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その距離感に胸をときめかせていた


隣のクラス。

5年4組には女子に人気の先生がいる。ああ、違った。父兄にも信頼されている。
その人は八代学$謳カ。同級生の女の子たちの話によると彼女はいないそうだ。女子たちにとっては死活問題なのでその話を聞いて盛り上がっていた・・・もし居たとしてわざわざ言わないだろうけどね。この前のバレンタインも凄かったなー。

「そういえばさ、最近、隣のクラスの藤沼くんだっけ?八代先生と仲良いべ」
「職員室でなんか話してるの見かけたことある」
「藤沼くんて、小林くんと一緒にいる子?」
「それって・・・これお母さんから聞いた話なんだけどね、藤沼くんと藤沼くんのお母さんがさ、ほら、雛月さんて子いたべ?」
「ああ、あの子」
「でも、転校したんじゃないけ」

本を読んでいたら、近くで内緒話のように女子たちの会話を小耳にはさむ。八代先生の話をしていたのが、隣のクラスの藤沼悟≠ュんの話へとうつる。その名前が出てきた途端、本を読んでいるふりして女子たちの話を盗み聞きする体制に入った。ついでに小林くんも出てきたな。

八代先生も、藤沼くんも、小林くんも私の気になる人だ。それだけ聞くと、どれだけ気があるんだと言われかねないけど、そうじゃないんだよな。詳しくいうと、この三人のそれぞれの関係≠ノ興味があるのだ。私の妄想が入った視線で見てるので、あまり理解されないし、いうような友達もいない。お姉ちゃんならわかってくれそうだけど。

「そうそう、雛月さん自分のお母さんに酷いことさてれたんだって。それを藤沼くん家が保護とか?色々協力して助けたらしーべ。それを八代先生も色んなとこに連絡して動いていたんだって」
「八代先生かっこいい!」
「いいなー」
「羨ましがったらいけないだべさ」
「藤沼くんもヒーローみたいだべな。雛月さんのこと好きなの?」
「手を繋いで一緒に登校してきてたの見たべ」
「あ、この前教室で堂々と口説いてたらしいって!」
「きゃあ!それ本当?意外と情熱的!」
「それが、離れ離れに・・・なんて切ない」

始業のチャイムが鳴る。女子たちは先生が来る前に自分の席へと戻っていく。
目ぼしい情報はなかった。その情報はすべて把握済みだ。雛月さんの情報はなるべく漏れないようにしてるらしいけど、低学年の時から保護者たちの間では悪い意味で有名だったから少なからず漏れてしまうんだろうな。私のお母さんもたびたびお父さんとそのことについてこっそり話していたし。

人の家の事情より、女子というものは恋の話に食いつきがいい。私も食いつきがいい。雛月さんと藤沼くんの急速な親密は同年代でも特に女子たちの間では有名だ。

私もほんの数十日前まで藤沼くんてことなんてうっすらしか知らなかった。
大人しい印象だったのに、気づけば大胆な活発な子になっていた。その子が女の子にアプローチをかけている。女子とっては格好の話題にされた。

隣のクラスの小林くんは大人びていて顔立ちが整っているので密かに人気があるから、私でも知っている。その本人は恋愛に興味がなさそうだ。あと、小林くんは大人びてはいるけど藤沼くんを含めた男子たちとよく遊んでて小学生男子らしいとこもある。
他の人と一線引いているように見えてたけど、最近、藤沼くんが変わってから彼も変わった。

なのでーーー二人の距離が近いような気がするんです。




人気のない放課後の階段で二人で喋っていたのを目撃した。
私はその日珍しく忘れ物をして取りに行こうとしていて、別の階段を使おうかなとその時は思った。藤沼くんの変化から、二人でたびたび話をしていたのは知っていたけど(二人で授業を遅刻してきたのもあるらしい)、本当仲よすぎて私の心はある成分で胸いっぱいだった。あの二人並んでるだけでニヤけそうになるので常に無表情を保っている。教室で浮いているのは私もなのでこれ以上変なことはしないように気をつけてはいた。



『悟を信じて良かった』
『俺も連れてってくれ』

端々に聞こてきた言葉。

な に が あ っ た 。ど こ へ つ れ て い く ん だ 。

私は忘れ物を取りに行くのを忘れて、全力疾走で帰宅した。通りすがりに誰かに声をかけられてたけど無視した。


し、進展してるうううう。いや、落ち着け。冷静に考えたら雛月さん関連のことだろう。小林くんも雛月さんと一緒にいたから何かしら協力してたのかも。でも、信じて良かったて、これは二人の絆が深まったてことだよね。そもそもなんで毎回、人気のないところで、はっ、も、もしや・・・落ち着こう。邪推しすぎだし、後ろめたくなってきた。



それをきっかけに、隣のクラスの杉田くんも交えていっそう一緒に行動してて、私の脳内は妄想で暴走をしている。

最近、私。学校に行くのが楽しいです。






廊下の窓から外で遊んでいる藤沼くんを見ていた。杉田くんがこけて小林くんが巻き込まれさらに藤沼くんが巻き込まれ二人に乗られていた。ありがとうございます!ありがとうございます!
鼻血が出そうな気がして鼻と口元抑えていたら、そんな所に八代先生に話しかけられた。

