Re:CREATORS | ナノ



掴みとる一歩手前で


ウンターヴェルトとの最終決戦を控えた目前。奴等は卑劣にも、避難させた民たちのいる村を襲撃した。しかし、私たちは『偶然』その周辺の近くへと来ていた。そのため間一髪駆けつけられる。

(あともう少しなんだ。もう奪われてたまるものか!!!)



「奇跡です…本当に、本当に良かった」
「奇跡で片付けるな。貴殿たちが死にものぐるいで守った結果だ…誇れ」
「……っはい!」

己を含め血や泥まみれになった者や村人たちは、怪我を負っているが安堵の笑みを浮かべていた。結果、私たちは民を守りきった。村の被害の状況を言えば、生活する場所としては壊滅的。だが、村人騎士含めて、死人は一人もいない。この事実に感慨深い気持ちを抱く。これまで、守りきれず間にあわず多くの命を喪ってきた。どう足掻いても絶望しかないその先に、希望があると信じて戦ってきた。そうしてその一歩が、超えられなかったその先を踏み越えた。拳を握りしめる。

(…喜ぶには、まだ早いか。戦いは完全に終わっていない。それに、今回の件で難民になってしまった村人たちの行き先や様々な問題を考えねばならない。奴等も私たちの進撃にだいぶ焦っているようだ、慎重にせねばならんな)

正直、この時浮かれていたのだ。



一つの悲鳴が、安堵に満ちた雰囲気を引き裂く。悲痛な叫びが響きわたる。

「誰かっっっ!誰かあの子を!!!」

声の示す先を見て、反射的にその場へと駆け出す。相棒を呼び寄せている暇はない。大きな図体をした敵が、手に持つ大刀を振り降ろそうとしている。振り降ろそうとしている前には。一人の少女が恐怖で体が竦み、身動きがとれず硬直している。逃げろと、少女へと叫んだ。

あの巨体は、最後に人間を道連れにしようとしている。下卑た笑みを浮かべちらりと、こちらを見た。後悔が全身を駆け巡る。何故、己は残党が残っていないかちゃんと確認しなかった!

間に合わない。あと、一歩の距離が届かない。私は、『また』何もしてやれないのか?

『お願い…アリスちゃん』『助けてあげて…ーーー』

その時、声が脳内に響く。一瞬幻のように、腕の中に妙な温もりが冷たくなっていく感触が伝わる。



熱く、熱く。

「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンーーーーーー!!!!!」

爆発的な力が左の籠手へ湧き上がる。放った一撃はその存在を消し飛ばす。ありとあらゆる音も弾き爆音が鳴り響く。爆風から少女を守るよう抱きしめた。砂埃が収まるまで、暫し時が過ぎた。



沈黙が訪れ、腕の中からすすり泣く声。

「ひっ…く…アリステリア様…助けてくれて、ありがとう…」

泣きじゃくりながら礼を言う少女を、落ちつかせるように頭を撫でた。少女の母親や、周りにいた者たちが駆け寄って来るの見つつ、今度こそ私は一息ついた。

(良かった…無事で)

ふっと、腕の中にいる少女の輪郭が、ぼんやりとあの少女の姿へとぶれる。

「…!」

一瞬の出来事で、腕の中にいる少女は不思議そうにこちらを見ていた。



私はまだあの子の、名前を思い出せない。


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