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怒りの雪玉は炸裂



手袋をした両手に、息を吐くと白くなっている。

空を見上げれば、しんしんと雪が降り続いている。雪かきしても、明日の朝にはまた積もっているのだろう。外へ久しぶりに出たはいいが早朝から疲れた。冬の季節を乗り越えるためにも、もっと体力作りしとかないと。室内だけじゃ基礎練しかできない。

黙々と雪かきをしている前方にいる男の姿に、俺はむしゃくしゃして奴の後頭部に雪玉をぶつけた。



『八代はーーー』


数ヶ月前、決意を改めて俺は八代に踏み込んだ。それから、踏み込んだ先からなんの反応も返ってこなかった。勇気≠だして、思いきって話を切り出したというのに、スルーたぁどういうことだ。こちらのことから話すというのも手だが、なんの反応を返してこない奴にやすやす教えるというのもリスクが高いし、俺に利がない。持っているその情報は大切にしないと、取引に使えそうな手は残しておきたい。

こいつからの反応がないと動けないなんてもどかしい。

不意に冷たい塊が飛んできた。考えごとをしていた俺は咄嗟に避けることも出来ず、顔面で受け止め、後ろの深く積もった雪に倒れこみ埋まった。

「雪合戦に考え事とは、油断大敵だぞ」

さくさくと足音がして、近くから声がした。その軽い口調にカチンときて、顔の雪にを払い落とし勢いよく飛び起きると、手に適当に掴んだ雪をぶん投げた。塊じゃないので、攻撃力が弱くひょいと顔を逸らしただけで避けられる。

「・・・そんなに雪合戦したかったのか?」
「違っ、このっ・・・ちくしょー覚悟しろ!」

俺が何に苛立っているのか知っているくせにあえて煽るような態度。行き場のない怒りを雪玉に託した。カズたちに誘われ何度かやった雪合戦。今、培われたスキル見せてやる!





「・・・やるな、悟」
「・・・先生こそ」

二人とも荒く息を吐いて、ゴロンと雪の上に寝転んだ。火照った体に冷たい雪が丁度よく気持ちいい。

雪は止んでいたけれど、もう雪かきする体力は俺にはない。八代もやる気がないのか荒い息を落ち着かせながら、明日仕事行きたくないとかぼやいている。何言ってんだこの教師。しかし、曜日は日曜日。なんとなくわかるような気はした。



雪合戦の結果は、両者引き分け。

手加減なんかされていなかった。本気だっただろこいつ。俺より体力はあるだろうと思ってはいたが、三十路(手前)にしては俊敏な動きをしていた。子供相手の仕事してたら体力は必要だろうけど。たぶん、俺がその年齢に達していても歴然の差か。

だけど、俺もすごすご負けるわけにいかない。久しぶりに、全身全霊で思っきり体を動かした。その結果こいつを倒れさせるのに成功したが、起き上がる体力も使ってしまったようだ。俺の方が、何してるんだろうニジュウキュウサイ。リバイバルの回数を換算するとそろそろ三十路越えはしているが、あれ?なんか苛立っていたはずが忘れてい・・・思いだした。こいつの反応の無さに怒ってたんだ。なのに、なんで力尽きるまで雪合戦やってたんだ。

「・・・と、お互い雪でぐしょぐしょになっちゃったな。このままいたら、風引くから少し早いけど風呂に入ろう」

「えっ」

唐突な提案に硬直する。八代が起き上がりついた雪を払い、寝転んでいた俺をいつものように横抱きして家の中に入っていく。俺を運ぶ時の仕方が定着しつつあるが、どんな態度をとっても喜ぶのでもう諦めた。

思考は巡り。体力はもうすでに使い果している。雪でびしょ濡れになることをすっかり失念していた。て、ここまでびしょ濡れになるつもりもなかった。暖かい部屋で、ちゃんと拭いて温もればいいだろう。

「こ、こんな時間にお風呂溜めてないだろ。溜めながら、シャワー浴びるの寒くない?」

こいつとは何度も風呂に入ってるし見慣れてはきていたが、体力・気力ないのに風呂に入ることに抵抗がある。

「悟、まだ恥ずかしいのか。照れ屋さんだな」
「誤解させるような言い方すんな」

お前はもっと気にしろよ。普通の年齢でも中学生だぞ。なにが楽しくて野郎の裸見なきゃならないんだ。と、何度も考えている。このままじゃ八代に丸洗いされるという、いつかの悲劇がリバイバルする。い、イヤだーーー!



風呂場に近づいてきて、色々考えるが何も思いつかない。
八代が、半開きの脱衣所の扉を足で開けた時。

「それにーーー風呂は用意しているんだ」

車の中でみた表情で言った。


あ、謀られた。


16/5/8

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