Re:CREATORS | ナノ



少女の物語は終わらない


目を覚ますと、頬にぽたぽたと水滴が落ちる。膝の上に頭を乗せて、少し上に顔が見えた。
まみか≠ェ涙を流していた。

「ま、みか…?」

名前を呼べばビクッとして、一層涙を流した。

「よかった…せっかく、また会えたのに、今度はアリスちゃんが…」

嗚咽が堪えきれず、ぽろぽろ溢れる言葉に違和感は感じなかった。彼女はずっと忘れてなどいなかったのだ。独白の様に少女を語りはじめるのを、私は聞いていた。



あなたには、心当たりのないことだって知ってる。頭のおかしな人間だって思われてもいい。でも、もう私は自分に嘘をつきたくない。あなたを騙し続けたくない。

すぐ名前を間違っちゃうし覚えられないのに、この名前だけは覚えてた。私の探しているお友達はアリステリア・フェブラリィ

アリスちゃんーーーあなた、なの。

私たちは神様の世界で巡り会った。私はあの時、なんにも知らない子供で、話し合えばみんな仲良くなれると思ってた。神様の世界を変えれば、私の世界もみんな仲良くなれるて信じてた。あなたに助けられて、たくさんのごたごたがあってうまくいかなくて色んなものをしって、色んな人に出会って、私はいつの間に考え方が変わっていった。

あの人は私たちに嘘をついていたけれど、私はあの人の考え方を変えられる。あの人も大切なお友達だから、そう思ってた。でもーーー間違いだった。私には彼女を救うことは出来なくて、彼女の心の傷を、逆鱗に触れて私は死んでしまった。あなたを置いて逝ってしまった。

気がつけば、元のいた世界に戻っていて、長い夢を見ていたんだってベットから飛び起きたの。キッチンに行けばお母さんが朝食を用意していて、テーブルでお父さんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでた。遅刻するわよて言われて、急いで学校へ行って、通学途中でお友達と喋って、勉強して、妖精のミリミリと共にお友達とアクマリンを倒して、家に帰って一日が終わるーーー私の当たり前の日常。あれは夢なんだってそう思おうとしたけれど、誰かが忘れちゃダメって言い続けてた。だから、お友達やミリミリや永遠の国の妖精たちに話したの。流石にこの世界は物語の世界だということは伏せたけれど…結果は最初みんな信じてくれなかった…普通はそうだよね。私はこのままじゃいけないと思って図書館に本や資料とか読み探してたら、そのうちみんなが私が納得するまで付き合ってくれたの……私の物語が終わってハッピーエンドになった後も。

最後の戦いでアクマリンを倒して、アクマリンは元の姿に戻り、永遠の国に微笑みの力は戻って平和になった。ミリミリは永遠の国に帰って、私はもう魔法が使えなくなって普通の女の子に戻る。みんなと楽しく過ごす日常を送る。それが、私のお話≠フ結末。

結局、私があの世界で願ったことはなんだったんのか、無駄だったのかな、て。そんなことを思ってしまった。どんなに探しても見つからない、あの世界に繋がるものは私の幻だと諦めようとした。でもね、そんな私に叱咤してくれたのはあのアクマリンだった。アクマリンは私の話をばかにしてたけれど、本当は信じてくれてたの。元の姿に戻ったアクマリンは、私にこう言ってくれた。

《最後まで永遠の国もわたしのことも諦めなかったおまえが、大切にしているその思い出は諦めてしまうのか》
《わたしを戻してくれたのはおまえ≠セ。永遠の国を守ったのはおまえ≠セ》
《おまえがその思い出を信じ続けるかぎり、それはおまえにとっても本物≠セろう》
《おまえが納得するならそれでもいい、だけどわたしたちはおまえがソレを追い続けるなら、いつまでも手伝ってやるさ》

頭をね、がつんて殴られるくらいの衝撃だった。周りにはアクマリンだけじゃなくて、お友達も、帰ったはずのミリミリもいて側にいてくれた。私ね、嬉しかった。

それから長い月日が経って、本を買いに行ったらあなたの物語が置いてあった。あれだけ探してもなかったのに、ある日普通に本屋で売られてた時はしばらくフリーズしてたんだよ!本持ったままだから、本屋のおじさんに心配されちゃった。

すぐ、みんなに伝えに行ったよ。すごくびっくりしてたし、不思議がってた。私も同じ気持ち。そしたら、次は永遠の国に不思議なことが起こったてミリミリが教えてくれた。微笑みの力には影響はないけれど、別の世界に通じる道ができてしまったて!

ご都合すぎるでしょう?あなたの物語が私の世界に現れて、永遠の国に別の世界に通じる道ができる。だけど、だけど!きっと、神様が私たちをあわせようとしてくれているんだ!て、そう思うことしかできなかった!

妖精さんたちは私に、マジカルスレイヤーの力をくれて、お友達とアクマリンは見送ってくれた。急に私がいなくなちゃうんだもん、お母さんとお父さんは心の残りだった。でも、妖精さんたちやミリミリが、二人は守るからて後押しして私に勇気与えてくれた。

《いつ帰ってこれるかわからないけれど、まみかは必ず帰ってくるよ》
《それまでもこれからも、君がいなくなった世界を守るから》

ああ、私はなんて暖かいひとたちに囲まれいるんだろう。私が思ってる以上にこの世界は優しくて強くて暖かい世界なんだ、て。私は私の神様≠ノ会えなかったけれど、私の神様はきっと優しいんだと思う。そうでなければ、私は私でいなかったかもしれないから。

そして、私はあなたに逢いにきた。

不安はあったよ。私は覚えてるけれど、アリスちゃんは覚えていない可能性があるって。そもそも、私の見知ったアリスちゃんなのかもわからないから。でも、例えそれでも構わない。



魔物と対面した時のように、何か覚悟をしたような表情で少女は言う。

「あなたが覚えていなくても、思いだせなくても、違うアリスちゃんでも、アリステリア・フェブラリィと私はーーーまた、あなたとお友達になりたい」


泣き止んだ少女は言う。ゆっくりと紡がれる言葉は、暖かさと誠実な気持ちが込められていた。


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