Re:CREATORS | ナノ



いつだって彼は誰かを助ける




水篠颯太は、ゆっくりと目を開けた。

(あれ?僕、いつの間に寝てたんだろう?)

寝ぼけた頭でしばらくそのままでいると、自身の服が病院服に変わっていることに気づいた。寝ている場所も病院のベッド。あの後すべて終わってから、気絶したに違いないと推測しなくても分かった。

(怪我なんてしてないのに…僕は、本当に弱いな)

またネガティヴになりそうになり、気持ちを切り替えるため窓の外を見る。
外は明るく、夜が明けて朝になっていた。病室を見回すとテレビでしか見たことないくらい部屋は広く、ベットは自分が今寝ている一人分で、部屋の中の物はどれも高価に見える。これは所詮VIPルームの一つなんだろうか。金銭は要求されないと思うけど、でも、なんだか居心地が悪い。閉じた扉の外に人はいるのか。


時間が気になり病室の時計を探すと、時計の針はもう昼を過ぎている。
ただでさえ最近帰りが遅くなったり、出歩くことが増えて不思議がられているのにこればかりはもう誤魔化せないだろう。こんな風に帰らなかったのは初めてで、母親の反応が怖い。
…もしかしたら、 もしかしなくても菊地原さんたち政府の人が対応してくれているのかもしれない。





そこまで考えて、無意識に先延ばしている。
色々と考えていることがぶわっとわき出した。

それは、シマザキさんに対する長く引きずっている後悔、黙っていた罪悪感、単独で危険人物と接触、まみかちゃんを巻き込んでしまった後悔、無遠慮に暴かれた傷、助けられた安堵、受け入れられた安心。

そして。

アリステリア・フェブラリィとの対峙。

先刻の戦いで傷ついた、セレジア・ユピティリア、メテオラ・エスターライヒ、弥勒寺優夜の容態。

メテオラさんも弥勒寺さんも戦いでボロボロだったが、特にアリステリアさんの槍で貫かれたセレジアさんの怪我は酷かった。改変で回復し凄い力をまとったものの、一時的ですぐに解かれてしまった。



力なく倒れるセレジアさんを思いだす。

いくら『被造物』といえども、実際に痛みに苦しみ大量の血を流していた彼女の姿に血の気が引いた。今、目の前で起こっていることは『現実という再認識』と、また自分は何もできず『会うこと』ができなくなる、のだと。




思考を中断させるような、そんな感じでーーー急に、病室の扉が開いた。

「……っ、ふう。ここには人が居ねーな?ようやく煙草が吸える……ったく、この世界は色々イイもんあるが、ルールだのやかましくて嫌になるぜ………て、なんだ…颯太ちゃん居たのか?また、酷いツラしてんな」




扉を開けた人物は、弥勒寺優夜だった。






扉を閉めてずかずかと入ってきて、窓を開け煙草吸っている。彼は何も言うでなく、外へと煙をはいていた。今、ものすごくなんとも言えない微妙な雰囲気に包まれている。
彼と僕は真逆の性質だと思っているし、今まで関わったことのない類の人間だった。(それを言うと、最近関わった人すべてにも言えるけれど)

居心地悪いと思っていた場所にプラスされて、恐怖心ではないけど妙に心拍数が上がっていた。何か話そうとすれども元々会話は得意じゃなく、この状況でどういう風に接すればいいのか分からないでいる。彼と話す時は、セレジアさんやメテオラさんと周りに人がいたので、こう面とむかって会話をするってことはなかった。なのに『颯太』と呼んでくれるのが、不思議だった。

(…どうしよう)

世間話はおかしいような気がするし、セレジアさんたちはどうなったのか。外の状況を聞いていいのか。そもそも彼も相当重症を負っていたはず。首や手首まで包帯が巻かれているし絶対安静のはずなのに、抜け出してこんなところで煙草なんて吸ってていいのか、とか。

(ああ、そうだ)



「おい、颯太」

「は、い!」

「聞きたいことありゃ聞けばいいじゃねえか。それと、そのうじうじなんとかしろ。辛気臭くてしゃあねェ。その百面相もな」

「ひゃ、百面相していたんですか、僕!?」

こちらを見ていなかったように思うが、彼は視野が広く周囲の機微には聡い。ただ。

「俺は頭に血が上りやすいし行儀が悪りィが、一応これでも、な?」

…自覚はあるが気にしていないのか。だが、それも自分だと受け入れ、チームを率いるラスボスの器に、憧れる。こんな人だから、彼の仲間はついていくんだよな。

(こちらの世界でも、この人柄に惹かれてラスボスキャラだが人気一つ飛び抜けていたからなぁ)





「弥勒寺さん…助けてくれて、ありがとうございました」

「あ?」

「築城院に追い込まれていた時、弥勒寺さんとメテオラさんが駆けつけてくれなかったら、僕は貴方の言う通り自滅するまでいいようにされていた。気づいてくれなかったら、僕はきっと誰にも相談なんて、言えなかったーーーだから、本当にありがとうございます」

「………」

深く深く頭を下げ、辺りは静寂に包まれる。

「…たくっ、はぁ…」

弥勒寺さんがため息を一つはくと、どかどかした音がして顔をあげようとすればわしゃわしゃと頭を撫でくりまわされた。

「そういうのは、めっちんに言え。お前の様子が変だって心配して、俺に力を貸してくれと頼んできたんだぜ?昨日のアレは、胸騒ぎもあったんだろうが…まあ、そこらへんは後でめっちんとちゃんと話す機会はあるだろ」

