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君が目覚めない日々は(U)



「今日も、起きないか」

ベットの中央で寝ているその顔を覗きこむように近づく。青白くはあるものの微かに呼吸音が聞こえた。それだけが彼が、生きていると認識できる。

彼はーーー死にはしなかった。子供の体力は限界が早い、それだけでも奇跡的だ。症状は悪化せず、徐々に回復しているようにも見える眠っている≠セけ・・・それを見てすぐに目覚めると思った。でも、体の器官になんらかの支障を与えてしまったのかもしれない。医学に多少知識はあれど素人は素人。病院に二週間も失踪している子供を連れていくのは、自首するようなものだ。警察に出頭する気はない。


「・・・息はしているし、呼吸が止まった時にでも考えよう」

もしこのまま目覚めず息を引き取った場合、埋葬だけはしようと思うようになりはじめている。

悟が目覚めない
意外と、そのことに落胆している自分がいた。



居間の方へと移動する。時計を見れば日付が変わろうとしていた。情報を確認するためテレビをつけると、そこには悟のことが取り上げられていた。捜査は何の進展もないのだろう、引き続き警戒と情報を求める内容だけだ。

「・・・いくつかの不審点はあるのにな」

証拠になりそうなものもあったしカレらちゃんと検証をしているのかな?と、あまりこんな考えをするもんじゃないな。犯人だと突き止められて困るのは僕だ。過信は身を滅ぼす。それもそれで、僕の敗北ではあるが。まったく、こんなざまで慎重派と自負していたものだ。




なんの偶然か。

たまたまあのタイミングで通りがかった獣医師の女性が、沈没するあの車を発見して危険を承知で入水した。助手席辺りに浮かぶバスケットボールと黒のランドセルに、最悪な想像がよぎりすぐさま警察に通報。

現場の状況は、日が暮れていたのもあり複数の人間の足跡で詳しく検証できない状況になっていた。車の中にあったものも水で流され僅かしか残っておらず、車のバックナンバーから盗難車であることだけ調べがついた。しかし、車の中の鋏で切られたシートベルトなどの不審な痕跡から、犯人が一回少年を殺そうとしてやめたかもしれない可能性があると判断した。犯人の理解不能であろう奇妙な行動に、捜索は混乱しているとも聞くが捜査と捜索は続いている。

悟を連れ去ったあと、彼の母親の動きは早かった。

なかなか帰ってこない息子を心配した藤沼佐知子が、片っ端から心当たりのある相手に連絡をしていたらしい。その最中、警察から連絡があり悟が何らかの事件に巻き込まれたと知る。その後、藤沼佐知子の働きでテレビでの放送は、早朝と深夜にかぎられこの事件の情報が流されていた。

その行動の本心は分かりかねないが、その行動を移すのに相当悩んではいたそうだ。今は知り合いの記者の助けを借りながら、独自に探している。そんな彼女も、犯人候補にはあげられいたらしい。でも、事件直後電話をかけていたアリバイがあるためすぐに外れた。それと犯人の有力候補の中で、白鳥が疑われていたらしいが賢也によってこれもまたアリバイが証明された。


もちろん、僕も疑いがかけられた。最後に目撃された体育館に、居合わせた人間の一人だ。しかし、僕とて真っ先に疑われる行動は避けている。今回は代理など忘れる等ツメは甘かったが。最終的に、動機がないことと悟が目覚めないことへの焦燥からくる虚脱。
決定的なのは、体育館に居た子供たちの証言からアリバイが証明されたようだ。子供たちには直接、悟の状況をぼかして話しているにしろ警察に事情聴取されるのは衝撃があっただろうから、その時の記憶があやふやになっているのではないだろうか。
運ーーーこの場合、悪運か?強かったのか、世間には僕が犯人だと誰も気づいていない。


色々な偶然が重なり犯人候補から外れた。
どうやら意思≠ノは、見放されていないようだ。


16/5/31

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