メイン | ナノ



相談事



母さんが殺されて戻れと願った世界。
未来を変えるため、やらなければならないことはたくさんある。

時が戻って子供の頃気づかなかった母さんの愛情。
十歳となった今、俺は母さんに何を返せるだろう。



今という時間で母さんに何かできないかと俺は考えたが、良いのが思いつかなかった。
家事手伝い、肩叩きというのも思いついたが、普段からそんなことをやらないからタイミングが難しい・・・普通にすればいいだけ、だけどさ。

何かさりげなくできることはないか。
ケンヤならいい案くれそうな気がしたが、いつもの階段の踊り場で話しあうことでもない。帰り道に聞こうかなと思ったが、あいにく今日は用事があるらしく先に帰ってしまった。カズやオサムに聞くにはつっこまれたくない部分までつっこまれそうだ。ヒロミに聞いてみようとして少し思い止まった。一生懸命考えてくれそうな気はする。

思ったいいがいざ行動に移すとなると、妙に恥ずかしいな。





ケンヤが帰った後、他のみんなも帰ってしまった。今日は雪が降ってるのでアジトには行かないだろうな。そんなことを考えながら、一人っ子いない放課後の教室で、俺もそろそろ帰り支度しようと黒のランドセルを背負った。

ああ、そうだ。ユウキさんに相談してみよう。なんで思いつかなかったのだろう。いつも色んなことを教えてくれていたのに。河原にいるだろうか、もう日が暮れているしいない時もあるだろうな・・・いちおう行ってはみよう。

「悟、一人で何してるんだ」
「うわあっ」

背後から声をかけられ全身びくっとする。
気配を感じなかったぞ、背後にいたのか気づかなかった。

「驚きすぎだな」

案の定、八代が後ろにいた。腰を屈めて両手に手をあて苦笑した表情でこちらを見ている。教室に生徒がいないか確認しに来たのか。今日一日ぼっーとしていたのかもしれない。気を引き締めよう。

「授業中も上の空だったな、何か悩み事でもあるのか?」
「え、バレてた」

声に出てた。気まずくなり口を両手で塞いだ。
気づいていたのかと思ったが、生徒をよく見ているこの教師が気づかないことなんてないかもしれない。そんな考えがするりと出てくるくらい、信頼を置いているのかと自分の思考に少しドキマギする。

「先生。大人て何したら喜ぶ?」

この前、八代に友達作りのことを相談にのってもらっていたのを思い出した。また相談するというのは考えていなかった。頼ってばかりといのも・・・うーん、相談できる大人は少ない。ユウキさんにもまた聞くとして、八代にも聞いてみよう。

「・・・え」
「か、母、お母さんに何かしたいと思って、先生いま何考えたの?」
「ああ、そういう事か。悟、なんでまた・・・て聞くのも野暮か?悟が心からすることはなんでもお母さんにとって嬉しいんじゃないか?」

言い方が妙だったかもしれないが、硬直するほどじゃないとは思う。付け加えて言えば、納得したようにそんな回答がきた。硬直した理由聞けばスルーした。深くつっこむことでもない。

「それは、わかっているけど」
「なら、悟がしたいと思っていることしてあげなさい。家事手伝いとか肩叩きとか、案は浮かんでいるんだろう?もし失敗したとしても何かをしようとしてくれた≠ニいうだけで嬉しいと、僕は思うよ」

い、色々、見透かされている。本当なんか人心掌握術に長けてるな、思わず感嘆してしまう。さすが八代。この後押しするような勇気づける言葉に、難しく考えていたことが軽くなった。

ーーーごちゃごちゃ考える前に、やってみよう。

「ありがとう。先生て、先生なんだな」
「先生、だよ。悟」


八代は、お前は俺をどう思っているんだ。と笑っていた。
これ以上を遅くなる前に帰りなさい、寄り道はするなよと言われ、そのまま真っ直ぐに帰ることした。送っていこうかと言われそれは断る。八代だって教師としてやることがたくさんあるだろうに・・・それにしても、もしかして誰かに後押しされたかったのか俺・・・しっかりしろ二十九歳!



機会は早く巡ってくるものだった。

『ちょっと仕事が遅くなるだべ』

家に帰った直後に、母さんから仕事が遅くなると電話がかかってきた。大概早く帰ってきてくるのに今日は珍しい日だ。

「うん、わかった。夕ごはん勝手に食べとけばいい?」
『簡単に食べれるもの、カップ麺しかないべ。仕方ないけどそれ食べといて』
「お母さんも、帰ってから食べれるの?」
『買い物する暇もない』
「お、おつかれ様。仕事頑張ってね」
『火を使う時は気をつけて』
「ガスコンロくらい使えるよ!』

「さて」

電話は終わり、長袖を腕まくりして冷蔵庫へと向かった。中身を隅々まで見て、それらから俺が作れそうなもの思い浮かべた。

「電話では、ああ言ったけどな」

母さんが帰って来るまでに食べれるものを作る。
一人暮らししていた時でもろくに料理を作らなかった俺がはたして食えるものを作れるのか。



16/4/9
16/4/10微修正

- 30 -


[*前] | [次#]
ページ:



×