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「気を使わせてごめんなさい、焔伽、アカネさん。」

「いえ、そんな・・・気にしないで下さい。」

頭を下げる巴を見て慌ててアカネは両手を振った。

「焔伽から話は聞いたかしら?」
「はい・・・」

巴はアカネをじっと見つめ、目で微笑んだ。

「貴女のような子が、サイの側にいてくれて良かった・・・・・」

巴はアカネの手を握った。その手があまりに優しくて暖かくて、無意識に涙が零れた。透明の雫は頬を伝い、巴の手に落ちた。

「あ・・・ごめんなさい・・・!何、泣いてんだろあたし・・・・」

アカネはもう片方の手で涙を拭った。

「ありがとう・・・貴女の優しさ、この手から伝わってくるわ。どうか、その優しさであの子を包んであげて。あの子は自分の命を軽く見ているから・・・ゆっくり、時間をかけて教えてあげて欲しいの。」

「やっぱり先生も気付いていたんですね、サイの事・・・」

焔伽の問いに巴は深く頷いた。

「でもあの子にはまだ時間があるわ。その間、貴方たちが支えてあげて。・・・・私は・・・・今夜にするわ。」

縁側を向いて言った巴の一言で焔伽はぎゅっと膝の上で拳を握った。

「はい。」


・・・・・・・・・・・・・


「・・・・サイ。」

「・・・・アカネ?どうした、浮かない顔だな。」

晋介の墓の前に座り、線香を供えていたサイは、体をアカネの方へ向けた。アカネは少しの間視線を泳がせ、バッと頭を下げた。

「・・・ごめん!」

「・・・・アカネ・・・?」

「私、祟り眼の事なんにも知らないで・・・今までサイに酷い事、たくさん言った・・・」

祟り眼は便利だ、格好良い、そう言った自分は愚かだ。サイがどれだけ辛い思いをしているのか、どれだけ色んな事を我慢しているのか、全く分からずにいた自分を恥じた。

「ごめん・・・・!」

より深く頭を下げると、サイの手が頭に触れた。

「顔上げろ、アカネ。」

ゆっくりと顔を上げると、サイが僅かに微笑んでいるのが分かった。

「なんでお前がそんなに謝るんだよ。」

含み笑いで言われ、少し身を乗り出した。

「だってあたし・・・!無神経な事ばっかり・・・・!」

「目のことは、自分が祟り眼になったその日から覚悟を決めてた。俺もこの能力は役立つと思って使ってるんだ、アカネが落ち込む事じゃない。・・・それ以上に、お前には驚かされた。呪われて以来、俺に近づいてきた人間はお前くらいだったからな。お陰でこの一ヶ月、俺の周りはうるさくて仕方ない。」

アカネは唖然とした顔で2,3度瞬きをして、口許に笑みを浮かべた。

「うるさくて悪かったわね。」

肘を鳩尾に打ち込むと、サイは短い悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。大して力を入れた訳ではなかったので、アカネは焦って問いかけた。

「え、そんなに痛かったの?」

「・・・・嘘。」

サイが顔を上げた瞬間額に痛みが走り、今度は逆にアカネがうずくまった。間抜けな顔をして呻いている姿に少しだけ笑うと、サイは立ち上がった。

「痛ッ!いったぁ・・!デコピン痛いんだからねー?!」

「当たり前だ、痛くしてる。」

しれっとした顔で見下ろしてくるのを恨めしそうに睨む。

「酷い・・・!酷いよこの人・・・・!」




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