また今日も会えなかった。
 大和くんと暮らし初めて半年、お互い多忙ではあったけれど一ヶ月以上会えないのは初めてで、龍之介はがっくりと肩を落とす。
 ドラマ撮影のために早朝に出て行き深夜に帰ってくる大和を待とうと努力はするもののどうしても眠気や翌日のコンディションを考えると日付が変わることには寝入ってしまう。この時ばかりは早寝早起きに育てた親を憎んだ。
 リビングでつっぷいている今も眠気の足音は着実に近づいており気を抜くと船をこいでしまう。
 大和くんにおやすみってだけでもいいたい。テーブルの上に置かれたスマートフォンを操作し、ラビットチャットを開く、おやすまで打ち込んではたと遡るとここ数日、「おやすみ」「はい、おやすみなさい」「十さんおはようございます。行ってきます」しかやりとりをしていなかったと気づき急いでアプリを閉じる。
 これではまるで業務連絡ではないか。もっとこうラブラブしたいんだよ俺は……と必死に頭をひねる。

「何か、他の方法……」

 ふと、目に入ったのはファンの子たちから貰った手紙の束。可愛らしい文字で十龍之介様へと書かれたそれらを見て、ぴんっと閃いた。
 手紙を書こう。あんまり長いと邪魔かもしれないから、小さなメモに一言二言……それならラビチャよりは気持ちがこもったメッセージを伝えられるんじゃないか。
 そうと決まったらと紙を探すが丁度いい紙がない。今日はしょうがないか……と電話の横にあるメモを一枚破って、さあ書くぞとペンを握るがこれがなかなか難しい。そもそもこれまでスマートフォンでメッセージを送ったことはあれど、手書きで手紙を送った事など無かったのだからつい肩に力が入ってしまう。
 まるでラブレターを書いてるみたいだ。なんて一人ごちながら書き上げたメモは、小さな用紙をびっしりと埋めてしまっていてつい苦笑してしまう。これじゃめんどくさがりの大和くんに読んでもらえないかも。でも、返事がもらえたらいいな。と思いながら、ビールの王冠で重石をして寝室へはいった。すぐ見たかどうかがわからない手紙を待つこのそわそわした気持ちを抱えて龍之介は目を閉じた。



 ピリリリという目覚ましにたたき起こされ、ベッドをでると想像していたよりも空気が冷たく身を震わせる。目が覚めたら大和くんが隣に眠っていて……なんてことはなく、体温すら残っていなかった。
 今日も早かったのかな……いつ帰ってきたかもわからないし、疲れてないといいけど。
 開けはなったリビングへの扉からはふわっと暖かな空気が流れ込んでくる。そしてコーヒーの香り。

「よっ、久しぶり」

一ヶ月ぶりの恋人が、にやにやとしながら俺の書いたメモをひらりとさせた。

「やっ、やまっ!?」
「どーもお兄さんです」
「今日撮影は……?」
「久々のオフなんだ。驚かせようと思って黙ってたんだけど、十さんからのラブレターにおにーさんが驚かされちゃった」
「そうなんだ……」

 予想外の事態におろおろとしてしまう。大和くんはにっと笑うと、龍之介の前までとととっと歩いてきて、朝に似つかわしいさわやかな笑みを浮かべる。

「今日も会えなくて残念です。ラビチャだけだとちょっと寂しい気がして手紙を書いてみたんだけどこれって恥ずかしいね(笑)」
「わーっ!わーっ! 」
 メモの内容を読み上げる大和を止めようとするがひらひらとかわされてしまう。そしてそれだけでなく足を滑らせた俺は尻餅をついてしまった。

「いてて……」
「大丈夫? 」

 うん、大丈夫……と答えようとして違和感に気付く。大和くんの声が聞こえる位置が余りに低い。おそるおそる声の方向に視線を向ければ彼は俺の股間に顔を近づけて声をかけていたのだ。

「はぇっ!? 」
「朝から十さんは元気ですねー」

 おーよしよし、痛くなかったか?と声をかけながら、生理現象でピンと張ったテントの頂を撫でられて、腹筋がびくっと痙攣する。
 そんな龍之介の反応をちらりとみた大和はくくっと笑いながら染み出してきた先走りをぬりこめるように撫でていく。

「大和くんっ!も、う!」
「うわっ」

 大和くんの肩を押して床へ押し倒す。不安定な体制をとっていた大和くんは驚くほど簡単に倒れた。

「……あんまりいたずらすると怒るよ」
「ほんのお礼のつもりだったんですけど」
「嘘、からかってただろ」

 押し倒されているというのに大和くんは、まあ少しはなんていってクスクス笑っている。

「でも、手紙うれしかったのはホント」

 ああ、もうこの子は……首筋に鼻を寄せると大和くんの匂いがした。いつもより強いそれを肺に閉じこめるように大きく深呼吸すると思い出したかのように大和くんが暴れ出す。

「十さん!俺風呂はいってないから」
「うん、大和くんの匂いだ」
「〜〜〜っぅ!」

 鼻面をぐりっと押しつけながら目を開けば眼前の耳は赤く染まっており、照れているのだろうかと思うとつい可愛くなって耳朶を軽くはみ、耳の裏にキスを落とし首筋をたどっていく、鎖骨を唇でなぞりながら、程良く筋肉の付いた胸を撫でると大和の口から、あっと声が漏れる。
 肉を集めるようにかき混ぜながら、時々胸の一点をじらすようにかすめれば、快感を逃がすように大和が頭を振っているのが見える。

