2
「サイがさっき言ってた通り、私は忍の里『光風(こうふう)』の民だよ。」
「光風・・・中つ国で最も勢力の強い隠れ里だったな。」
アカネは頷き、話を進める。
「里には、先祖代々守られてきた秘宝があった。それは神の国、高天原(タカマガハラ)にあった物だと言われてたんだ。全部で五つあるらしくて、里にあったのはその内の一つ。あたしの両親は里の頭領だったから、先代の教え通りに宝珠を守っていた・・・そこに、あいつが・・・」
膝を抱えていた手に少し力を込めた。サイはそれをじっと見つめる。
「・・・・あいつ?」
「そう・・・あいつが・・・覇王が里を襲撃した。」
「覇王・・・?!」
その言葉にサイは反応した。少しばかり右目が疼く。
「ちょうど一年くらい前、覇王は里の皆を何人も殺して、宝珠を奪い去った。・・・・あたしの両親も、奴の火に焼かれた・・・・里は辛うじて崩壊せずに済んだけど、あたしは皆の仇をとりたい。だからあたしは、それまで触った事もなかった忍具を手にした。」
アカネも己と似た境遇だったのか、とサイは思った。襲撃された時期も被っている。村を襲った時覇王は、何かを手にして去って行った。それはアカネの言う宝珠の一つだったのだろうか・・・・
「お前が初めて武器に触れたのは、たった一年前なのか?」
「・・・・そうだよ。」
「それじゃ、ろくに戦った経験も無いだろ。・・・・それでよく覇王を倒すなんて言えるな。」
「分かってる!だけどそれでもあたしは・・・・!!」
アカネは少し身を乗り出した。サイにはその目に涙が浮かんでいるように見えた。それは目の前で揺らいでいる焚き火のせいかもしれないが。
「俺も、村を覇王に襲われた。・・・・俺以外に、生き残りはいない。」
「・・・・・もしかして・・・サイを呪ったのは・・・・」
「あぁ、覇王だ。・・・俺は奴を倒すために旅をしていた・・・・お前と同じだ。」
「・・・そう、だったんだ・・・」
アカネは身を引き、一瞬だけ焚き火に視線を戻し、サイを見つめた。
「・・・お願い、あたしも連れて行って。」
「・・・・・・・・。」
サイは真剣な表情でアカネを見つめた。睨んだ、と言った方が正しいかもしれない。アカネは目を逸らさずにじっと返事を待っている。やがてサイは短くため息を零した。
「祟り眼に自分から関わってくる奴がいるなんてな。」
サイは布団代わりの布をアカネに渡した。アカネはそれを抱いて唖然としている。
「さっき、きつい事言って悪かった・・・早く寝ろ。明日は早いぞ、『アカネ』」
笑って言ったその一言でアカネの表情はパッと明るくなり、布を広げた。
「ありがとう・・・・サイ。」
既に背を向けて横になっているサイに向かって呟き、自分も布にくるまった。
翌朝
「・・・・おい、起きろ。・・・・・アカネ!」
「ん〜・・・もうちょっと寝かせて・・・・・」
「・・・・・・・。」
サイは背を向け、何も言わずに歩き始めた。それを見てアカネは慌てて身を起こす。
「あー!ごめん冗談だってばー!」
つまずきながら急いで追いかけてくる姿に思わず笑い、軽く頭を小突いた。「あたっ!」と短い悲鳴を上げ額を押さえる。
ここから先は、賑やかな旅になりそうだ。
[ 13/198 ][*prev] [next#]