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想像力は無駄に豊か(W)




あいつにはそんなシュミがないと確信したはずだ。
平時であの本性だ、ブチ切れた時何をされるか・・・はもう考えるのはよそう。あの想像は最悪のケースの一つを予想しただけだ。下手をすれば、俺を殺すのではなく約束を破った見せしめに他の子をーーー


ぐうっ、と腹の音が鳴った。

「・・・こんな時に・・・空気読めよ俺の腹」


時間は昼過ぎくらいか、八代が帰ってくるまでにまだ時間はある。朝食を済ませた後に、今の今まで動きまわっていたからか腹を空かせてたのか。冷蔵庫に食べるものはあるから腹は満たせる。いつの間にこんなに体力が・・・そりゃそうか。家の中じゃろくに動きまわることもない、多少筋トレしてても鈍っていく一方か。

「・・・あああ!いつまでもこうしてる場合じゃない。考えるより行動しろ!」

立ち上がると玄関から外に出た。陽の光を外で直に浴びるのは久しぶりだ。深呼吸をして気持ちを切り替える。

「今できることをやる。それから飯を食おう」

逃げる、という選択はなしだ。でも、ちんたらする時間はない。外には出れる機会だ、周辺の様子だけでも散策する。外のスケッチをしておきたいが、これはさすがに見つかってバレたら厄介。モノとして保管せず、記憶に残すところまで情報は集める。

(木々の合間から見えていた廃墟の方にも行ってみよう。後は、唯一ここらに繋がる道も調べておくか。泥道でも雪もないし足跡つかねーよな・・・)

近くにあるものはあまり触れないようにしても、玄関の外側に細工とかついてないか探ってみてもまったくわからない。そんな気にかけても、正直すべて見透かされる気しかしない。

ーーーあえて逃げない≠ニいう行動は八代にどんな影響を与えるのか。それでも、俺は八代とずっと一緒にいる≠ツもりはない。




ドタバタと玄関から騒がしい音が聞こえてきた。

(帰って来た)

ソファーに寝転んで夕方のニュース見ていた俺は眉を顰めた。無意識の内に身が強張る。先ほど想像のせいもあるし、外に出て詮索した行動をとったこともある。そして、八代が帰ってきた。いま何が起こる。さあ、どう反応する。

バンっと、派手な音を立てて勢いよくダイニングに入って来た、八代の姿に少しビクっとした。心構えても恐怖が少しはある。何か探すように併設してるキッチンの方にむけて、こちらを見たーーー昏い瞳。錯覚だろうか、赤い色に染まっていた。いつか見たその瞳は、一瞬で驚いたように目を見開く。

「ーーーー」

無意識にこぼれたような呟きを聞いた。

「扉が開いていたはずだろう」
「え?なんのこと?扉開いてたの?」

堂々としらばっくれる。自分でも思うが・・・演技が白々しい。普通に鍵しめなおしたが誤魔化せないか。

「そうか、」

(あ、あれ?)

何か考えているような逡巡があったが、かけられた言葉はとても意味が汲み取れない。

「・・・僕には、君がわからない」
「いや、こっちがわからねえよ」

なぜか馬鹿を見るような眼に、俺は思わず言った。

結果的に、チャンスがあったのに逃げなかったという判断は正しかったようだ。あれは罠だったんだな。そう思っとこう。放心状態で八代は自分の書斎室にこもっていったが、俺はもう関わる気力がない。早すぎるが風呂入って寝よう。



・・・もし、俺の脱出が成功していたらなら八代はどうしたんだろう?それに、計算高く用意周到なあいつが、こんな一か八かの罠を張るだろうか?なぜ?

なんで?

聞き取った言葉は、そんな呟きだった。もしかして、本当は鍵を閉め忘れていただけ?・・・もう終わってしまったことだ。とにかく、今回みたいな試すようなことがあるなら今後も要注意だ。あの様子からお咎めはなさそうだが、今日は不本意に変な想像をしてしまったので距離をとっておこう。その件についてあいつが悪くないんだけどさ。それにしても、うーん。おいもっとこう緊張感とか緊迫感とかあるはずだと思って・・・こう、拍子抜けというのか・・・もっと、他にあったはず、対峙するような・・・確実に何かが変わるような(良い方向に)

なんで、不完全燃焼な気分なんだ?俺は一人騒いで盛り上がって、思い悩んで・・・でも、覚悟はしてたん・・・て、うわあ!
思い返すとただのイタイ奴じゃねーか!


16/4/30

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