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いかがわしい方向は阻止したい



本当に。本当に何がどうなってこうなったかわからない。

殺されかけたはずの俺は鎖をつけられて監禁されている。



最後に走馬灯のようなものが見えてこれで終わりなのか、と思った束の間。目が覚めるとベッドの上で寝かされていた。ぼんやりとした意識の中、真横から覗いた八代の、光を映してない昏い目とあってゾッとしたのは、思いだしてはいまだに悪寒がする。目が死んでるのに表情は喜色を浮かべていたのだ。アンバランスなそれに不気味さを感じた。

それから数日、その状態で過ごしていたが体調が回復してくると、八代はある提案を持ちかけてきた。
悟がこのままずっと一緒にいてくれたら、これからは他の子供を殺さないよ
というトチ狂った条件だった。ああ、もうすでに狂ってる。あの去り際の台詞はなんだったんだ。と思いながらも、八代の真意はわからないまま俺はその条件を受け入れた。

逃げだしたい衝動はあった。

しかし、現時点でここが八代の自宅なのかわからず、外の状況がわからない今。その条件を受け入れるしかなかった。大人だった時でさえ母親殺し・放火殺人未遂に仕立て上げられ嵌められて、子供の体では監禁・・・本当につくづく俺は迂闊だ。提案されたその条件を必ず守るのか疑わしいが、俺に気をとられているうちは大丈夫なのかもしれない。と、自分自身を無理矢理納得させるしかなかった。

一番気持ち悪いのは八代の態度だ、八代先生≠フまま、生徒として俺に接するのだ。監禁してる時点でもう先生と生徒ではなく犯罪者と被害者だろ。車の中で見た八代学≠笆レが覚めた時に見たあの不気味な影が、まるで嘘だったかのように片鱗を見せない。

常に腹の探り合いが続いた状態。最初こそこの状況に絶望しかけたけれど、死んだと思ったはずの俺はまだ死んではいない。

生きていればチャンスが必ず訪れると、諦めてはいない。何度もリバイバルした経験が、少しだけ俺を冷静にさせてくれていた。他力本願もあるが、何よりあの勘の鋭い母さんを信じている。死んだ者として伝わっていても誘拐でも何十年経っても、俺の死体を確認するまでは諦めないで探し続けてくれる気がする。それにきっと一人じゃない。直感の冴えた澤田さんが母さんを支えてくれているはずだ。

ケンヤも、小さくても何か気がつく可能性があった・・・ケンヤには何度も俺は助けられている



未来に繋がる道はまだ見つけていない。

でも、まだ終わっていない。



前向きに捉えていた心を侵食するように、俺は八代のある行動に困惑していた。

ここで監禁されて、最初はやたらとスキンシップが激しいと思った。ハムスターを飼っていたのを聞いて、俺を愛玩動物とでも思っているのかと憤慨したが、触り方が厭らしくなったのに気づいてから別の意味で八代に対して恐怖を抱いた。



最初は手からだった。その次に腕。
指先を掴んだり、片手を両手で掴みこんだりと手の触感を・・・味わっているような触り方に鳥肌はたったがそれくらいならまだ我慢ができた。首筋を両手で絞められかけた時は抵抗した。実際は首を絞めたのではなく、鎖骨を撫でていたらしいが何の弁明にもならない。思わず吐きそうになってヘンタイと罵れば、なんか妙に喜んでいた。コワイ。

背筋をなぞられて、持っていたコップを落とした時は悲惨だった。散らばった破片を集めようとして指を切り、当然のように切った指を八代が舐めた時は気を失いそうになった。やけに官能的に見えて・・・ああ、これは思うださないようにしよう。

腰や太ももと触る手つきも照れるどころかおぞましさしか感じない。それも割合しよう。じゃないと俺の精神汚染が進んでしまう。子供を殺しても性的な感情がないとか言ってた癖に、急にそれを連想させるようなことをしてくる。俺に対する嫌がらせか、嫌がらせなのか?・・・だったらまだいい方だろうな。気持ち悪いのは変わりない。


そんなことを思いだしたくないのに思いだして、現在進行系でされるがままだった。今だってゆっくり、ゆっくり撫でている。だから、なんで 楽しそうなんだ。

「・・・八代」
「先生と呼びなさい」
「(このヤロウ)・・・先生」
「ん?何だ悟」
「膝の上に乗せる意味があるのか、あといちいち耳元で囁くな」
「スパイスのふかふかした毛並みには敵わないが、男の子とはいえ子供の触り心地はいい」
「ひっ、変態!犯罪者!」
「事実じゃないか」

それに開き直りすぎて余計にタチが悪い。


なんで貞操の心配しなくちゃならないんだろう・・・監禁の時点でまさかな、とは思っていた。その可能性がないと否定していたわけではない。

でも、どちらかというと実験動物を観察しているように感じられたから、油断していた。監禁されているのに油断も何もないのに、俺はまだ八代を心のどこかで信じているのか。

ーーーそんなわけあるはずないのに。殺されかけたんだぞ。



自問自答しているうちに内股を手でさすっていたので、力一杯、 鳩尾に叩きこんだ。


16/4/8

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