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確認と想いの積み重ね


犯行用に使う、黒の革手袋を両手にはめる。
ベッド上には子供がなんの警戒もなく無防備に寝ているーーーなんの疑いもなく、まるで『寝ている間に殺されない』とでも、言うように。

横向きに寝ていた子供の体を仰向けにさせて、その上に馬乗りになる。細いその首を両手で掴み少しずつ力を入れた。息苦しくなってきたのか、呼吸が荒くなっていく。その苦しそうな表情に、背筋ぞくぞくしてきた。今、自分の表情は凄惨に笑っているのかな。

救済≠行う少女達には、穏やかな表情でその糸を切ってきた。それは、僕自身だけが思うことであり他の人間からしてみれば、狂人しか映らない。それはどうだっていい。この子供の頭上にも蜘蛛の糸は垂らされいるのに、少女たちに抱く感情とはまったく違う。僕がもたらすモノに抗う姿に甘美を感じるのは、精神の底に無意識にあったのか。

「かっ・・・はぁ・・・っ」

・・・そろそろ、手を離さなければ本当に『殺して』しまう。『絞殺』は『証拠』が残ってしまうから、使いたくない手段だ。あまり思いだしたくないあの男のことも脳裏にちらつく。この子相手だとどんな反応もずっと見ていたくなってしまい、ついつい容赦がなくなってしまう。この苦しそうな表情にしている少年の閉じている瞼が開いて、嗤いながら首を絞めている僕の姿が映ったら、どんな反応をするだろうか。

憤怒?軽蔑?嫌悪?恐怖?

絶望?

悟からその感情を向けられるのは嫌じゃない。僕という存在を強く刻み込めるならそれも僕にとって代償行為となるーーーはず、だったのに。

ふっと、両手から力を抜くと、跨いでいた体制を変えてベッド横に腰掛ける。悟は荒い呼吸をしばらくしていたが、少しずつ落ち着いていき静かな寝息をたてはじめた。首筋は締めたあとがくっきりと残っている。陽に当たらない白い肌には印象的に映る。悟が起きるまでには薄れていって消えるな、この痕は。


また、ぞくりと感情がわきだった。

「・・・また、殺せなかった」

自分を殺しかけたはずの男にある種の信頼を寄せる、この少年を殺せなかった。様々な感情を抱いているその瞳の中に、含まれたモノが失望に変えたくないと。後処理は面倒くさくなるが、殺そうと思えば殺すことができる。味わったことのない刺激を得られそうだから、少しだけ危ない橋に寄り道。

最初はそう思っていた。




思考に反して、気持ちのいい疲労感が残っている。革手袋を外して隠す。隣に呑気に眠る少年と、一緒に眠ることにしよう。触り心地のいい頭を撫でた・・・いつもなら触り心地いいのに水分多く湿っていた。大雑把に拭いてそのまま寝たな。





踏み込んでくるのなら逃がしはしない。僕はもう後戻りはできない。

でも、君はどうなんだ。

君は戻ること≠ェ、できるんだろうか?



16/5/15

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