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僕と彼の愉快な日々の始まり



『悟、お風呂上りのいい匂いがするな』
『ふっ・・・風呂に入ってきたんだから当たり前だろ!!!』
『ちゃんと拭いていないじゃないか?』
『自分で拭く!近くな!だいたいあんたいつも手つきが、きも、きしょくわりいんだよ!!この前みたいに首でも締められたらたまったもんじゃねえ!』
『言い直してないな、それ』

『あああ、もう嫌だこのおっさん!』
『・・・おっさん』

嗅ぎにきやがった!という顔で引いている少年は、心底嫌そうな顔をしていた。露骨な警戒心を露わにした彼が、食卓の机を防御壁とする攻防は何回も繰り広げられている。

どこにも後遺症はないかと、触診や様子を見ていればなにやら誤解されたようで、丸わかりの警戒心を表すようになった。若干・・・ワザと意図があるように振る舞ったのは僕だが、悟の反応がわかりやすくてついからかいに力を入れすぎた。刺激しすぎて、結果ご覧の通りだ。すっかり悟に少年好きの変態野郎認定され思われている。異性に興味が薄いが、別に子供の趣味はないんだけどな?


とぼけたフリして、奇妙な日常は始まっていた。






目覚めたあとも、日が経つにつれ彼は順調に体調が回復していった。

ある程度の知識だけの素人が看護していたのに、だ。その事実に何度も僕は純粋に驚くばかり。やはり彼には神がかりのようなナニカが働いているらしいと、それはまた核心する一つになる。彼を『子供』と見ず、仕草、言動、そのままの姿はいとも容易く異質なものを感じとれた。

さて、どのあたりで突きつけるか。

僕はため息をつく、彼にではなく自分自身に。もっと早くに確信を確実なものにしていたら、違う方法をとれたかもしれない。またこんな思考ばかり・・・ため息ばかりついてもいられない。程々に、ここから逃げようとする気力をそいではいっている。家中の外に通じる部分には少々細工を施してある。小窓のは元々ついていたものだが、大窓の部分は本物ではない。今は、彼に『ホンモノ』だと思いこませた。

僕は常に余裕に見える態度を貫いたが、内心どう対応しようか悩んでいた。
手始めに、これまでの彼の行動を振り返らなくても、彼の逃走意欲をなくすであろう『台詞』を言った。それは予想通り一番、効果的だった。今の状態を保つには彼の『協力』も必要だ。想像しないでも、自分を殺そうとした存在に信用も信頼も何もないだろうし、彼が抱いていた感情も粉々にした。

しかし、実際はすぐに逃げようとするでもなく、こちらの真意を探るような様子で慎重に行動していた。強い反発はあるだろうと、思っていたら(態度は日々、辛辣にはなっているが)拍子抜けしてしまった。これには苦笑する。協力といっても脅迫しただけ、だけどね。


現状の彼を把握しつつはあるが、今の段階では性急すぎるのでもうしばらく保留にしておこうと結論をだす。






『・・・なんでゆびをなめるんですか』
『消毒だよ』
『しょうどくえきならきゅうきゅうばこにはいってるじゃないですか』
『それは・・・ああ、悟。吐くんならそこにゴミ箱がある』
『・・・・・・あんた、俺で遊んでるだろ』

僕はなんだかんだ、悟との不毛なやりとりをする日常を楽しんでいた。



目覚めた少年≠ヘ『青年』を警戒している。待ちわび続けた『青年』は少年≠ナ遊んでいた。
困惑と、変化をもたらし始めていた。


16/10/16

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