アイドルにクリスマスはない。
 いや、クリスマスはあるか。クリスマスにはクリスマスライブ、それが終わればすぐに年末ライブの用意。今をときめく新人アイドルのIDOLSH7に個人的にクリスマスを祝うような時間はなかった。
 まあ、喜ばしいことなんだろーけど
 今年の最初は三千人のキャパシティの会場で九人しかいないライブを行っていたというのにとんだ大躍進だ。
 まあ、俺が暇でもあっちがなあ……。
 ぼんやりと恋人の顔を思い浮かべる。恋人の名前は十龍之介、IDOLSH7の好敵手であるTRIGGERのセクシーアンドワイルド担当だ。
 紆余曲折あってこっそりと、メンバーにも内緒で愛を育んだ二人には決定的に足りないものがあった。
二人きりの時間だ。
 お互い多忙の身であるし、ラビチャはどこで足がつくかわからず業務連絡的な内容しかできない。電話をかけようにも大和は寮暮らしで、メンバーが聞いているかもと思うと長電話はできなかった。そのため一日十五分、大和の寮から二つ先のコンビニから寮の近くまでの人気の少ない帰り道にこっそりとささやくようにかける電話が唯一の愛を育む時間だった。
 それも最近はすっかりご無沙汰で、大和は悶々と自室でケータイを握りしめていた。ラビチャに「お疲れ様です。」や「今日は寒いですね。」などと他愛のない文を打っては消す。
 忙しかったら、迷惑だよな。でも十さん優しいから、きっと気を使って電話をかけてくれる。そういうのはなんか嫌だ。
「……ま、おにーさんは大人だからこれくらい我慢できますけどね。」
ぽつりと呟き、体を震わせる。今日は随分と冷える。もう眠ってしまおうか――
そう思った時だった。
『外』
ぴろぴろんっ という可愛い音と同時に、ケータイの画面にメッセージが表示される。
『外』
『みて』
『雪』
そう立て続けに送られた後、ややあって
『ごめんね、興奮しちゃって』
と取り繕うように送られてくる。
窓の外を見れば白い欠片がひらひらと待っていた。やわらかな結晶は部屋の外から見える樹木をうっすらと覆い、やさしげな色合いにしている。
『本当ですね。初雪だ。』
『クリスマスに降ればロマンチックだったんだけどな……』
『十さんってロマンチストなんですね(笑)』
『そうかな?雪ってあまり見たことがないから、雪イコールクリスマスっていうだけかも。あ、急にごめんね。それじゃあ おやすみなさい』
『いえ、おやすみなさい。』
ぴょこんと王様プリンのスタンプが表示されたかと思うと同時に電話がかかって来る。
相手は勿論――。

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