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旅の途中、サイとアカネはとある小さな村へ立ち寄った。

村を歩いていると、あちこちから話し声が聞こえてくる。しかしそれは、どこか奇妙なものだった。

「なぁアンタ、アンタんとこの畑はどうだい?」

「うちはまあまあだね。あ、あの人の畑は豊作だったって話だよ。」

村人は離れた場所にいる3人の人を指差した。

「あの人?どの人だい?」

指差された方向を向いても、もう一人の村人は誰か分からない様子だった。

「ほら、あの人だよ。おーい!・・・いや、アンタじゃなくてアンタだよ。そっちの隣の!」

耳に入る会話に、アカネは首を傾げた。

「ねー、何か変じゃない?この村の人達。」

少し前を歩くサイに小走りで近付いた。

「まぁ・・・・少しな。」

サイの返事にアカネは再び考え込む。

「・・・何が変なんだろ・・・?」

アカネが思考を巡らせている間にサイは茶屋で二人分の団子を注文し、店の外の椅子に座る。

「名前を呼んでないからじゃないか?」

未だ立ち尽くしているアカネに一声かけた。それを聞いてアカネは納得したように手を叩く。

「なるほどー!確かにさっきからこの村の人達、アンタとかあの人とか言って、名前で呼んでないね。」

サイの隣りに座り、もう一度ぐるっと辺りを見渡した。

皆指を差したり差されたり、違う人が振り向いたりと、端から見れば非常に面倒な光景だ。

「なんであんな面倒な会話してんのかな。」

「さあな・・・」

「皆、名前を忘れてしまったのさ。」

二人が振り向くと、茶屋の女の人が団子を持って立っていた。中年のその女の人は団子を二人に出し、小さなため息をこぼす。

「見たところ、アンタ達二人は旅人さんだろう?だったら、自分の名前を忘れてしまわないように気をつけなよ。」

苦々しい表情で言う。

「なんで?名前なんて普通忘れるものじゃないのに。」

生まれた時から死ぬ時まで・・・いや、死んでからも残る事だってある。名前とは当たり前のようにいつも自分と共にあるものだ。

「急だよ・・・ここ数週間で村の者が次々に名前を忘れていった。最初は年寄りの物忘れだろうと思っていたけど、どうも違う。年寄りだけでなく若い者まで、自分の名前だけをすっぽり忘れちまったんだ。・・・名前だけの記憶喪失が何人も出るなんて、妙な話だろう?」

幸いあたしはまだ覚えてるがね。と言って、女の人は自分をさえと名乗った。

「そんな事、あるんだ・・・」

アカネは団子を頬張りながら呟いた。

「いや・・・そこまで妙だと、妖の仕業かもしれない。忘れたんじゃなく、名を奪われた可能性がある。」



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