あれから一年

まだ少し肌寒くも春の気配が近づいてきた、弥生。
商人や旅人が行き交う街道を黒いローブに身を包んだ男が歩いていた。腰に刀を差し、足以外の全てがローブに隠れている格好だ。

男は懐から翡翠の飾りの付いた首飾りを取り出し、何をするでもなくしばらく見つめた後、再び懐へ戻した。そして薄紅色の空を見上げる。

「また、この季節が来た。」

雪のようにハラハラと舞う桜の花びらを見て小さく呟いた。それを一枚手にした瞬間、女特有の高い悲鳴が街道を突き抜けた。道を歩いていた人々もその声に足を止め、先ほどまで賑わっていた鳥のさえずりもピタリと止まり、真冬のような静けさが辺りを包んだ。そして「妖が出たのでは」と人々は足早に遠ざかっていく。

こんな時、普通の人間は様子を見に行こうなどとは思わないのだ。しかし男はローブを翻し、悲鳴の聞こえた方向へ走った。
辿り着いた時には既に殺された女と、巨大な鬼のような妖が立っていた。食事を邪魔されたと思ったのか、妖は標的を男へ変えた。ズン・・と腹に響くような足音でこちらへ近づいて来る。男が刀の鍔に指をかけた、その時

「うわっ!巨眼鬼・・・!」



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