テレビからは芸人達の笑い声が聞こえてくる。普段だったら龍之介も一緒に笑っていただろうが、今は彼らの話なんて全く頭に入ってこなかった。なぜなら久しぶりに会った恋人が「おじゃまします」といいながら入ってきたかと思えば、少し前に彼が持ち込んだ低反発素材のクッションに顔を埋めたまま、時々身じろぎする以外動かないからである。
付き合いだしてから日は浅いものの、こうなった理由に心当たりがある。これは大和なりの甘えで、落ち込んでいるときのかまって欲しいのポーズなのだ。
では抱きしめてキスを降らせればいいか? といえばそうではない。下手にベタベタと可愛がれば彼はすっかりへそを曲げて寝室に引っ込んでしまい朝まで顔も見せてくれないだろう。これは前回龍之介がした失敗である。
ではどうすべきかと龍之介は頭を悩ませた。久々に会ったのだから、最低でもキスはしたいしできればその先もしたい。勿論そういう雰囲気になったらだ。例え毎日夢に見るくらいシたかったとしても、無理矢理モーションを起こせるほど龍之介は獣ではなかったし、分別をわきまえていた。テレビでは相変わらず芸人達がおっぱいおっぱいといいながら笑いあっている。おっぱいか……。そういえば楽がなんかいってたなあ。本人が聞いたら怒り出しそうなキーワードでメンバーのことを思い浮かべ、彼とした会話の内容を思い出すべく記憶の糸をたどる。楽のドヤ顔と一緒に思い出されたその言葉は余りにひどく、思わず苦笑してしまうような内容であったが、これなら大和も「なんだよそれ」と笑ってくれるかもしれない。と彼のそばにひざを突きそっと髪を撫でる。少し固い。きっと仕事でセットされたのであろうそれを、彼の心も一緒にほどけないものかと願いながら指を通す。そして一言。
「大和くん大丈夫? ……おっぱい見る? 」
「見る」
クッションに埋めていた顔をバッと上げて大和が起きあがり、そのあまりの勢いに龍之介はすこしたじろいだ。大和の視線は期待のためか熱く、冗談のつもりでめくったインナーの裾を重くした。もはや冗談だなんて言えそうもないし、そう言ってしまうとまた大和がしぼんだ風船の様になってしまいそうだ。
覚悟を決めろ龍之介! 脱ぐのは仕事みたいなものじゃないか。ゆっくりと裾をめくりあげれば舐めるような視線が肌をなでるようにねっとりと上っていく。腹筋をすべて晒し、彼の視線がその丘陵をなではじめたのを感じ、羞恥に耐えかねた龍之介はえいやっと一度にシャツをまくり上げその勢いのまま投げ捨てた。
「十さん」
責めるような響きを持った彼の声など聞こえないというように肩をすくめれば、はぁっとため息をつかれる。体がじわじわと熱を持っていく。目をとじて大和の視線から逃げても確かに感じられるそれは体を高ぶらせ、表皮を汗で湿らせる。彼の息づかいが大きく感じられ、内蔵がきゅうっと収縮する。下腹部に熱が集まっていくのは避けられないことだった。
「あの、大和くん……もういいかな? 」
「……触っても? 」
まさかそんな言葉が返ってくるとは思わず薄目を開けばとろりととろけた顔をしている大和が食い入るように龍之介の胸を凝視しており、心臓が早鐘のように鳴り出す。触れられればこの鼓動もバレてしまうだろう。しかし彼の言葉を拒むすべを龍之介はもっていない。
「いいよ」
大和は待ちかまえていたかのように手をのばし、優しく鎖骨を撫でる。骨によってできたくぼみをなぞり、だんだんと下っていく鎖骨の端からからすすっと心臓の上へと二等辺三角形を描くように手が行き来する。その手が自分の衣装の襟元の形をなぞっていると気づき、龍之介は目を開く。かあっと顔に熱が集まり口元がわなないた。そんな龍之介の様子を見て大和はにいっと笑う。
「ここがアンタが普段人に晒してるところ」
つつっと大和の手が移動し胸筋を撫で、その触れるか触れないかという微妙なさわり方に身をよじる。
「で、ここがたまに見せるとこ。ファンが見れる一番深層」
「うっ」
胸の尖りをぴんっとはじかれ声が漏れる。大和の手によって高められた体を汗が流れ落ちていく。その感覚さえももどかしい。大和の手は腹筋をひとつひとつなぞりながらとうとう臍の下へとたどりつく。臍の下を撫でて大和はくくっと笑い声をもらす。
「くくっ、でここが俺しか知らないところ。なあじょりじょりしてる。処理しきれてないですよ」
「よ、夜だから……」
「わっ剛毛なんですね。髭は永久脱毛ですっか? 」
「うっ……はい」
大和君の笑い声はくすくすと軽く、耳に心地いい。うなだれるように頭をたれると彼の指が這っているそこが思っていたよりも色づいていることに気づく。そういえば今日は脱ぐ仕事がないからと昨日の夜処理をしなかったんだと思いだし、俯きが深くなる。
大和の手はしばらくそこを撫でていたが、やがてその下へと手を伸ばす。片手で起用にベルトをはずしまるで道をたどるかのように深い茂みへと下っていく。うっそりと茂ったそこに顔を近づけたまらない。というようにはぁっと熱い息を吹きかける。
