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残された青年は只なす術も無く歯を食いしばり、拳を地面に叩きつける。そして、側で眠る少女の傍らに座り、頬に触れた。
「・・・・カヤ・・・」
呼んでも返事は無い。触れた頬からは体温を感じない。そしてそれと対照的に、まだ微かに温かさの残る彼女の血が、もう目を開けない事を・・・彼女が手の届かない所へいってしまった事を意味していた。
失ったのだ、最も大切だったものを
護れなかったのだ、最も愛したものを
分かっているのに、それでも目の前に突きつけられた事実を受け入れられずに何度も名を呼んだ。嘘でもいいから目を開けて欲しいと、焼け爛れた右目の事など忘れたかのように、力なく重力に従うままの少女を抱きしめた。
やがて全てを包み込むような優しい雨が降り、徐々に炎が小さくなっていく。青年の左目からは雨ではなく涙が、右目からは涙ではなく血が頬を伝った。どうしてこんな事に・・・何故カヤが死ななくてはならなかったのか、何故カヤが死んで自分が生きているのか、自分の中で答えの無い答えを探し続けた。喪失感、虚無感・・・何とも言い難い感情にもう言葉も出てこなかった。
そしてふと、覇王の言葉が頭をよぎる。
『私が憎ければ、追ってくるがいい。』
憎い。一瞬にして全てを奪い去った、何の罪もない村人やカヤを殺したあいつを許さない。より一層強く怒りを覚えた時、呪われた右目がス…と開いた。
・・・・・・・・・・・
青年はカヤが好きだと言っていた村はずれの花畑に墓を作り、花を手向けた。日当たりが良く、少しでも安らかに眠れるように。
「必ず・・・必ず仇はとる。そして・・・・」
墓前に誓いを立て、右目を呪われた青年は刀をその手に村の跡地を去った。
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