「おっぱいきもちいの?」
「やっ……ああ……そこ、ばっか……」
「そこって?」
「しっ、てるくせにっあぁっ! 」

 少し芯を持っているそこをきゅうっとつまみ上げると、くっと大和の体が反り、そして、じわっと股にできたシミが広がっていく。

「もしかして、イっちゃった? 」
「ぅー……っは……」

 ズボンの上から股間をなでると、ぬちっといういやらしい音が響いて、思わずあぁ……と声を漏らしてしまうと、ぐったりと脱力していたはずの大和くんががっと臑を蹴飛ばしてきた。

「いっ……たいだろ! 」
「うるさい! 」

 ぶるぶると震えながら顔を真っ赤にしている大和くんは可愛いが、攻撃はぜんぜん可愛いものではなくかなり重たいものだった。
 大和くんとラブラブするために手紙を書いたのに……臑めちゃくちゃ痛いし……
 すごいセックスしたいし。
 ぷつっと何かが切れる音が耳の奥で聞こえた。

「大和くん……」
「なんだよ……ぅえぁ!?」

 腰を掴み強引にひっくり返すと、乱暴にズボンをはぎ取る。下着は彼の先走りと精液でしとどに濡れており、少し萎えかけた性器に張り付いていた。
 それもはぎ取るように脱がせると、大和の先走りのすべりを借りて、後ろへ指を押し込もうとする。

「いってぇ……」
「大和くん俺、言ったよね……あんまりいたずらすると怒るよって」
「ひっ……」

 第一関節がすっぽり埋まったところで、指先でひっかけるようにして広げていく。すこし隙間ができたのを見計らいもう一本をぐりっと押し入れた。

「ひぎっ……ぃ……ああ……」
「ちょっと痛くしてもいいよね? 」
「あ、あぇ……」
「ねえ、わかる?大和くんのここ、ぎゅうぎゅう俺の指食べてるの」
「わかる、っかよ……」
「そう……」
 
 女性のように濡れはしないそこは先走りだけでは思うように滑らずひきつり龍之介が浅いところを抜き差しするだけでも大和は苦しそうに呻いている。
 ちょっとかわいそうだと思ったがそれ以上に興奮の方が強く、大和の萎えかけているペニスに指を這わせる。
 数回強くしごくと思い出したかのように質量を増し淫らな涙をこぼしはじめる。それをすくい上げ塗り込めていく。すると少しずつ縁が柔らかくなりほころんでいく。
 ぐぽぐぽと音をたてながら開けば外気に感じたのか中がきゅっと収縮する。
 もう一本と指をかけたところで、大和の肩が小刻みに震えていることに気付いた。指を引き抜き顔を見ればすすり泣いていた。

「えっ」
「…も……もぅやだぁ……」
「ええっ!?大和くん泣いてるの」

 大和が龍之介の前で涙をみせるのは、ベッドの上での生理的なもの以外なかったので動揺しておろおろとしてしまう。

「だって……お、俺、久しぶりで……楽しみにしてたのに、十さんいじわるするし……怖い」

 がんっと頭を殴られたような衝撃だった。彼も一ヶ月ぶりの再会を楽しみにしていたということと、それなのに些細なことで怒り怖いとまで言わせてしまったということにショックを受ける。
 大和くんが茶化して優位に立とうとするのは照れているからだってわかってたじゃないか。なのに俺は……

「ごめん!」

 手をついて頭を下げる。怒りなんて消えてしまい申し訳なさと、好きだという気持ちがぐるぐると渦巻いて、俺を切なくさせる。
 大和くんはしゃくりあげながらこちらを向き何か考えているようだ。そしてゆっくりと手が振り上げられるのがわかった。殴られて許されるならと、奥歯を噛んで耐えようとするが思っていたような衝撃はこず、ぺとんと頬に手を添えられ、上を向かされただけだった。
 小さめの瞳を潤ませながら俺を見つめる大和くんはすごくえっちで、俺の愚息はまた質量を増していく。

「キス、してくれたら許す」

 ほら、というように目を閉じられれば、きゅううっと胸が締め付けられたような心地になる。
 可愛い。
 可愛くて全部好きだ。期待に震える睫毛から滴る涙を指ですくい上げ頬を撫でと気持ちよさそうに吐息が漏れる。そしてその息を奪うように口づければ首に手を回される。
 そして俺たちは、やっと一ヶ月ぶりの再会を喜び合ったのだった。



 「そういえば十さん、今日仕事は? 」
「昼から雑誌のインタビューだけ」
「じゃあ、晩ご飯は一緒に食えますかね」
「えっ、大和くん作ってくれるの!?」
「俺も昼から事務所の方に顔出すんで凝ったものは作れねえけど、それでもいいなら。あ、それとも何か食いに行く? 」

 この前旨いってきいた店があるんだよなーとスマートフォンをいじりだした大和くんの手をつかんで、こちらを向かせる。
 驚いて猫目が丸くなるのがとても可愛い。

「大和くんの、手料理で、お願いします」
「わかったよ。早く帰ったら手伝ってくださいよ」
「うん!すぐ帰ってくるから」
「いや、仕事はしっかり終わらせてこいよ? 」

 なんて軽口を叩きながら、コーヒーを飲む。
 いつまでも昼が来なければいいのに。なんて考えながら俺は幸福な朝を愛しい恋人とともに過ごした。

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テーマ「人外ファンタジー」
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