Re:CREATORS | ナノ



まだ淡い感情は無い




下校中に連絡があり。松原さんのところでいつもの集まりがあるため、帰路を急いでいた。

「ちょっと、そこのオニイチャン。オレ達、君に用事があるんだよね〜?」

「え?」

事件はある日、突然起こった。







(まずい、な)

下校中。いきなり怖そうな人達に絡まれ、人気の無い路地裏に連れ込まれてしまった。

壁際に追い詰められて、逃げ道も奪われている。あ、これよく漫画とか小説とかで見る展開だ、と僕の頭は既に現実逃避を始めている。いやいや、現実逃避している場合ではない。この怖い人達に絡まれるようなきっかけがあったけと、頭をフル回転して記憶を探るけど思いだせない。そもそも、今『関わってること』以外危ない事件に関わっているなんて…どうしよう。

(この人達、僕を誰かと勘違いしてるんじゃ…ーーーもしかして、築城院の仕業か?)

いや、待て。それはないな。彼女なら直接仕掛けてくるはずだ。

彼女の会話はまどろっこしいけど、こんな関わりもカケラもない相手を仕掛けてくるほどまどろっこしいことはしないはず…近くで仕掛けた相手の反応見るのが好きな奴だ。それは、それで嫌だけど!

思い浮かんだ考えは即座に消す。

(じゃあ、一体なんで…)

目の前の人達はニヤニヤと、どこかいやらしい笑いをしている。それは、まるで弱い者虐めをしている連中のあの表情に似ていた。その表情を見て恐怖の感情とは違う、悔しくてと惨めになった。

目の前にいるピアスだらけの男が、口を開く。

「オニイチャン、あのさ」

「ひっ…なんでしょう」

「紫色のサングラス…あー、紫色の派手な男知らないかなぁ?なんつーの、なんかの漫画のコスプレした木刀持った奴。それはいいとして、ソイツにオレ達、用があるのよ」




(紫色…派手…コスプレ、木刀って………弥勒寺さんだ!!!)

現在関わりのある人物で、真っ先に思いつくのは彼しかいなかった。
血気盛んな人ではあるけど、この世界に来てからは理性的な部分だってある。むしろ、この世界を純粋楽しでいる一面もあった。彼の行動は詳しく把握してないけど、喧嘩を無作為に売るようなマネはしない…と思う。

目の前のピアスだらけの男は、ニヤニヤした顔からうってかわってブチ切れた表情に変わった。

「せっかく目をつけた女の子をね、みんなとたのしーく遊ぼうとしていたのにソレを邪魔されちゃったのよ〜?ぼこぼこにされるわ、おまけにソレが周りにバレてうちのチームは壊滅状態………全部、全部あいつのせいだ!」

急に豹変した男が真横の壁際を拳で殴る。後ろの男の仲間達はそれを見て『ギャハハハ、コイツ、またブチ切れたぜ』と下品に笑いあっている。

「探しまわっても見つからなかった!でも、この前、ようやく見つけた!スゲーいい女侍らせてたから、そっちを狙ったらまた更にボコボコされるしよ!なんなんだよあいつ!クソっ!くそッ!それで、お前もあの中にいたからさあ、お前弱そうだし、あの野郎の身内そうだし、お前でいいかと思ったんだよ!とにかく、運が無いと思うん…だな」

めちゃくちゃだ、こいつら。

頬をすれすれに拳が過ぎ去るが、恐怖を感じていた感情は怒りに変わりつつあった。こいつら、セレジアさん達にそんなことしようとしてたのか!!話し振りからして未遂すらならなかったようだけど、これを聞いて何も思わない訳がない。

「………自業自得じゃないか」

「ア?今なんつった」

「………あなた達はその女性や彼女達に無体を働こうとしたところを、弥勒寺さんにボコボコにされただけじゃないですか!そして、敵わないから一番弱そうな僕に矛先向けて、八つ当たりしようとしているだけじゃないですか!」

僕は馬鹿だと思う。
僕を弥勒寺さんの舎弟かなにかに、間違えられているんだろう。勘違いを肯定するように言葉を洩らしても、酷くなるだけなのに。どの道、ただですまなさそうだ。最初から八つ当たりを僕にしようとしているんだから。

「…自分がどういう立場かわかってんの?」

完璧に目のイッた目の前の男は、ポケットから小型のナイフを取り出した。

(…っ。こ、ろされるっ!)

