Re:CREATORS | ナノ



騎士は少女に詰問する


アリスちゃん

私のことをそう呼ぶのは、夢の中の少女だけだ。私の記憶の中の少女だけだった、はずだ。まさか、幻覚まで見えはじめたのか?だが、今は…その夢を思いだす必要はない、いつまでも無防備はいるのは駄目だ。どうであれ得体の知れない術者が、この国に侵入したのを目撃したのだ。この国の王族、騎士として見過ごす訳にはいかない。

「…貴様はどこの者だ?ここは神聖ウルターシュタイン王国の領土内の森だ。許可もなしになぜここにいる?なぜ、私の名を知っている?」

これは侵入者に対する当然の詰問だ。目の前の少女からは、まったく敵意も害意がないのを感じているにも関わらず。沸き上がる色々な感情を誤魔化して。

少女はしばらく呆けたまま涙を流していたが、はっと気づき涙を手で擦って拭いた。それから、またこちらをじっと見て少しだけ寂しそうな表情で笑った。

「…ごめんなさい…あなたが私の探している友達に似ていたから」

その表情に鼓動が早くなる。少しの罪悪感…いくら夢の少女と重なるからといって、曖昧にさせるなどあってはならない。

「つまり私が、探しているという友達に似ていたので、その…アリスちゃん≠ニ呼んだと?」
「似ているというか、すごくそっくりで…鎧を着てるというか…」
「否定するつもりではないが…己で言うのもなんだが、私に似たその友とお前はあまりにも視覚的に釣り合わないと思う気がする」

繊細で小柄な少女と、厳つい鎧を着た女騎士の組み合わせである。想像して視覚的な違和感が強烈だ。

「そんなことないよ!アリスちゃんは、とっても優しくて強くて、私のこといつも助けてくれたんだよ!それに見た目があわないとか、あうとかの問題じゃない!アリスちゃんだから、どんな姿でもどんな立場でも友達なんだよ!」
「わかった。わかったから、あまりその名前を連呼しないでくれ。違う人間といえど、名前の一部分は一致しているんだ、背がむず痒くなる。その呼び方は」
「…えへへ!」

少し怒った口調から、急に照れたように笑う少女。ころころ感情豊かなその反応から滲み出るお気楽臭に脱力した。武器を突きつけていないとはいえ、その鎧を着た者に問いただされている状況に焦らないのかと言ってやりたくなる。おっと。待て。論点がズレている。

すっかり少女に巻き込まれていたが、現状なにもわかってない。話を戻すように口を開いた。

「話の腰を折るが、私の質問の殆どを答えてないぞ」
「あ、えっと…お喋りしちゃってごめんなさい!」

きつい口調に怯えが見られず素直な謝罪に、こちらも一貫して厳しい態度を貫けなくなりそうだ。

「あの、私が話すことはあなたにとって、たぶん、信じれないことかも知れない、と思う。それでも、私はあなたに嘘はつかない」

先ほどと打って変わって、真剣な雰囲気とかわる。言葉を選ぶように喋る少女は、詰まりながらも誠実に答えるので拍子抜けしてしまう。

(どうも、調子が狂う)



「私はーーーこの世界の人間じゃないの」

真顔で告白しはじめた少女。その返答には突拍子があり、すべて信じるという判断は今の段階ではできなかった。


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