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もしもの未来予想図(U)



無我夢中でスケッチブックに描きかまくった。
こんなに絵を描くのが楽しいのはいつぶりだろう。最後のページになってびっくりする。

「こんなに描いたのか・・・飢えてたのか、俺。描くことに」

なんだそりゃと、笑った。端から見たら、頭のおかしくなった奴である。

自分が何を描いたのか見返そうと最初のページへと戻る。丁寧に描かれた絵から、途中殴り描きになって自分でも何描いたのかわからないものもあった。やっぱり絵は、誰がなんと言おうと俺の思いを描く唯一だ。

再確認して暖かな気持ちで、次のページをめくった。

その一ページに硬直した。

「・・・無意識て厄介だ」

あーと声にならない声で唸っていると、玄関からただいま≠ニ声がする。その声にハッとして時計を見るでもなく、スケッチブックをどこに隠そうかで焦る。動揺しすぎて、滑ってドアの端にごんと打ち付けた。痛い!

何、騒いでんだ?

と、八代の声が近づいてくる。
痛みを我慢する。あのページだけでも見られたくないので、ビリッと破りタンスの隙間に隠した。子供の手では取れそうだが、大人の手では取れなさそうだ。一時これで、目を眩ませれるだろう。明日速やかに八代のいない間に処分しよう。

「・・・悟、何してるんだ?」

振り返ろうとしたら、目の前に見慣れたスーツがあった。心臓が止まるかと思った。
冷ややかな声だ。恐ろしくて見上げれない。

「さと・・・・・・スケッチブック、使ったんだな」

胸の前に両腕両手で抱え込んでいたスケッチブックに、気をそらしたようだ。
頭に大きな手が置かれる。

「・・・だああっ、痛ったああ!」
「またお前・・・たんこぶ作ったのか」

一瞬色んな感情で消えていた痛みがぶり返す。腫れてたのか。鈍い痛みに耐えていると、急に体が宙に浮く。

「お、お、おひめ、やめっ、このっ、エロじじい!」
「そんなこと言う子は、口を塞ごうか?・・・そんな全力で嫌がらなくても」

軽々と横抱きされて、矜持を粉砕していく男に罵倒した。冗談に聞こえない返しとともに、顔が近づいてきて、全力で両手で防いだ。

「冗談だよ、冗談。ははっ。さて、頭冷やそうな」


嘘つけーーー!目がガチだったぞ!


もろもろの疲労感と昼食を抜いたせいで、夕食で満腹になりお風呂に入ると眠気が襲ってきて、そのまま眠りついた・・・明日から頑張る・・・駄目じゃん、俺。





(箪笥の隙間に差し込まれた一切れの紙には。父親のような子供のような、男と少年が笑いあった絵が描かれていた)

16/5/4

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