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「わぁ・・・!綺麗ー!」

桜が立ち並ぶ街道。春の暖かさと桜の美しさに機嫌を良くしたアカネはサイと焔伽を置いて先々進んでいく。焔伽とサイは今後の行き先について話をしていた。

「で、お前等が追ってる覇王だが・・・俺の情報網によればここから遥か北、地方で言えば極寒の地、阿須波(アスハ)にいるぜ。」

「阿須波か・・・」

「ま、ちっと遠いが、行けない場所じゃねぇよな。」

焔伽は欠伸をしながら言った。サイは阿須波へ向かう途中、海を渡らなければならない事について考え事を始めた。足音意外聞こえない、静かな空気が流れていた・・・が。

「うおぁっ!!」

突如前方でアカネが男のような叫び声を上げ、焔伽は呆れる。

「アカネ、お前女だったらもうちょっと女らしく叫べよ。」

「だってホラ!見てこれ!!」

アカネは何かを指差すが、距離が離れているためよく見えなかった。焔伽が先にアカネの所へ近づく。すると・・・

「うおぉ!!すげぇ!」

同じような声を上げ、焔伽は目前のモノから目を放さずにサイを手招きした。

「サイ、サイ!お前もこっち来てみろよ!」

二人で何かを凝視しながら声を高ぶらせている姿は、端から見れば新しい玩具を見つけた子供だ。サイは一瞬笑って二人の所へ歩いた。
アカネと焔伽の視線の先には、薄紅色のふわふわした手のひら程の綿が浮かんでいた。

「春告か・・・懐かしいな。」

「あ?なんだ、サイは見たことあったのかよ。」

焔伽はつまらなそうな声で言った。綿はアカネの周りをゆっくりと飛んでいる。

「俺が滞在していた村で、見た事がある。」

「へーえ、オレは話でしか聞いた事無かったんだよな。これが春告か。」

春が近づいた頃に現れ、春が来た事を告げると、桜の花びらと共に消えていく木の精霊のようなものだった。

「春告がいるって事は・・・近くに大きな桜の木でもあるのか。」

サイは辺りを見渡した。春告の住む桜の木は、樹齢何百年という大木であると相場は決まっているのだ。春告はアカネが気に入ったのか、側にくっついたまま離れようとしなかった。ふわふわと宙を舞い、誘うように街道を進んでいく。

「あれはあたしを誘ってると見た!追っかけよう!」

アカネがこう言い出すと止まらないので、サイも焔伽も黙って付いていく事にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


春告に誘われて行き着いた先には、一際存在感の強い大木があった。時期が過ぎ、散り行くまでの残り僅かな時間を精一杯生きている。そんな意志を感じる程の、見事なものだった。

「すっごい・・・!」

「あぁ、オレもこんな大木は初めて見たぜ・・・・」

アカネと焔伽は目の前の桜に圧倒されながら、しばらくその場に佇んでいた。
サイは桜に近づき、舞っていた花びらを一枚手のひらに乗せる。

あれから、もう季節は一回りしたのか。




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