頭から手を離し、ベット横に備えつけていた椅子に座る。吸っていた煙草は灰皿に捨てられていた。

今日はちゃんと灰皿に捨ててある…めっちんてメテオラさんのことかな。
近くに座った彼の顔を見ると、ニヤリと笑っていた。


「あの、メテオラさんとセレジアさんは…」

「そう急かすなよ。二人は無事だ。俺たちは致命所じゃねえかぎり、普通の人間より回復力はあるらしいからな。めっちんはそこら中ばっきばっきだが、手当を受けてから一応安定している。ま、凄いのは瀕死のはずセレジアの回復力だけどな。本来なら死んでいるはずの傷だが、奇跡的に生きているらしいぜ。今は意識はまだ戻ってねーが、そのうち目覚める、だとよ」

「弥勒寺さんも、重症のはずですが」

「あァ?俺はアレだよ。動けないように見えるか?」

「…見えません。むしろぴんぴんしているようにも見えます」

「俺は、そういう世界出身だからな。骨折れても、ぼこぼこにされても多少は大丈夫なんだよ。痛てェもんは痛てェけどよ」

なんとなく言いたいことは分かる。少年漫画バトル系の登場人物たちのタフさとか、その登場人物に言われてしまうとなんとも言えなくなる。



いつの間にか、自然に話せるようになっていた。






「でも、駆けつけて正解だったけどな。本当にとんでもない女に引っかかりやがって…あれは、お前一人じゃどうにもならねえ。めっちん並みのスルースキルねぇと難しいわ」

「そういえば、その築城院との、戦いは…」

実に聞きにくい内容だった。築城院の言葉はまだちくりとするし、そもそも弱みを握られて自分がほいほいと会ってしまったから、こんな事態になった。ブリッツ・トーカーの銃弾からセレジアさんを守るために、弥勒寺さんがは自分の戦いを中断してきたんだと思っている、けど。



僕が言い淀んでいると、弥勒寺さんはさらっと言い放った。



「実質、あいつの一人勝ちだな。板額もとられちまったし」

「え…?」

「一人じゃどうにもならなかったのは、俺もだってことだ。始終、血が沸騰してたわ。ことごとくあの会話すべてを煽る喋り方がうざすぎて、性別が女だが何度ぶん殴ろうと…一発もぶん殴れなかったのが余計腹たつ」

「えええ!?それ、ちょっピンチなんじゃ、その…板額てとれるんですか!??」

「うるせぇ」

「痛っ」

額に強烈なデコピンをお見舞いされる、拳骨を落とさないところが彼なりの手加減らしい。痛みに悶えながらも、弥勒寺優夜の現状が積んでいることに肝が冷んやりしていた。

本人はぴんぴんしてるけど重症で、築城院には神木・黒薙丸が効かなくて、対抗できる板額まで奪われてしまった。それに至る、その要因は。

「颯太、てめえ、また勘違いしてねえか?」

「弥勒寺さん」

「俺の今の現状は、俺が選択した結果だ。てめえのせいじゃない。そもそも何でもかんでも背負いこんで、自分のせいにすんな。あいつに何も言われなくても自滅してるようじゃ、また惑わされるぞ。それに、あの軍服女があいつ以上の最悪なもん呼び寄せる可能性だってある」

僕は、それに何も答えられなかった。

メテオラさんにシマザキさんのことをやっと話せたけれど、この性格は簡単に変えられない。それ以上に、目をかけてくれるこの人に申し訳ない気持ちになった。



「っても、あいつの口車に乗ったのはそれだけじゃねーけどな」

「え?」

「…いや、なんでもない」



『弥勒寺さーん!どこに行ったんですかーーー!あの人タフすぎる!』

『鹿屋くん、声が大きい!』


廊下から、鹿屋くんと中乃鐘さんの声が聞こえる。どうやら、弥勒寺さんを探しているようだ。やっぱり、病室から抜け出してきたのかこの人。

スッと席から立ち、弥勒寺さんは扉の方へと顔を向けた。

(あ、行ってしまう)



「そう、すぐにはうまく切り替えられねえか。でもな、これだけは言っとくわ」

くるっと振り返って、紫色のサングラス越しに見た顔は、とても穏やかだった。

「ーーー颯太は、それでも逃げずに自分の大切なもん守ろうとしただろう」

「あ、え、でも、結局は」

「最初はバカだと思ったけどよ…怒り狂う相手を前に、おめえなりに伝えて庇ったじゃねーか。あの女騎士の心境は分からねぇが、何か伝わったもんもあるんじゃね?話はそれどころじゃねェから、詳しく知らねえがよ」

伝えられなかったことだって、ある。それでも。





「よく頑張ったな」

ポンッと頭に乗せられた手は暖かかくて、その一言にじんわりと涙が浮かんだ。








その後、その現場を二人に目撃されて一悶着があって大変でした。





「あの…それと、やたらと目をかけてくれるのはどうしてでしょうか?」

「おめえみたいてェな奴は目を離していたら、すぐに危ないことに巻き込まれるからな」

つまり、庇護欲を抱いてくれているのか…?


年が離れているとはいえ、同性の男に言われるのはなかなか複雑な気持ちになった。



17/6/12

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