振りかぶった男のナイフ辛うじでかわすと、僕は倒れこんでしまった。鼻をうちつけて鼻血が出た。

「ニゲんじゃねーよ」

「おいっ、待てよ!殺しちまったら、流石にヤベーだろ!」

周りの男たちは、ピアスの男の行動に驚いたのか止めにはいっている。だが、止めにはいった男の顔面を、ピアスの男は片手で殴りつける。

「グッ」

「どいつも、こいつも、どいつも、あああああああああっ」

発狂した男は、無茶苦茶に暴れ始め仲間達が逃げまわる。近くには僕と男としかいなくなり。ゆっくりと男はこちらを振り返った。遠巻きにいる仲間の声にも目もくれず、ブツブツと呟きながらこちらに近づいてくる。


その光景はやけにスローモーションで。


ナイフの刃先が顔面に振りかぶった時、何か物凄い勢いで目の前の男がナイフもろともブッ飛んだ。ガンっと音と共に硬い壁に激突した。







目の前の紫色。見慣れたその紫色は。


「テメーが用があんのは、俺だろ」


守るように目の前に大きな背中あった。微かに見える輪郭は、こちらを振り向かず前を向いている。彼が、今どんな表情しているのか分からないけれど、とてもとてもーー怖い。

板額も居らず、いつも持ってるはずの木刀はなく、丸腰の彼から滲み出る殺気はどんどん周りの空気を冷やしていく。

僕も、遠巻きにいる彼らも身動きすらできない。

時が、止まったように感じた。



「ふう、おいおい…一発で伸びちまってんじゃねーか」

しばらく無言のままだった、弥勒寺優夜は呆れたように声を洩らした。
突き刺さるような殺気と、重苦しい空気は離散され幾分か空気は軽くなり、僕は息をはいた。

「…っ」

それがきっかけか、遠巻きに居た男の仲間たちは弥勒寺さんに向かって襲いかかってきた。それは、防衛本能かどうかは知らないが、殺られる前に殺れという言うように動いているようだ。

正直、逃げた方が賢明だと思う。殺気は消えても、怒気は消えていない。

……つまり。


「ーーー丸腰の相手なら、勝てると思ってんのか?」

弥勒寺さんの周りに、エフェクトが見える気がする。
襲いかかってくる敵の拳やら鉄パイプなどあってもないように軽くかわして、的確に急所を直撃し次々と混濁させている、のか?というか、速すぎて何が起こったのかよくわからない。

テンポよく鳴る鈍い音を、BGMに。

「いつのまに、この世界は閉鎖区みたいな…」

不良同士の喧嘩ではなく力量が天と地の差があり、一人による目の前の公開私刑。

僕は遠いどこかを見るしかなかった。







「颯太、大丈夫?立てる?」

現実へと引き戻すように、聞き覚えのある声が聞こえた。

「か、鹿屋」

弥勒寺さんの木刀を持つ、鹿屋瑠偉が近くにいて吃驚する。心配するような怒ったような表情で、こちらを見ている。

「…酷い顔。鼻血出てるじゃん。あの下衆にでもやられたの?乾いちゃってるから、水か濡れた物で吹かなきゃね」

「あ、いや、これは…」

こいつらのせいではあるが、元は自分の身体能力の低さから招いたものだ。でも、正直に話すのは恥ずかしい。口をぱくぱくさせていると、鹿屋の背後に残党らしきやつが殴りかかっているのが目に写った。

