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僕がいない私のいる世界/佐知子編




《プロローグ的な》16/5/11




すべてが終結したあの時からリバイバルはなくなった。
普通の生活を取り戻した俺≠ヘーーー僕≠ヘ日々忙しく暮らしていた。順風満帆とは言えないけど、それなりに漫画家として成功して、楽しく生きている。


あれからからの出来事といえば、高架下で出会えた愛梨と結婚した。

一回きりではない縁がまだ繋がっていたらしく、そのまま知人、友人、恋人、妻と深い関係になっていった。

当時は側で彼女が幸せになる姿が見れるだけ僕はそれでいいと思っていた。自分でも信じられなかったが、どうやら愛梨は僕に好意を抱いてくれたようで、猛攻というか彼女のアプローチは凄かった。
(しかもいつの間にか母を味方につけていた。外堀が埋められていた)

もちろん結婚に至るまで、様々な悩みがあった。年の差とか十五年のブランクで眠っていたこととか、この未来でも愛梨はピザ屋でバイトしてたらしく、なぜかあの店長とトライアングルするはめになったり思い出しても大変だった・・・。



他のみんなとも連絡をとりあっていて、一年一回は会える日を作ったりしている。その中で賢也とは会うことが多い。

お互い仕事は多忙ではあるが、すぐに会える距離にいるのもあって、たまに喫茶店であったり、夜に呑みに行ったりする。

この前は数ヶ月ぶりに会って話したっけ。
守秘義務があるから担当している弁護は深く話さないが、テレビのニュース等で見かけることがありそのことを世間話程度に話すこともあった。

『ニュースに映るぐらいなら、仕方なかったんだ・・・はあ』

深くため息を吐き、眉間の皺をほぐす賢也に少し思い出し笑い。先月、ネームにつまり息抜きにテレビを見ていたらイケメンすぎる弁護士!?≠ニいう見出しで賢也の顔写真が映っていて、飲んでいたコーヒーを噴出し大惨事だった。なにかと目立ってきてるのでワイドショーの格好の的なんだよな。

賢也が、他人事だと思ってというジト目で見てきたので謝る。

『言っておくが出演はすべてお断りしてある。だんだん減ってきては・・・いまだにしつこいのが居るけどね。でも、理由はどうであれ、そこから冤罪に関して関心持ってもらえるならいいか』

コーヒーを飲みながら、ため息をまた吐いた。まさか、本人もこんなことで苦労することとは思わなかったんだろうな。しかし、まあ。

『やっぱりケンヤは凄いな、子供の頃からしっかりした考え持ってたもんな』
『・・・悟は、あいかわらずだな』

声に出てたそれに、呆れた口調で・・・少しだけ照れたような賢也にそう言われた。



その時八代なら、それすらも利用しそうだな≠ニ脳裏に浮かび上がりすぐさま消した。



《リバイバルか、パラレルワールドか 》16/5/11




目が覚めると既視感があった。

遠い昔に見たことあるような天井。少し首を動かして寝ぼけた目であたりぐるりと見回す。その部屋にある物もまた見覚えのあった。

この時間が戻ったような感覚に懐かしさと疑念がわくリバイバル≠ヘなくなったはずじゃないのか?いつの時代だ?だって、もう戻る必要がない。母さんも、加代も、ヒロミも、中西彩も、ユウキさんも。助けれた。守れた。

そのかわり十五年間眠ってしまったが、たくさんの人に支えられて俺は生きてこられた。



八代との決着をつけたはず。

時間はかかったけれど愛梨とも再会した。奇妙な人生だったが、俺はあの結末ですべて願った通りに。


ーーーブルっと体が震えた。心なしかトイレしたくなってきた気がするし、さっきからこの違和感はなんだ?体が軽くなったような気がする。声も幼い。手を見ると十一歳だった頃よりも更に小かった。

嫌な予感がする。

全身を鏡で見たい。そんなのあったけ?
窓に近づき外を見ると、少し明るくなってきている。その明かりの反射で、自分の姿を映し出せないか見てみたがダメだった。

・・・トイレしよ。

まだ母さんも寝ているようだし、もうひと眠りできそうだ。起きてから考えるか。




トイレに入り、パジャマのズボンを下ろし当たり前の動作をしようとすると、何かがおかしい・・・おかしい。いや、僕は気づいている℃鮪タが受け入れられないだけで。

ない。

本来ならついてるはずのモノがない。脂汗がじんわり滲んだ。


どのくらい時間が経っただろう。

「・・・さとる、いつまで入ってるんだべ?お腹下したの?お母さん、待ってん」

ドアの外から寝惚けた声で母の声がする。それで正気に戻り、パジャマのズボンを上げず転がりでるように、ドアの前にいた母に縋りつく。

「さとる、どうしたべ!?尻丸出しで、お」
「おお、おかあさあああん。ぼくは、おと、おとこだったよね!?」

自分がとんでもない格好をしているのはそっちのけで、今この場で僕のことを一番知っている人に聞いた。

電球に光に照らされた困惑した表情で母ーーー藤沼佐知子は言った。

「寝ぼけてるんだべか・・・?熱はない、ね・・・

あんた最初から女の子≠オょ?あたしは男の子生んだ覚えはねーべ」




あんぐり開いた口は塞がらない。もっとも自覚したくない事実だった。

なんてこった!

