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疑いは消えたわけではない(T)


『先生は、悟のこと・・・本当に知らない?』


二人きりの教室に、そう大きくない声がはっきりと聞こえた。
疑心暗鬼の瞳と対面。こちらから反応を起こす前に、賢也は僕に接触してきた。



賢也から幾度か視線は感じている。悟が目覚めてそちらを優先するあまり、先を越されたようだ。いずれは賢也がどれほど知っているか、探りを入れようと思っていたからこの状況はそうまずくない。むしろ手間が省けた。

テレビで流す情報には出てないが、少し警察の捜査が進展しているらしい。賢也がそれを知っているとはかぎらない。だが、悟が行方不明になってから藤沼佐知子との接触頻度が増えていた。彼女の周りには鼻のきく人物がいる、もし賢也がその人物とも関わりを持ち情報をやりとりしているのならーーー今日の行動に至ったのかもしれない。

僕と藤沼佐知子との接触が多くなるにつれて、少しづつ警戒が解け色々な情報が彼女からもたらされるようになった。もちろん、その人物のことも。話を聞いていて思ったのが、悟があんなに動けたのもその人物の影響が大きかったこと、その人物とはなるべく近づきすぎないように距離はあけておこう、ということだった。

着眼点の恐ろしい奴だ。
澤田という男は。

それは賢也の父親もだ・・・世間では、彼らの方が変わり者扱いにされている。まだ¥ュ数の意見だが、身近に油断ならない相手。

あくまで現在の僕の憶測だ。




ほんの僅かな思考から戻ると、強張ったままの賢也に言った。


『・・・ごめん、賢也。知らないんだ。ちゃんとその場にいたのにな』





さて、小林賢也。

君はどう動く?




17/1/29

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