大和くんの部屋がみたい。そう十さんが言い出したのは
春めいてきた日差しの暖かい日だった。

「なんですか藪から棒に」
「だって! 大和くんは俺の部屋に来るから俺の部屋を
知ってるのに、俺は大和くんの部屋を知らないのって不平等だよね」
「まあ、俺は寮暮らしですしね」

 見たい見たいとあまりに頑ななのでなだめすかして話を聞けば、楽と好きな子の部屋の話になったらしのだ。八乙女は女性に夢見ているような部屋の内装をまるで見てきたようにつらつらと語り、龍之介にも話をふったらしい。龍之介は大和の部屋など見たことないのだから、想像など全く膨らまず、しかも恋した相手はかわいらしい部屋を持つ女性ではなく同じ男。男の部屋といえば自分の部屋しか思い浮かばず、自分の部屋の間取りを答えてしまった、らしい。
 以前は部屋によく出入りしていた八乙女は、答えたのが龍之介の部屋の間取りだとすぐにピンときて同棲するから恋人の部屋はどうでもいいってか? とからかって来たらしい。
 全くあいつは余計なことしか言わない……とため息をつきながら、知らないの、悔しかったんだ。とつぶやく龍之介を見る。

「八乙女の考えた部屋だって妄想じゃないですか」
「だって、楽はつき合ってる子いないんだ。でも俺は大和くんとつき合ってるだろ? 好きな子の部屋って実際にあるのに、知らないのってなんだかすごく、もやもやして……別に入りたいってわけじゃないんだ。迷惑かけるだろうし……ただ、一目みれたらって……」

 龍之介の声はだんだんと小さくなり、同じく背がみるみる丸まってく。最後には蚊の鳴くような小さな声で、君のことは全部知りたいって思っちゃうんだよ。ときた。
 そんなことを言われてうれしくないはずもなく、大和は二つ返事で写真をとって送ると約束した。


 寮に帰れば部屋はこぎれいで驚く。ここに住む以前の部屋なんか万年床と空き缶だらけでとても人に見せられるような状況ではなかったのだ。
 気管支の弱いメンバーのために掃除はこまめにしている物の、自分の部屋がここまで綺麗なのには理由がある。
 あんま帰ってないんだもんな。
 龍之介と共に過ごす時間を優先しているため朝早くから全員で収録、というときでもない限り部屋に戻らなくなって久しい。
 ここが俺の部屋って言うよりはむしろ……思い浮かんだのは龍之介の寝室で、一緒に思い返されるのは昨晩の夜の龍之介の表情。あまりにもセクシーなそれを追い出すように頭をかぶり振って、ベッドに腰掛ける。
 部屋は殺風景で、テレビと中央に置かれた椅子。そして以前の部屋に住んでいた頃寂しさに耐えかねて買った掃除ロボットだけで、どうも写真映えしない。
 一応数枚とって、龍之介とのラビチャに貼り付ける。貼り付けてから恥ずかしくなって、何もない部屋ですが。と文字を打ち込んでいる間に既読がついた。

「お掃除ロボットだ!」
「そうです。俺のペット」
「そっか、名前とかあるの? 」

 武蔵です。そう一度打って消す。少しからかってやろう。そんな悪戯ごころがムクムクと起き上がってきて、武蔵にごめんと手を合わせながら、改名させる。


「リュウです」

 すぐに既読がついたものの、なかなか返事が来ずに大和はベッドの上にごろっと転がった。
 怒った? いや十さんに限ってそれはない。ちょっと席を外しているだけなのかも……とスマートフォンを枕の横に置こうとしたその時スマートフォンが震え出す。
 画面に映っているのは先ほどまでメッセージをかわしていた相手で。

「もしもし? 」
「ずるい」
「はあ?」
「ずるいよ!俺だって下の名前で呼んで貰ってないのに! お掃除ロボットは簡単に呼んでもらえるなんて……」
「ちょっと……」
「しかも、ずっと大和くんの部屋にいるし、俺なんか入れないのに!」

 あっけにとられる。この男はお掃除ロボットに嫉妬しているのだ。ぎゃあぎゃあとずるい!と繰り返す龍之介に大和はとうとう笑いがこらえられなくなり吹き出した。

「はははっ」
「笑い事じゃないよ! 俺は……俺は……」
「笑いますよ。だって俺、自分の部屋にいるよりアンタの部屋にいる時間の方が長いのに、アンタ……お掃除ロボットなんかに嫉妬してる」
「え、え? 」
「リュウといるより龍之介さんと一緒にいる時間の方が長いのに、まだ不満ありますか? 」

 電話口で龍之介が息をのんだのがわかる。彼はきっと今自分の発言を恥じて真っ赤になっている頃だろう。その様子を想像し大和は唇をなめて湿らせる。

「もしもし? 今からそっちに行っても? 」
「ああーっ!俺……大人げない……」
「くくっ……リュウも連れていきますから、可愛がってあげてくださいね」

 じゃあまた後で。ピッと電話を切り先ほど改名させたリュウに視線をやる。

「お前、壊れされないように気をつけろよ」

 電源も入っていないお掃除ロボットが冗談じゃない! と叫んだような気がして、大和は一人で笑みを漏らした。


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