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もしもの未来予想図(T)



朝起きて、隣を見た。八代がいない。
今日は早く行かなければならない日なのか・・・。

よし、やった!

少し早く密着から解放される!
コーヒー飲める!



もそもそと食べてテレビのニュースを見る、いつもの食事風景。普段は牛乳が入っている、マグカップに入れたコーヒーを飲む。・・・一回寝惚けて、朝食時にコーヒーを八代の前で飲んでしまってから開き直った。いつかの母さんのような反応を、八代にされたのはイラっとしたが。

八代がいない日の朝、いないのをいいことに堂々と飲んでいる。しかし、気づかないはずもないので、遠回しに子供のうちから飲みすぎないようにと言われた。子供ね・・・まだ見た目は中学生だけどさ。教師なのもあるせいか、八代は健康管理の面に厳しい。食事の献立は栄養面をしっかり考えられている。お前は主夫か何かなのかと声に出したら、悟を監禁してから気をつけるようになったなと、爽やかに照れていた。その表情にそぐわない物騒な発言。現在進行形で監禁している奴に監禁とはっきり言われてなんともいえない気持ちだ。自分で言うにはなんとも思わない・・・ん?それってやばくねーか、問題じゃないのか!?しっかりしろ藤沼悟!

この生活に慣れていく思考を覚ますため。ぐっと、残り少ないのコーヒーを一気飲みした。口端から垂れてテッシュで拭く。

「コーヒーが飲めることで喜んでる場合じゃないだろ・・・前にも別のことで思ったような。あいつとこんなゆるゆるした生活していたら、どんどん俺は駄目になっていく」

健全な生活、健康管理をしっかりするのは病気になるを防ぐため、それは普通のことだ。
行方不明になった子供を、多くの人間がいる場所の一つ。病院に、それも本人証明がいるところに連れていく。危険以外のなにものでもない。記録には確実に残る。それに、この場所が北海道なら確実に、俺の顔は知れ渡っているだろう。本州の方にも取り上げられたりはしただろうが。今から一、二年経っているとはいえテレビや新聞に大きく取り上げれた。今も、捜索は少なくともされてはいるだろう。病院にも通達はあるはず。



以前、思った。八代はなぜ俺を監禁したのだろう、と。
病気になったら今の考えたようなリスク。その他にも子供が成長していくのに様々な問題が増えていく。

「・・・手詰まりだ、これ以上考えてもなにも進まない」


ずっと引き延ばしていたことがあった。
俺は、表の人格者八代学≠ニ、裏の残忍な八代学≠フ一面≠オか知らない。八代学という人間が、今の八代学へとなる。どんな人生を歩んできたのか知らない。なぜ、少女たちを殺すことに至ったのか。

そして、俺自身のこと。お前の未来を知っている″ナ後の足掻きを言葉に出した意味を八代は知らない。


「ーーー八代学に踏み込む」


それが、どれほど危険か。選択次第で今度こそ死ぬ。
きっとそれはこの生活に終わり、すべてが決着をつける時がくる。


なぜだか無性に絵が描きたくなった。あてがわれた部屋へと、タンスから取り出してしばらくじっと見つめた。使うつもりがなかった画材一式。その中からスケッチブックへと、考えていることを描きだす。

母さん。
料理を作っている姿。笑っている姿。いつもの俺の一番の味方でいてくれた。最期の・・・これは消そう。

加代。
どこか諦めたいた表情が笑顔になっていく。一緒に見たクリスマスツリー。あの公園に彼女はいない。

賢也。
悟を信じると言ってくれた。俺が間違いを起こそうとした時止めてくれた。支えてくれた。

ヒロミ、ユウキさん。
カズ、オサム。
美里、彩。
澤田さん。

・・・あいり。最後まで、信じていてくれた。

描こうとしたけれど、手が止まる。この時代ではまだ産まれてもいない。彼女の存在を絵に残すのことは躊躇われた。

あの最悪の未来は消えた。でも、俺が確かに生きていた未来。



あの人たちと。
ーーー俺は、未来を生きたい。


16/5/4

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