覇王の考えている事は、美蠍紀には分からなかった。
「・・・・少し遊んでやれ。」
「御意。」
美蠍紀は姿を消し、室内には再び覇王だけが残された。右目を通せば、サイの様子などこの場にいても分かる。それはサイが祟り眼を開放している間の事ではあるが。呪いを与えたその日から、サイとは右目で繋がっているのだ。
「私を楽しませてくれよ、サイ。」
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