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手の平あわせ


チャイムが鳴り下校しようとしていたときだ。

「悟、少し手伝ってくれ。明日の授業の準備物が細々してて人出が欲しいんだ」

教室の入り口にいる八代からそう声をかけられた。申し訳なさそうな表情している。

明日、日直の当番だったことを思いだす。準備物多い日があると当番前後か学級委員長が先生に手伝いを頼まれていた。それも滅多にないからか、それを聞いた女子たちが藤沼くん、八代先生の手伝いするのいいなーと言っていた。八代先生≠ェ好きな女子たちからしたら羨ましいことらしい。そこらへんの女子の気持ちはわからないが、年を重ねるうちに女子の裏を見ることあったため、純粋に羨ましがってるのを見ると眩しく思う。常々周りの若さが心にしみるというと、おっさん発言か。

「わかった、先生」

ランドセルを背負うとしていたのをまた机の横に戻し。八代へと返事をする。この後アジトに一緒に行こうとしていたケンヤとヒロミへと声をかける。

「ケンヤ、ヒロミ」

「先にアジトに行ったカズとオサムに言っとく」
「僕たちは先に向かうね。ごめんね、サトルくん」

ランドセルを背負ったまま待っていた二人も一連の流れを見ていたので、したっけと言いあいながらそこですんなりと別れた。




「ありがとう、悟。これですべて運んだよ・・・ごめんな、引き止めたから賢也たちと遊ぶ時間が減っちゃたな」

「いや、別にいいうわっ」

教卓の上に紙の束をどさりと置くと、その言葉とともに大きな手がわしゃわしゃと頭を撫でる。子供の姿なのだからどうしようもないが、元の年齢と近い同性にこうも頭を撫でられるとなんとも言いない気持ちになる。でも、こんな風に生徒と接しているから本当、尊敬できる先生だよなぁとしみじみ思う。このそつのなさが周りを惹きつけるんだろうか・・・ごく自然の流れで褒めるということは案外難しいものだと俺は思っている。



ふと、頭を撫でる手に意識が向く。

「・・・手、大きよな」
声に出てた。

うわあああ、いつもの癖で思ったことを言葉にしてしまった!いやいや、これくらい変じゃないよな!?普通だよなと心の中は自問自答。

「んー?」

ばっちり聞こえていただろう八代は微笑ましそうに見ている。口噤む俺をじっと見たあと、腰を屈めて急に両手を掴んだ。

「悟の手は小さいなー、ほら包みこめる」

両手を包みこまれ、半笑いの八代になんとなく癪に触る。羨ましいがってるように聞こえたのか、どこまでも余裕のある感じで子供をからかっている風に反撃したい気分だ。

「大人と、子供なんだから当たり前だろ」

中身は二十九歳の言い分としてどうなのか。あれ、これ結局ただの強がりにしか聞こえないんじゃないか?

「それもそうだ」

同意してるがにやけてるぞ。謎の疲労が蓄積しつつあるので、用が済んだならさっさと退散しよう。そろそろこの両手を外して欲しい。

「だから」

握りこんだ両手がぱっと開き、両手が緩んで掌を重ねあわせられる。

「悟も成長したら大きくなるさ」

子供の成長を見守る大人の顔で八代は言う。

油断をしていたところに、それがくすぐったくていまさらサイズの違う手に妙な気恥ずかしさが駆け上がってきて、したっけと言い捨てて逃走した。後ろからランドセル忘れてるぞーと八代の声が聞こえるが、こんな真っ赤な顔ですごすごと取りに行けるか。またそれを指摘されておちょくりにくる気がする。

お前がそんな行動をするから。



父親がいたならこんな感じなのか、と思ってしまうんだ!とーーーいつかそんな本音がもらしてしまいそうだった。



16/4/5

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