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彼はXデーとは気づかない(U)




正確には三月十四日だが・・・一年経つとわかっていたのにも関わらず、すっぽりと記憶から抜け落ちていた誕生日。一年前のこの日は、とてつもなく重要な日だった。二回目の今日、雛月を殺そうとした、殺されかけた奴に祝われるなんて、やっぱり嬉しいという感情はわかなかった。

それとも、認めたくなかったのか。




朝の宣言通り早く帰ってきたというのに買いすぎで、すべての荷物を片付ける頃には一時間経っていた。急いで準備している八代に、俺は内心もういいのにと思いながらも、片付けの流れでその手伝いをする。


ちらっと玉ねぎを刻んでいる八代を見た。

さっき片付けた食材から連想するにハンバーグか・・・俺の好きな食べ物の一つだ。八代の料理は、一人暮らしでも自炊していたそうなので、男の料理にしては丁寧に作られている。どちらかといえば・・・おいしい。意外なのは、野菜の皮むいたりするのはたどたどしいので、不器用な部分もあることだった。俺も人のこと言えないはしないが、自分で作ったことがありこれじゃない感を抱いてからそれ以来である。まあ、大人になってからもおおやけに言うわけでないが好物のままだった、な。

八代は『他にも色々用意しようとしていただけどね』と言っていたが、二人しかいないのにそんなにたくさん作っても食べきれない。いつかの、作りすぎたカレー地獄を思いだしてうぷっとなる。好きな料理でも何日も続くときつい。何事もほどほどが大事。



だいたい、誕生日というイメージはいつもよりご馳走か祝う相手の好物だが、この男が妙にはりきってるのが怖い。もしかしたら、純粋に祝っているのは建前で思惑は別であり、こいつの事だからとんでもないものを仕込んでいるんじゃないのか。

と、一瞬思った。

一緒にしているから変な動きを見逃さないようにしてればいい、ということを考えず、八代の持つ包丁の方に目を向けた。光に照らされて光るソレはーーーいつでも、こいつは俺を殺せる。今こうやって生きているのだって、気まぐれで生かされているんだ。たまにこの感覚が襲ってきては、あの冷たい水の感覚を思いださせた。

死んだ、と思った。走馬灯のように小さな頃の記憶から未来の記憶が流れてきて、真っ暗になった。

それから、目が覚めて見えたーーーあれは。

「悟、冷や汗かいてどうした?気分が悪いのか?」

びくっとして、はっと八代の顔の方を向く。普通に心配しているように見えた。



「顔色悪いぞ?」

大部分、お前の所為だ。
・・・と言ってやりたかったが、余計なことを喋りそうなので無言で黙ってしまった。


前向きに考えたい。でも、不安と恐怖はふっとした拍子に。


16/4/20

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