「気分が悪いのか」

ちょうど邪な妄想をしていた時だったので冷や汗が止まらない。



八代先生はいい先生≠セ。生徒が授業でわからないところがあれば丁寧にわかるまで教えてくれ、誰かが聞きにいってるのを快く教えているのを見た。生徒を下の名前で呼び平等に接していて、話しやすい気さくな先生だ。そして、この前の雛月さんの件で、事情を抱えた生徒を結果的に守った≠アとで更に子供を任せておける先生≠セと父兄からも株が急上昇。
(お母さんがファンになっちゃた(はーとまーく)と言って、お姉ちゃんと一緒にお父さんの前で言うなよと色々大変だった)

それに他のクラスだとか関係なく、気がついたらこうして話しかけてきてくれるのだ。特に一人でいる子とかクラスに馴染めてない子とかさりげなく手助けしてるから、本当にいい先生だよな、と思う。あれ、私もそう見えるから?否定はしない。

だけど、この先生がごくたまに見せる不思議な視線が私は少し苦手だ。
その話を言う相手もいないし、私の気のせいだろしひっそり感じていることだった。




ふと私の見ていた方向に目を向けるとああ、となにか納得した。

「最近、悟たちの見てるな。もしかして?」

朗らかに笑いながら、私にとっての爆弾発言をする。

うわあああきづかれてたああああ。見すぎ?!み、見すぎなの!??八代先生だけ気づいてることかな!?明らかに動揺しているのを隠せてない私は取り繕うように喋った。

「す、好きとかじゃないよ!なんかちょっと気になるだけだべ!」

しまった、これ逆に勘違いされない?でも、藤沼くんが周りの男の子と仲良いのを勝手に妄想して、くっつけてました。先生もそんな目で見てました≠ネんて言えるかー!

先生も最近、藤沼くんと仲良いし、なんか目で追ってるのに気づいちゃって勝手に盛り上がってた。この前プリントとかなんか忘れてたらしく、藤沼くんが案内役を請け負ったみたいで二人で車に乗りこんでいたのを見て動悸息切れがやばかった。
車で密室!みしっつう!先生、そのままお持ち帰りしちゃ駄目よ!妄想は爆発である。私としたことが呼吸が荒すぎて、残ってた他の先生に目撃されお母さんに連絡される失態をおかしたが。
翌日、妙に仲良くなってたから更に私の学校生活が楽しくなったのはいうまでもない。

「うんうんわかった。わかった。でも、最近生き生きしてるからな・・・話しかけてみればいいと思うけどな。悟なら気にしないと思うぞ」

あ、勘違いされてる・・・勘違いしてても誰にも言わないならいいや。表向きに本当のことは話しておくか。

「えっとね、藤沼くんたちが楽しそうにしてるのを見てると、なんか私も楽しくなるんだ。(純粋な目で見てません)あと、先生のおかげだよ(あなたたちの妄想で楽しいです)先生がこうやって気にかけてくれるのも嬉しい(私のことより藤沼くんをもっと気にかけて下さい)」

八代先生が瞳を瞬かせて、一瞬目線をそらした。

「そっか・・・最近、みんな変わってきたからな。君も変わったな」
「八代先生も、藤沼くんのこと気になる?」

ぽん、と頭を撫でられた。誤魔化すついでにさりげなく聞いておこう。いまさらだけど、私のぼんのう伝わってないよな。

「え?」
「最近、藤沼くんが先生と仲良よくて羨ましいて、女の子たちが言ってたから」

そんなことを言ってそらす、そらす。

「先生て人気だから」
「今日はやけに喋るな・・・あんまり、贔屓目で見ないようにしてたんだけどな。加代の件もあって気にはなる。転校して落ち込んでるからなあ」

都合のいいところだけ取り出して、今日の燃料を投下した私の脳内落ち着け。うおおお、なんだって!?気になるんだ!やっぱり気になるんだ!

「さらに見える≠謔、になって気になるかな」

二回言ったあああ。この教師、私を確実に仕留めてきてる。しかも、片目でウィンクつきである。ありがとうございます!

先生・・・先生のおかげで私死にそうで生きれそうだよ。



休憩の終わりのチャイムが鳴る。それぞれ教室に戻るので別れた。ぼそり呟いた言葉やけにはっきり聞こえた。その意味はよくわからない。

女子たちがちらちら見てるからあとで話しかけられそうだ。私と先生が話してるのてあまりないからな。


「大丈夫、君には見えない≠ゥらね」





校門の前で大きく手を振りながら藤沼くんが駆けていく。手を振りかえしている小林くんや杉田くんが大ゲサだなと会話していた。

ああ、楽しそうだな・・・先生の言った通り話しかけてみようかな。でも、いきなりとかは。でも、近くにいたらもっと詳しく藤沼くんの人間関係が見れ・・・こんなんだから、私はもう!気持ち悪いな!

これは保留にしておこう。

私は妄想しながら楽しく帰り道を歩いた。






ーーーそれが、私が最後に見た藤沼くんの姿だった。




16/4/6

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