「鹿屋、あぶな」

「よっ、と」

僕の声よりも先に、鹿屋はごく自然に後ろ蹴りで背後にいる男の足を払いのけた。転倒した男は頭部に打って気絶した。手に長物持ってるいるというのに実に器用だ。

アホのように口を開けたまま、鹿屋と気絶した男を交互に見る。その視線に訝しんでいた鹿屋は朗らかに笑う。

「大丈夫!殺してないよ!脳震盪おこしてるだけだから」

「笑顔で、言うことじゃないよ…それ!!」

目の前には、何事もなかったように話す鹿屋。

トドメさす光景に、もはやこの展開についていけない。






弥勒寺さんの周りには、死んではいないものの…死屍累々、だった。


「おい、颯太。大丈夫かァ?オッさんのところに来るのが遅ィから、GPSなんちゃらで、迎えに来てみたら、とんでもないことに巻き込まれやがって」

事を終わらせた弥勒寺さんが、こちらへとやって来る。周りは地獄絵図と化しているのに、汚れ一つないところがかえって恐ろしい。その一端は貴方にもあるんですとは、口が裂けても言えない。

「だ、大丈夫です」

なるべく平静を務めて声をだそうとしたけれど、上擦ってしまった。
弥勒寺さんが僕の顔をまじまじ見て、無表情になると。

「……全然、大丈夫じゃねえな。顔が血塗れじゃねーか。やっぱ、もう少し…」

半殺しで済んでいたのが、皆殺しになりそうなので必死に声を荒げた。

「み、弥勒寺さん!これは、転んで鼻をうってしまって、僕のせいで、奴のせいでも、えっーと、その」

「冗談だよ。俺はどこそこの笑い袋みたいに殺しはしねーよ…ショウの件もあるしな」

からから笑っているが、彼がその名前をだすと少しだけ低く呟いた。無造作に顔の血を拭われる。僕は聞いてはいけないような気がして、そっと聞こえないフリをした。

「颯太」

「はい?」

「巻き込んじまッて、ごめんな。怖かっただろう」

なんとなく顔が見れなくて下に俯く。

「…怖かったんですけど、また助けてくれた、から。ありがとうございます」

弥勒寺さんがわしわしと、僕の頭を撫でていた。よく撫でるなこの人。





きょろきょろ探すように、辺りを見る弥勒寺さん。

「ところで、鹿屋はどこだ?」

「鹿屋なら、菊地原さんに連絡しに行きました。もうすぐ戻ってくるはずです」

「別にいいだろーが。こんくらい」

「路地裏でも、この世界で大量に怪我して倒れていたら只事ではないんです…人気が少ないとはいえ、野次馬騒ぎのならなかったのが奇跡です」

言いながら立ち上がろうとしたら、足に力入らない。両手を地面につけて、踏ん張ろうとしても無理だった。この際の、まさか腰が抜けてるなんて。

「そーかい…おい颯太…おめえ、立てないのか?」

速攻で気づかれて、恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。
それを見て察したのか、頭を掻きながら頷くと、さっと両手を背中と両足を持ち上げて横抱きに抱き抱えられた。

「颯太……ちゃんと食ってのか?メシ?」

「食ってますよ!?そもそも普通は軽そうに、同性の男を持ち上げられませんよ!?おろしてええええ!まさか、このまま帰るつもりですか!?」

「腰抜けてんだから、どうすんだよ」

「おんぶ!せめておんぶ、それか俵担ぎ!これよりはマシ!」

僕に対する認識はどうなっているんだろう。今日一日で、たださえわずかに残った男の矜持が粉砕されつつあるのに、比べる対象が違いすぎるから仕方ないけどさ!





築城院の件、今回の件があわさり、みんなからは心配されすぎて当分つきっきりになってしまった。申し訳なさと、色んな意味で僕は弥勒寺さんに対する複雑な感情に悩まされる日常になっていく。


わりかし窮地に陥っていたこの事件は、大事に至らず秘密処理に片付けられた。









【おまけ】


(うーん、僕ってお邪魔なのかな…弥勒寺の兄ちゃん、無自覚にとんでもないことにしてんな。颯太は普通の反応っぽいけど…過保護すぎるような気も…弥勒寺の兄ちゃん、殺したらヤベーからって僕に木刀を預けるし、ううーん、まさか、ね?)


頬をぽりぽり掻きながら、連絡の終えた鹿屋瑠偉は二人のいる場所に入って行けずにいた。


17/6/19

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