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サイ、見て!今年も満開・・・!桜の雨みたいだね。』
『ああ、そうだな。』
村はずれの桜の木の下、二つの陰が立っていた。
『春告も沢山・・・この場所は、何年経っても変わらないね。』
目を閉じて桜の息吹を感じている彼女の横顔を見て微笑んだ。
『俺たちも、だろ?』
彼女は俺の方を向いて驚いた顔をし、次の瞬間には声を殺すように笑っていた。その仕草に俺は首を傾げる。
『何か可笑しい事言ったか?』
『ふふっ・・・ううん、サイがそんな事言うとは思わなかったから、驚いただけ。そうだね、私たちも全然変わらないね。・・・・これからも、変わらないでいられるといいな。』
俺の手を握った彼女の小さな手を握り返す。
『来年も、二人で・・・また見に来ような。』
『うん。来年も、桜・・・見に来ようね。絶対、絶対約束だからね?サイ。』
『分かった、約束する・・・カヤ。』
その時の嬉しそうな彼女の笑顔とあの桜の木は、鮮明に記憶に焼きついている。
しかしあの約束は、果たされないまま終わってしまった。すべて・・・
「・・・イ・・・・・サイ?どうしたのぼーっとして。お腹でも痛い?」
顔を上げると、怪訝そうな表情で覗き込むアカネがいた。
「いや・・・何でもない。」
「ふーん、ねぇ・・・桜・・・散っちゃうよ?」
見上げると、桜の枝に春告が沢山集まっていた。それはもう花が全て散ってしまう事を意味している。春告でいっぱいになった桜は壮観な光景だった。
アカネの側にいた春告も、ゆっくりと母である桜の元へ向かう。
「なんか、寂しいなぁ・・・散っちゃうんだ・・・」
「散るからこそ、桜は綺麗なんだろ。」
サイが言うと、先ほどまで草の上に寝転がっていた焔伽は身を起こした。
「そうそう、それに散らねぇと来年咲けねぇだろ?」
「永遠に美しいままのものなんて、無いのかぁ・・・」
暖かい風と共に吹き上がった春告を見上げ、アカネは呟いた。空が薄紅色に染まり、また青に戻った時には、桜は今年の花を散らしていた。
「ねぇ、来年もさ、こうやって皆で見れるといいね!」
アカネも焔伽と同じように草の上に身を投げた。
「おう!そん時ゃ、何か美味いモンでも食いながらな!」
「焔伽は花より団子じゃん!ね、サイ!サイもまた一緒に見に来ようね。」
アカネは首を上げて、逆さまのままサイを見上げた。
目を閉じて、小さく頷いた。
今度は、大切な人達を失わないと自分に言い聞かせるように。サイは手に握っていた一枚の花びらをそっと風に乗せた。
小さな春の残りかすは、風の気の向くままにどこまでも飛んでいった。
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