その他シリーズ | ナノ





結局お互い不器用でした


彼女は不器用な人だった。

心境を語る鳴狐は、審神者の初期刀だった。




本来、鳴狐は初期刀の枠組みでは無い。

ただ彼女が初期刀を選ぶ時、何か不具合があったらしく自身がその役目を請け負うこととなった。初めて彼女に自身の人の姿を現した時、『いけめんふぁんたじー』と謎の言葉を漏らし絶句して崩れ落ちた。のち逃走されたのが記憶に残っている。最終的に、他の人間たちに捕獲されていた。

その後、お供の狐の話術の助けもあって彼女とは最低限、主従としての関係は築けたと思う。むしろ、お供の狐がいなかったら永久に壁があったと思う。喋る狐は形容できるらしく、こんのすけとお供の狐やその他に囲まれている時は柔らかな雰囲気を醸しだしていた。

鳴狐は彼女を主とは呼ばないことにした。そもそも、口を開く機会はほぼない。人付き合いは苦手ではあるが、彼女の様子から主と呼ばれることを好きではないように感じていた。それは、鳴狐が勝手に思っていることで他の粟田口や刀剣たちには伝えることでもないと判断している。それに自身以外に気付いている者もいるようだ。 そうしているうちに、彼女も鳴狐に慣れてきたのか砕けた態度で接してくれるようになった。どっちも会話は長く続かなくお供の狐の独壇場ではあったが、その雰囲気は嫌ではない。

そこに、また骨喰藤四郎も加わる。お供の狐が少しの間いないとき部屋に三人で無言でいたら、それを目撃した刀剣に何故か心配された。お供の狐が大丈夫だと納得させていたが。 自身は彼女にとって初期刀ではあるが、特にそこに特別なものを彼女は感じてはなかったようだ。ただこの本丸にいる刀剣たちの中では親しい位置にいただろう。どうやら他の者に不仲にも見えたらしいが、そういった関係とわかれば不思議そうにはするが心配はしなくなった。


短刀・脇差・打刀の人姿を見て、また逃げようとしたので捕まえた。お供の狐が理由を問いただしたら。

『こんなに大勢と住むのは慣れていないゆえ逃げました。申し訳ございません』

と、土下座されあたふたした。結局その時は少しずつ慣れていこうとなり収まったが、太刀・槍・薙刀とか見てしまったら遡る時代に飛び込んでいきそうなので、当時いた刀剣たちと念蜜に話し合った。あとは演練の相手の部隊に必ずいるのでよく見るようにした。帰ってきた審神者は部屋で転がりまくっていた。ちなみにこの行動はばれていないと思っていたらしいが、ばっちり全員把握していた。 それでも、短刀が多く人数が少ない最初の頃はまだ彼女もうまく関われていたと思う。あたふたしていた彼女も、審神者としてやる事も慣れてきて精神的余裕ができた。 短刀達に誘われてもよく遊んでいた。短刀には粟田口が多いので、彼らが仲良くしている姿は嬉しかった。



それも短い間だった。 思ったより早くに刀剣を揃えてしまった。そのせいなのか、審神者の仕事が増え精神的に余裕がなくなった。(太刀以上の反応はいつも通りなんとかしたが、演練での下見があったので彼女も徐々に落ち着いてきていた)

よく誘っていた刀剣たちも彼女の不器用なところ知ってるので集中できるように気遣って、徐々に誘う回数を減らしていった。逆にそういった仕事の手助けをするのが得意な長谷部や薬研はよく手伝っていたが仕事ができすぎるため、彼女は刀剣たちの気遣いと能力の劣等感に申し訳なさと自己嫌悪を抱いていたようだ。

『大将が頑張っていることは知っているんだ。近くで一緒に仕事してりゃわかる。確かに容量は悪いかもしれないが、少しずつ改善していってるぜ?誰だって成長するのは時間がかかるさ、他の人間に何が言われようが俺は大将を支えていきたい』

『小さなものでも間違ったところをそのまま提出すれば、また主が気奴らに嫌な思いをさせられるだろう。唇を噛み締めて耐える主の姿を見るなど耐えられん!そもそも粗探ししてる場合があるなら、もっとやることがあるだろうに・・・まったく!例え、主に誤解されても外部の攻撃から主を守るためなら俺は!』

薬研と長谷部の心境を聞くと、彼女の真面目に取り組む姿は好ましく受け止めていたーーーもしかしたら、もっとこういうことを伝えれば良かったのかもしれない。

他の人間とは、彼女の能力に比べて能力値の高い刀剣たちの集まりがいいので、心良く思わない連中が粗探しして鬱陶しく絡んできていた。幸い彼女の直属の上司はまとものようで、最悪な事態にはならなかった。



彼女は仕事だけじゃなく手先も不器用だった。 料理ができないというわけじゃないけれど得意ではなかった。家事が得意な方の燭台切や歌仙はそういった類の本や動く絵(動画と聞いた)見て様々な料理を作れるようになり、彼女は彼らにお任せしていた。でも、彼らが遠征や出陣でいない時こっそり練習していたのは知っている。上手くいく時といかない時の差は激しかったけれど。