「や、大和君……俺……もう」
「だーめ。もうちょっと」
もはやひっかけただけになったパンツにひっかて起きあがることができない逸物はむくむくと質量を増していき、それにともない龍之介の息も上がっていく。大和の手は確信に触ることなく茂みを撫で、指で梳き、時にひっぱりあらゆる手段でそこをいじめた。大和の視線は龍之介の茂みの下が涙をこぼしていることに気づいているはずだ。その証拠に、ちらちらとその染みを見ているのだから。
「ああ、もう! 」
「う、わっ」
大和を軽く押すとバランスを崩したのかそのまま後ろに倒れた。起きあがろうとする大和を押し込めるように両手をまとめてつかみ、腰の下へとクッションを入れる。
「あんまがっつかないでくださいよ」
「ここまで我慢したんだ。すこしくらいいいだろ」
彼はなごり惜しげに俺の下腹部を見ていたが、噛みつくように口づければあきらめたのか舌を絡ませ答えてくれる。
「ごめんあんまり余裕、ないかも」
「知ってますよ。俺がそう仕向けたんだから」
なあ、はやく。そう言いながら腕を首にまわされればもうだめだった。服を破るように取り払い、大和の胸を撫でる。ちいさな粒はぴんっと主張しており、彼がもう興奮していることを龍之介に教えていた。そのけなげな粒を撫でながら押しつぶすと大和がうっと声を漏らす。
「声、我慢しないでよ」
「……おにいさんにだってプライドがあるんですよぅんっ!ぁ、ちょっと!」
赤くなったそこを吸い上げれば大和があせった様に龍之介の頭を押し返そうとする。押し返すと言っても撫でるようなその動きは龍之介を煽りこそすれ止めることはできなかった。
「あぁっ……も、アンタ……赤ちゃんじゃないんだから……」
ちゅうっと吸い上げ、口を離せば大和がぶるぶると震えていた。吸い上げられたそこは更に赤く色づき、吸っていないもう一方とは明らかに違っていた。そのアンバランスさにずくんっと腰が更に重くなる。もう一方を口に含もうと口を近づけると大和がひゅっと息をのんだ。
彼の視線の先は自分の下腹部。ひっかけるだけだった下着から逸物が飛び出たのを見たのだろう。大和の目は見開かれ、そして期待に輝いていた。
焦すのはかわいそうかな……とまだ慎ましやかな色をしている粒を舌で転がしながら彼の腰を抱き、ズボンをおろす。取り去る時に彼の腰が浮いたのを見て少し笑う。尻を揉みながら奥まりをとかそうとすれば彼の腰がゆらゆらと揺れた。
「大和君、やりにくい」
「し、らない」
「でも……」
「知らないっていってるだろ! こっちは早く入れて欲しいんですよ。集中しろ! 」
フーッと怒った猫のように毛を逆立てる大和。
「ごめんごめん」
髪に口づけて彼をなだめようとすると、早く。と怒られてしまう。あんたのセックスはねちっこいと文句まで垂れられれば、龍之介は笑ってしまう。ローションを多めに垂らし、ならしている間も大和は、小さなあえぎ声とはやく、はやくと譫言のように呟くばかりで、龍之介は恋人との情事というよりはまるでスポーツをしているような心地だった。
大和君がそれでいいのならいいんだけど。男同士だ。甘い関係を期待する方が間違っているのかもしれない。
「大和君……いくよ……」
「っはーキて」
ぐぷぷっと埋め込めば、大和がうめく。慣らしきれていなかったのだろうかと腰を引こうとすれば、龍之介の腰を大和の足がからめとる。
「ちょ、大和君!? 」
「抜くとか……ナシでしょ。早く」
アンタが欲しい。そういわれて龍之介の理性がじりっと焼ききれる。突き上げ、揺さぶれば。大和から甘い声があがる。その声に気をよくした龍之介はどんどんと彼を責め立て、最後には大和にもう嫌だ。と泣かれてしまったわけだが……。龍之介はあまり反省していなかった。だって大和君が……なんていえば大和になにを言われるかわからないので口こそつぐんでいたが、彼が誘ってきたのだから。というのが龍之介の言い分だ。
「そういえば、なんで大和君機嫌悪かったの? 」
「んー……」
ベットでまどろむ大和に問いかければ、半分夢の中にいるような声で返事が返ってくる。
「言いたくないならいわなくていいよ」
「んーと、嫉妬ですよ嫉妬。アンタの腹筋触ったっていう女がいて。そいつが自慢して回ってるのが悔しかっただけです。俺の方がもっと知ってるし、触ったことあるしーってだけ、です」
ふにゃふにゃと答えた理由は小さく可愛い嫉妬心で、龍之介は思わず大和を抱きしめる。
「苦しいです」
「うん」
「寝にくいんだけど」
「ごめんね」
「……別に」
すうすうと大和の寝息が聞こえてきた頃に龍之介は顔をへにゃりと崩す。俺の恋人は世界一可愛い。っていって回りたいのに言えなにいのが辛い。なんていったら大和はなんていうだろうか? 怒るか照れるか……どんな反応だって龍之介にとっては世界一可愛い反応なのだ。