あなたは隕石に当たって死にました。といわれた方がまだ現実味があるんじゃないかと思う。それはそうだろう。今までずっと片思い、失恋、片思い、失恋の繰り返し。ノンケに恋してはいっつも告げるまでもなく拒絶されていた。そんな風に二十二年を過ごしてきて、あぁ好きだと思っても、なんとか近くにいる気楽な奴になるための努力しかしなくなってたんだ。
 だから今回の恋だって、いつもと同じ。気のいい飲み仲間になって、どんな女が好きだとか、好きな奴ができたとか、勝手に傷ついて行くんだって思ってた。思ってたんだ。

「大和くんが好きだ」

 二月十四日、世間の愛が最高潮に高まる日に、俺は十さんに告白された。
 十さんは、いつものへにゃりとした笑いではなく、真剣な表情で、耳まで真っ赤にして告げてきたのだ。これが嘘だったら、十さんはすごい役者だと思う。
 でも、この人にそんな器用な事できるわけない。頭ではわかっていても経験から少しでも傷を浅くしようと、軽薄な笑みが顔に浮かんだ。

「十さんもそういう冗談とか言うんですね」
「冗談じゃないよ、ごめんね」

 君が好きだ。
 噛みしめるように発せられた言葉にぶるっと肩が震え、表情が崩れる。熱くなる顔を必死に取り繕いながら頭の中をめぐるのは、そんなはずない。もしかしたら、そんなはず……の言葉。頭がパンクしそうだった。
 いや、キャパシティーをオーバーしていた。だからがくんと地面に膝をついてしまう。

「大和くん!?大丈夫……そ、そんなに気持ち悪かった……? 」
「違います、違うんです……信じられなくて……こんなことってあるんですね」

 十は、膝をついた俺の肩を抱こうか抱くまいか手を逡巡させた後、やさしく背中に手を添えてきた。
 じわじわと暖かいその手に、自分の心音が伝わってしまわないか心配になる。

「あのさ、俺の勘違いだったらすぐ否定して欲しいんだ。……もしかして俺たちって両思い? 」

 どくんとひときわ大きく心臓がはねる。これはきっと伝わってしまった事だろう。添えるだけだった手がやわやわと慈しむように背中を撫でている。

「俺、今日誕生日なんすけど」
「うん、知ってる」
「それで、バレンタインデーなわけで」
「そうだね」
「バレンタインデーの贈り物……貰ってもらえますか? 」

 触れるだけのキスをして、惚けた顔の男を残して走り出す。後ろで大和くん!と呼ぶ声が聞こえたが、こんな顔、見せられるはずがない。
 二階堂大和、二十二歳。誕生日は二月十四日。アイドリッシュセブンのリーダーでみんなのお兄さん。そんな俺がはじめて恋が叶って泣きそうになっている顔なんて誰にも見せたくなかった。


***

 「大和さんお誕生日おめでとう! 」
 寮に帰るころにはだいぶ落ち着いて、それでもふわふわとした気持ちがにじみ出ていてはミツやナギあたりに何か指摘されるかもとパンパンと頬を二、三回打ってから玄関を開ける。
 すると、玄関でメンバーが待っていて、俺はすぐにもみくちゃにされた。一週間位前からメンバーやマネージャーはそわそわしていて、俺に隠れてなにやら用意しているようだった、あー俺のこと祝ってくれんのか、こりゃあ盛大に驚いてやんねえと。と思っていたのに直前の衝撃が強すぎて頭からすっぽり抜けていた俺は、ふぉうという情けない声を上げてしまった。

「大和さんめっちゃ変な顔してるんだけど」
「鳩が豆鉄砲、まさにこのことですね! 」
「てっきりもう気付かれているものばかりだと思っていたのですが……。」
「だからいっただろ、絶対バレてないって! 」
「なー早くしよ。俺おなかすいた」
「環くん……今日の主役は大和さんなんだから……」

 ミツが俺の顔を指さして笑い、リクが腕をひいて中へと誘ってくる。廊下の途中でナギに三角帽子を乗せられた。
 リビングからはなにやらいい匂いが漂ってきていて、腹がきゅうっとなる。

「ほら、ヤマさん早く座れって」
「環くん! 」
「や、いいから。はいはい座りますよ」
 
 俺が席に座るとミツが全員に目配せをする。

「じゃあ、いくぞー! 」
「「大和さん!お誕生日おめでとうございます! 」」

 ぴんっと鼓膜が震える。そしてじわじわと胸に暖かいものが染み渡ってきた。
 純粋な祝いの言葉をもらったのはいつ以来だろう、もしかしたら初めてかもしれない。そう思うと言葉が喉で詰まってでてこなかった。

「大和さんもしかして感動してる? 」
「うっせー七五三、せっかくの感動壊すなっつーの」
「はぁ!?おっさんの涙腺が緩いだけだろ」

 こんなに幸せな日があるだろうか。
 からかわれまいと顔を隠して上を向く。恋が叶って、仲間に祝われて、これ以上の幸せがあるだろうか。
 ずるっと鼻をすすれば隣にいた環から、ヤマさん汚ねえ。と非難の声が飛んできたので肩をぶつける。

 生まれてきて良かった。

 そんな柄でもない事を考えてしまうくらい。

 暖かな場所を俺は手に入れたのだ。


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