隙をみて彼女が作ったであろうお稲荷を小狐丸と鳴狐で食べて、手入れ部屋行きになったのは後悔してない。彼女には決して原因を言わない。黙秘を貫き通した。

『女の子である主に刀剣である僕らが料理を教えるのは自尊心をさらに傷つけさせてしまうかもしれないと、どうすればいいのか悩んでいるんだ』

『普通に美味しそうなお稲荷に見えた、と?でも、味の威力が・・・主は別の部分が原因かもしれない』

戻ってきた頭を抱えていた燭台切と歌仙も思うところはあるようだ。


彼女は兵法や戦事を知らない。でも、自身が無知であると自覚していた。 手入以外のことは刀剣たちに丸投げしていたが、自分たちで自由にできたのでそれはそれでやりやすいかった。しかし、好戦的な刀剣たちが疲労や傷ついたまま出陣を行ってしまった。 これは流石に危ないと感じ彼女は、休んでから行くか回数を少し減らすか手入れを受けて欲しいと言った。

その言い分に反論があったらしく、出陣に関して何もしてない彼女は言葉を伝えるのも苦手なのも合わさり結局、何も言えなかった。 でも、心痛めていたことは、こっそり勉強している彼女に色んなことを教えていたらわかった。骨喰はなんとかしてやりたいと言っていた。

だがある時、ついに出陣して破壊寸前で帰ってきた刀剣達を、血の気が引いた顔で急いで手入する事件が起きた。 手入れし終わりことなきを得たけれど、そのまま黙って彼女は手入部屋を後にした。手入れされた刀剣たちは流石に愛想つかされたと思っていたことと、今回の失態に落ちこんでいた。 実は本丸内の見つかりにくい隅っこの方で、彼女が泣いていたの発見した妖精たちにこっそり鳴狐に教えてくれたのを聞いた、一部の刀剣が全力で突撃しにいくのを阻止した。たぶん、見られたくないと思うからと渋々納得してくれた。

今回の事件の当時者たちに、彼女は兵法のことをこっそり勉強していることや出陣で傷ついた姿に心を痛めていたことを骨喰とともに伝えた(ほぼお供の狐の)

『・・・手入れされたときに伝わってきた』

『ちゃんと会話していかなきゃだな』

『すぐさま、直してくれたからな。あんな泣きそうな顔を初めて見たよ』

見せないようにしていたことも気づき、不器用な部分を無関心と捉えていたことも考え直して、少しずつまた関係が変わっていたことも彼女には気づいて欲しかった。いや、これもまた・・・。



そして僕ら刀剣の意識が劇的に変わる事件が起きた。

彼女は刀剣にこだわりなかった。そう言うと言葉が足りないので誤解されがちだが、鳴狐ははっきりと無関心ではないと断言しておく。誤解されがちな部分はこれまで語ってきた心境に記している。

人間は比較するのが好きらしい。 何度か義務で演練や他の人間のいる場所へ赴くことがあった。そこでなるべく彼女は主≠轤オく振舞っていたが、どこかぎこちなかった。彼女の性格上、上に立つ人間ではないともうわかっている。でも、それはあまり良くない厄介な人間に目をつけられやすかった。 れあ・・・レア刀剣と審神者に言われる刀剣たちを部隊に入れて演練に参加したら、運が悪かくレア刀剣を寄越せ、自分の方がもっと上手く使ってやる強くしてやる≠ニ言うような審神者にあたってしまった。実際こちらの部隊よりも練度はあちらの方が高かったが、それも無理な出陣で上がっていた練度だと思われた。

その時の演練には似たような人間が集まっていたのか、くすくすと笑って陰口を囁やいていた。あの人間たちは彼女を自身より劣ってると判断していた。何も言わない彼女に調子乗ったのか、自分が勝ったら貰ってやる≠ニかぬかしてきた。今思い出しても、腹がたつ。部隊の者が殺気だったのは言うまでもない。お供の狐が、口撃を放とうとしたのを彼女が塞いだ。


彼女は相手の審神者に何も言わず、鳴狐たちにこう告げた。

『相手の刀剣には悪いが、完膚なきまで叩きのめせ』

あまり命令することの無い審神者の主命に、部隊のみんなは闘気が上がってしまい。苛立ちもあわさって申し訳ないけれど完膚なきまで叩きのめした。演練を管理する政府の人間はまとものだったようで、審判は公平にされた。 圧倒的に瞬殺すれば、相手の審神者が硬直していたのち口汚く罵ってきて事実にないことを散々言われた。あと自身の刀剣たちも罵っていた。浅はかである。

『貴方に差し上げる刀剣は一振もいません。他人の刀を欲しがるくらいならご自身の刀剣達を大切になさったらどうですか?

・・・あと、我が本丸の刀剣・・・彼らは、とても強いです。うちの刀剣たちは強いので!』



そう言い捨てそのまま帰ってきた。彼女は審神者部屋で転げまわりながら、押入れに閉じこもった。 やってしまったと不安をもらしていたが、刀剣たちとっては本音を知れたということで嬉しい出来事だった。その時のレア刀剣というのが鶴丸国永と鶯丸。彼女の積極的に関わる刀剣の一員に加わる。・・・その一件で碌でもない連中を敵に回してしまったけれど。


後日。
彼女の直属の上司が、相手の審神者は先の演練での行動が決定的となりある疑いで権限のもと調査すると証拠が出てきたので逮捕された、と相手のその後を教えてもらった。その本丸はブラック本丸だったらしいが、引き継ぎの審神者と協力して建て直しているとのこと。



今一度振り返ってみると、この研修が行われる前までは順調に進んでいたはずーーーいや、自分たちでもわかっているのだ。そう望んだ未来にするために手っ取り早くすることも。見習いを巻き込んだことも。

僕たちだって。



15/11/8

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