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想像力は無駄に豊か(V)



衝撃が強すぎて気が遠くなりそうなのを必死でふんばった。

冷静に、冷静に。

まず周りを詮索すると切り替えようとしたが、視界の端に車が入り込めるように適度に整備された道が見えた。

「タイヤの後が深く残っている・・・この先を辿って行けば」

走り続けてどこか隠れる場所を探す?(子供の体力でどれくらいもつ)
でも熊とかいたら?(そこまで山奥か)
車を見つける?(人里離れたような場所に都合よく通りすぎるのか)
子供が一人歩いていたら不審に思う?(それにいい人間とは限らない)

頭の中で様々なことが、考えては否定してを繰り返す。

一年以上も『脱出できたら』とやることを考えてシュミレーションしていたというのに。実際、いざ目の前にその可能性が現れたら、冷静に行動なんてできていない。

感情のままに動いたら、ろくな結果には繋がらない

「母さんが殺された時だってそうじゃないか・・・」

(逃げれる。帰れる)




八代との、約束は?

破れば確実に俺は殺される。一度目あっても、二度目はない。あいつも、見逃すことはしないだろう。

もし捕まってしまったら。



黒の革手袋はめた両手で首を締め上げられる。

『悟、君は僕との約束を破った』

だんだん力が増していき息が苦しくなる。掴んだ手首を離そうとするが、子供の姿じゃ大人の力には到底敵わない。

『失望したよ。君はもう少し賢いんだと思っていた』

だんだん息ができなくなって、今度こそ死≠覚悟した。

『・・・でも、ただ殺すだけじゃものたりないな』

縛られた両手首のまま、乱暴にベットへと放り投げられる。
柔らかい触感はあったが衝撃でしばらく目眩がした。揺れている視界に、八代が俺の上に覆い被さる。血の毛が引く。なにをされるのか、わかった。

『・・・むぐっ!?』

足掻きだとしても口を開こうとしたら塞がれた。生温かい他人の舌の触感が。反射的にガリッと噛みつき、口の中に血の味がする。

『・・・っ、悟・・・立場がわかってないようだね?』

血の滲んだ口端を袖で拭く八代が嗤っている。

『抵抗してくれた方が楽しめる、ははっ』

ーーー失敗した代償は大きい。





「・・・・・・・・・」

起こりうるかもしれない最悪の事態を想定した。あくまで、これまで八代にされたことを踏まえてだ。崩れおちてうずくまる。


「・・・なんでだよっ!」

主に俺の頭が。

漫画家を目指していただけあって、人より想像力はあると自負していた部分があった。しかしシュミレーションをしたの間違いだった。色々と間違えていた。

錯乱しているせいだ。そうに違いない。



16/4/26

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