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問答する場所を考えろ



「・・・」
「・・・」

体を洗っている音だけが響く風呂場。互いに無言。なんだコレ。

風呂場へと連れてかれるあの緊張感は気のせいだったのか、普通に入浴している。ついに本題に入るのかドキドキそわそわしているのがバレないようにしていた。問答無用の丸洗いも大人しくしている。抵抗なんて、微々たるものなんだ・・・落ち込んでいないから。

「もしかして」

無言だった八代が、言葉を発する。緊張が走る。

「期待していたのか?もし、そうなら先生教えるぞ実践の保健たい」
「何も期待してないし、黙っててくれない?」

ウン、コレモセイシンテキナケンセイナノカ?

一言、二言のかわすだけで疲れる。これ以上ダメージ受けたくねえ、八代が手に取ろうとしたシャワーの持ち手をかっさらい、さっと泡を落として勢いよく風呂場から出ようとする。それを八代の片腕で阻止され、腕の逞しい触感にいまさらドキっとした。素肌だから余計にそう思う。俺でからかって遊ぶのもいい加減にしろ!睨みつけようと、顔を向けかけようとしてピリッとした空気にビクっとした。

「湯船につかっていきなさい」



数十分の出来事なのに、時間長く感じる。
俺は力なく湯船につかりながら、浴槽に身を預けている。風呂場にこもる熱気にのぼせそうだ。うとうと、しそう。

「こら寝るな悟、溺死しちゃうぞ?」

うとうとした意識がぶっ飛んだ。

「物騒なこと言うんじゃねー!」

バシャアッとお風呂をかけたが、奴はすかさず目を瞑ったので意味なく終わる。溺死させようとした奴の言い草生々しい。わかってて言ってるのは置いてとき、こいつと何度も風呂に入ることによって、なぜか水への苦手意識が緩和されていく自分が腹ただしい。いい事なんだろうけどよ!




ああ、今日も駄目だな。いつも通り一日が過ぎていくのか。

「それで、悟はどうするんだ?俺がお前が『知っている』以上のことを、していたら?」

風呂場の照明を眺めていた時に、問いかけられた言葉。しん、と静まりかえった。俺は、視線を照明から離せずにいた。

「悟、君の勇気≠ヘ素晴らしいよ。でも、無謀と勇気は違うと聞いたことがないかい?なんの勝算があって僕に踏み込む」
「・・・先生は、僕のことどこまで気づいているの?」
「・・・質問しているのは先生だ。まあ、いいだろう。仮定はいくつか立てているよ?極めて荒唐無稽な話だが」

視線と視線が合わさった。

「あのさ」

その前に一つだけ。

「・・・せめて髪が泡立ってる状態で、話すの止めてくれ。内容が頭に入らない」
「風呂に入っているから仕方ないじゃないか?」

あたりまえのこと言うが、全裸の状態でする話ではないよな。じゃー、とシャワーで泡を洗い流している真犯人に、俺は言った。

「じゃあ、場所を風呂場にするなよ!?」



今日一日、疲れたなぁ。
濡れた髪を大雑把に拭いてベッドにゴロンと転がる。寝転がったとたん、急激に眠気が襲ってくるのは疲れている時によくあること。あー、明日の朝まで爆睡できる自信がある。

一人っきりの空間は部屋が広い・・・八代は書斎室で明日の授業の準備している。

『それで、悟はどうするんだ?俺が、お前が『知っている』以上のことをしていたら?』


あの言葉が反復したーーーあの眼は引き返すことを許さないと、言っていた。
確信に近づいたのか、近づいていないのか分からなかったが、俺の中に覚悟はある。

それは、人からすれば自己犠牲とも言われる類だとしても。
思い描く未来予想に届かないとしても。

諦めてない。

16/5/15

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