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その言葉に、アカネとさえの視線がサイへ注がれた。
「名を奪う・・・って、何でまたそんな。奪ってどうするの?」
「『名無し』っていう妖を聞いた事がある。そいつらは、人から名前を奪う妖だそうだ。」
「それ以外に悪さは?」
「しない。」
それを聞いたアカネはほっとしたように息をついた。
「けど、放置しておくとまずい妖だ。」
「え・・・何かあんの?」
「名前ってのは大事なものなんだ。普段人はあまり意識しないが、時に名は生きていく上での道筋にもなる。誰の名にも由来があって、知らず知らずの内にそれに縛られていたりするんだ。例えば性格・能力・・・色々だけどな。」
「うーん・・・うん。で?」
アカネは必死に理解しながら話を聞く。
「誰しも名をつける時、何かしらの思いを込めるだろ?それは一種の言霊となって、その瞬間から名付けられたものの魂と結びつく。人の名に悪だの呪いだの負の意味を持つ言葉をつける奴はいない。それは、人生を左右すると無意識に分かってるからだ。・・・・あー・・・・要するに名を奪われるとその内生きる気力が無くなるって事だ。道を見失うからな。」
頭を抱えて目を回しているアカネを見てサイは話を括った。
「それじゃあ、このまま放置していたら、村の者達はその生きる気力が無くなるっていうのかい?」
さえが不安そうな表情で言った。サイは黙って頷く。
「それって大変な事じゃん!何とか出来ないの?」
アカネはバッと顔を上げてサイに詰め寄った。「顔が近い」とサイはアカネの額を手で軽く押し戻した。
「名無しを捕まえて、名を与えてやればいい。」
「それだけ?」
「それだけ。」
予想外の返答にアカネは少し拍子抜けしたようだ。
「この村に、さえさん以外に自分の名を覚えている人は?」
サイは斜め後ろに立っていたさえに言った。
「もうあたしと亭主くらいしかいないよ・・・・という事は・・・」
「次に狙われるのは、貴方たちだ。」
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