メイン | ナノ



これは求めていなかった


目が覚めると、目の前に八代の顔のどアップ。
叫びそうな口を自分の両手で塞いだ。


「朝から同年代(精神年齢)に近い男の顔面なんざ、見たくねえよ・・・」

寝室から極力、気配を消して八代を起こさないように俺は脱出し、ダイニングの方へ避難している。今回は、抱き込まれていなかったので比較的に楽に脱出できた。熟れてきた感があって複雑。精神年齢を置いといて、身体年齢でも今年で中学生。親子でも寝ないだろ。



「あー、あつっ」

密封性の高い室内。シャツの襟元を人差し指を入れぱたぱたする。それで涼しくなるわけでもないので、小窓を少し開けた。外の方が涼しいのか気持ちのいい風が流れてくる。

「もう十一時か。寝すぎたな。ん?待てよ?あいつ、学校は・・・今日は休みか」

時計と予定表の書かれたカレンダー。何ヶ月の誕生日事件から確認癖がついた時間と曜日。
季節は初夏になっていた。




扉の事件からあまり変わらない日々が続いている。もちろん、テレビから外の世界の情報を得たり、新聞を読んだりしているのは続けている・・・が。

「平成の情報の入手速度が恋しい、スペックの高いスマホやパソコンがあったら、はあ・・・ぼやいててもしょうがない」

限られた情報に、あまり有益なものが見あたらない。取りこぼしているのもあるのか、また八代がいない時にでもしよう。

「もう、昼か・・・」

ぐーと腹の音がなる。昼だと認識したら腹が減ってきた。冷蔵庫を開けて、卵とベーコンを取り出す。味噌汁は即席のがあった。がっつり作る気はない。適当に焼いておこう。




気味が悪いくらいなんの変哲もない日々が過ぎていく。だいたい朝起きて、飯食って、八代を送りだして(強要)、自主勉強用の課題して(八代作成)、飯食って、室内でできることをして、八代が帰宅して、飯食って、テレビ見て、寝ての繰り返しで・・・ある日勝手≠ノ外に出れないこといがいゆるっとした監禁に、同棲かよ、といつものようにそれが口に出て八代に聞かれた時は、すぐさまリバイバルしたくなった。とんだ失言だ。八代が同棲、か≠ニ呟き返して、すごく失敗したと思った。

現時点で、数ヶ月前に起こった大きな事件。扉の事件
まんまであるが、俺にとっては重要な出来事だ。なんせ脱出できるかもしれないチャンスだったからだ。あれこれ考えすぎて、結局逃げはしなかった。



その時は八代の様子から、良い判断と思っていたが最近あの時逃げるべきだったんじゃないかと後悔してたりする。悪い方向ではないが良い方向とも言えない、俺と八代の関係に激変が訪れていた。

まずセクハラもどきがなくなった。故意に俺に撫でまわすのは減ったが、あいかわらず一緒にお風呂に入り、寝るのでどうなんだろう。同伴≠ナはあるが家の周りにだしてもらえる。家の中の部屋すべてに行き来きできるという自由が増えた。隠し部屋がないか探索中だ。これで八代がこそこそ不審な動きをしていても把握ができると単純に受けとめている・・・ただし、平日の家にいる時間含め休日は、どっぷり一緒にいる時間が増えた。それまで、ふらっと出かけることがなくなるほどに・・・微妙じゃなかったな、更に異常になっている。

もっとも後悔している理由がこれではない。



火をつけフライパンで適当に焼いていたら、カジュアルな服装の八代がダイニングに入ってくる。台所に立つ俺に、瞳を瞬かせて嬉しそうな顔をしていた。八代の存在を知らんぷりして、二人分をそれぞれの皿にわけていく。

背後から八代に軽く抱きしめられた。ぞわあああと、全身に鳥肌が立つのを感じた。恋人でも夫婦でもやるのかこんなこと。漫画のシュチュエーションか。

(またかよ!)

「悟が作ったのか?おいしそうだね」
「焼いた」
「だけ、でも悟が僕に作って≠ュれたんだろう?嬉しいな」
「・・・っ、机に運ぶか」
「僕が運ぶよ。ああ、でも離れがたいな。ははっ、悟。足踏まないでくれるかな?」
「う、うぜえええええええええ」(声に出した)
「声に出てるよ、悟」


以前から似たようなことはされてきた。
そこにーーーなかったはずの、どちらかといえばどういう反応かを見ていただけの行為にーーーあの特有の熱が含まれていた。それは、はっきり感じとってしまうほど。気のせいだと考えすぎだと、思いたかった。


16/5/2

- 13 -


[*前] | [次#]
ページ:



×