この世の終わりのような表情をした五頭地する息子(娘)の奇行を、尻目に心配しながらもトイレに入っていく母に、僕は気づかなかった。




《お母さんは見逃さない》16/5/12





目の前でご飯を食べている母親をこっそり見る。六十、七十になっても歳をとったと、感じさせなかった母親である。

(どこからどう見えても母さんだよな。小五の時にリバイバルした時にも思ったけどさ・・・変わらないな)

それに、どうやら僕は小学校入学前の時代に戻ったらしい。それを考えると、まだ二十代か?あ、でも仕事着が事務服だ。あの建設会社に事務で勤めているのかな・・・あの社長に言い寄られていたんだっけ・・・それで怪我させられて・・・

急に母さんが、僕の両頬をむにっとつねってきた。

「!?」

「そんな怖い顔してると、かわいい顔が台無しだーべ?」

茶化したように笑う母親の言葉で、自分が今、子供らしくない表情を見せていたことに気づいた。やばい、そこらへん気をつけなければいけないのに。

「ごめんね・・・さとる。今日はも遅くなるから、また近くで大人しく遊んでいてね」
「う、うん。だいじょうぶ!」

仕事が遅くなるから拗ねていると勘違いされていたのか。まだ見た目は小さい子供だからな。・・・母さん、いつでも僕のこと大切にしてくれてるんだな。

それにほっこり和んでいると、機嫌の良くなった息子・・・娘に安心したのか食事を再開すると思いきや。

「そうだ。あんたが、この前欲しがってたスカート買ってきただべ。ほら」

仕事鞄から、ごそごそと袋を取り出すと母さんは僕に手渡してくれた。


スカート着たがるのか僕・・・ああ、女だった。この事実に慣れてきたとはいえ、ショックは引きずっている。

(スカートつっても、美里とか中西彩みたいな感じのーーー)

そう思いながら袋からペロンと取り出しよく見ると、ふわふわのレースがつき、薄色のピンク。ところどころに小さなリボン。後ろ側の極めつけ、よくあるパールっぽいものがついた大きなリボン。

まじか。

どうした、俺。

なんで、欲しがった俺!?よくあったなこんなスカート!!!

思わず一人称が俺に戻ってしまった。ガーリーちっくなメルヘンなお姫様スカートに、僕は意識が遠のきそうになった。

(ひっーーー!ひらひら・・・ひらひらしすぎ!)

あまりにも、自分とかけ離れた趣味だ。今は女の子になっているとはいえ、性格が大差ないなら絶対にこんなもの着たがらない。男勝りかじゃじゃ馬がいいところだ。あれか?これって、リバイバルじゃなくて創作であるパラレルワールドに来てしまったんじゃないだろうな・・・そんなバカなと否定できない。それだったら、僕が女の子だとしても仮説は立てれる・・・ああ、どんどんややこしくなってくる。それでも、いくらパラレルワールドだといえ、この世界の僕はすごく女の子なんだな。タスケテワンダーガイ、もう心折れそう。


「さとる・・・イヤだった?なーんか、最近ヘンだべ?この前からやたらズボンを着たがる、口調も変わったしょ」
「えっ!?そ、そんなことないとおもうべ」
「フーン?」

せっかく雰囲気がよくなってきたというのに、メルヘンスカートのインパクトとのせいで反応がおかしいからぶり返してきてる!?
や、やっぱり妖怪だ!このサトリに、悟られないようにするのはもう無理かな。

「お、おかあさん。ありがとう!だいじにきるね!」
「・・・うん」

表情は納得してない感じだけれど、なんとか頷いてくれた。そして、どさくさにスカートはくて言っちまった!しかし、せっかく僕のために買ってくれた服だ。

腹をくくれ、悟。



その日、僕はちょっとだけ男の矜持を捨てた。


・・・股がすーすーする。男に戻りたい。




こんな感じで原作完結その後、平穏に人生を歩んでいる悟がなぜかパラレルワールドに逆行して後天性女体化する話。

戻った時間は、小学校入学前。しかし、性別は女の子≠ニして。それに、なんだか自分もろともすべてに違和感。なぜ再びリバイバルしたのか。どうして女の子に性転換≠オてしまったのか。悩み惑いながらリバイバル(だと思っている)の原因を探していく藤沼悟と女の子≠ノなってしまった彼をとりまく、新たな関係の構築。

気づいてからは、前の世界での相違点を照らし合わせながら自身の身体に悩みつつ、この世界の八代学と向きあっていく。ちなみに、この世界の八代先生は殺人を犯しておらずギリギリ衝動を抑えているけど、ギリギリセーフ?アウト?なことはしちゃってる?
頭の中でぐるぐるしてました。

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