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想像力は無駄に豊か(T)




掃除をするため家の中を歩き回っている時だった。

「・・・扉が開いて、る?」

ドアノブに手をかけたら、外の光景が映る。


俺の目の前に、ありえないと思っていたチャンスが現れた。





朝起きて、寝ぼけ眼で洗面所へと向かう。
目をごしごし擦りながら、鏡台の前を立つと蛇口を捻り水をだして顔を洗った。すっきりした頭で、ダイニングに行けば一人分の朝食が用意されている。席についてテレビをつけた。

すでにその場には八代はいない。この時期、三月四月になると忙しなくしていた。
普段から、朝食昼食は八代の休みの日以外合うことはないので、別にそれがどうしたとか思わない。

『それーーー市で、二十代のーーーーーーが、発見されーーーーーー警察は〜〜』

用意された食事を咀嚼しながら、朝のニュースを眺める。若いアナウンサーが最近起きた殺人事件を読み上げていた。

(めっきり俺に関するニュースは見なくなったな)

俺の失踪当時、多少差異はあるだろうがリバイバル前の雛月のような対策がとられたはず。子供が見ない時間を指定したのか、平日の早朝、昼食前後、深夜と情報や警戒ををうながすニュースは、テレビが解禁された頃にも少なからず放送されていた。しかしあれから一年、なんの動きのないものはいずれ忘却されていく。新しい問題や出来事が日々降り積もり埋没していくのだ。それも仕方のないことか。オリジナルの世界でのことを思い出して苦い気持ちになった。身近で起こった出来事でも、忘れさせようと忘れようとして、忘却した自分・・・だったはず、なのにな。

ちらりと母さんのことを思い出して、振り払った。自分の手を見れば、どこからどう見えても子供の小さな手。閉じて握り締めを繰り返す。

(誘拐された子供になっちまうなんてな・・・それ以前に殺されかけたが)

リバイバル後の今。何度も思う後悔が、深いため息となった。



鬱々した気分になったので他に被害者がでてないだけマシだと思い、食べおえ食器を片付ける。

いつからか、八代のあの言葉だけは信じるようになった。

『悟がこのままずっと一緒にいてくれたら、これからは他の子供を殺さないよ』

建前だけなんじゃないかと疑っていた。それが、鬱陶しいけれど休日はほぼ家にいる上、常に俺の側にいることや、たまに出掛けたとしても買い物してきたくらいか学校関係のことだとわかった。平日もできるだけ早く帰ってきて、仕事があっても持ちかえれるものは持ち帰ってくる。

八代がどういう風に計画を立て、子供を殺してきたのかすべてわからない。知っているのは賢也や澤田さんから聞いた情報や、あの車の中での自白のみ。俺の気のつかないところ寝ている間で、何かしているかもしれない。それでも、それだけは約束は守っているという直感はあった・・・あんまり頼りにならない直感だけどさ。




それを守ってもらわないと、俺が監禁されてる意味がない・・・だらだら俺を監禁する意味あるのか?

ここまで自分を追い詰めた、とは言っていた気がする。

車の中の叫びで急に気が変わったから観察しようという方向を推測してみた。で、わざわざ俺を引き揚げたとしてもいまだにあいつなんにも聞いてこねーし、てっきりそれが目的だと思っていた。過度のスキンシップや意味深い発言は、俺にあっちの気でもあるのかと思わせたけど、随分前にそれは違うとわかった。

子供とはいえ一人の人間を隠すなんてものすごい労力のはず。俺を監禁するってあいつにとって代償行為≠ノなり得るんだろうか?

駄目だ。考えても、考えてもわからない。


あ・・・そういや犯人がべらべら喋るなんて殺す前の行動によくある展開だった。最後まで否定してて気が動転していたとはいえ、もう少し早く他にアクションを・・・て、いったんこうなるとうじうじ悩むなあ。

「気晴らしに掃除でもするか。」

洗い終わった食器を立てかけると、クローゼットから掃除機を出す。この家の内の様相は洋風寄りだ。しっかりした作りは、なかなか値がするんじゃないかと思っている。

ナニカに使うため、この家も用意≠オていたんだろうか・・・。


八代に対する疑問ばかりを抱いて、外にいる大切な人達への焦燥をごまかした。


16/4/24

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