その他シリーズ | ナノ





自分には無理だと決めつけた



「ーーー主よ、俺たちはこの者≠ノついて行きたくなった。これは、俺たちの総意だ 」

「・・・それは、彼女を新たな主≠ノ据えると?」


「ああ、そうなるな・・・というとでも思って」
「そう、わかった。じゃあ、今日付けで私、主辞めるね」


「「え・・・?」」



全員の声が重なる。





「詳しい手続きとかこんのすけ・・・介さなくてもいけるか。報告すればすぐに、すんなり済むから。あ、そうそう見習いさん。審神者室にある私の私物だいたい片付けてあるから、まあ、あとは好きに判断して。あと、このこんのすけと妖精さんと数個の刀装兵は連れて行くね。頼めば代わりの派遣してくれると思うよ」

そう言って、用意しておいた必要最低限の荷物を担ぎ。すでに、妖精さんと刀装兵がいらっしゃる大きなトートバックに、ぽかんと口を開けてフリーズしたままのこんのすけを片手で掴み押し込んだ。



大広間に集まったフリーズしたままの、四十六振と見習いの審神者に別れを告げる。

「じゃあ、今までありがとう、お世話になりました!みんなも元気に達者でな!」

満面の笑みを浮かべやりきったぜ!≠ニいう使命感を感じながら私は私の本丸ーーー辞めたくて辞めたくて仕方がなかった職場を去った。



三日月宗近による、主クビ宣言。

代表的な数振に伝えて去ろうと思っていた、その前に呼び出されたから仕方ない。四十六+α対一とか心を抉るような場面だったけど、三日月の言質と全員の総意とやらはポケットに隠し持っていたICレコーダーに録ってある。これが通用するかどうかは置いといて、一応保険。とにかく今は仕事を辞めたような開放感を大いに味わってやる!

でも、すぐにハ◯ーワーク(政府)に行かねばならんけどね!


とりあえず担当さんに連絡するか。門から政府に行くコードを打ち込んでその繋ぎの道を歩いて電話をかけようとしている時だった。フリーズしたままのこんのすけが起動する。

「審神者様あああああ!何してらっしゃるんですか!?あんな・・・ほい!と引き継ぎを行うなんて!?いえ、前々から辞めたい辞めたい家に帰りたいと仰ていましたが!ま、まさか!見習い様を引き受けたのもこんな意図を!?てっきり貴女が、これをきっかけにコミュニケーション能力不足を直していきたいと仰る・・・おっしゃるから!・・・感動していたのに!」

「さすがこんのすけ!私の真の目的に気付くとは・・・ま、もう遅いぜ。こんのすけと私は長い付き合いだよね〜これからもよろしく!」

「肯定ですか!?」

「とりあえずな、担当さんに連絡する。それに政府に本丸明け渡せていう指令来てたし」

「ちょっと話終わっていませんよ!?ちょ、え、はああああ?!」


キャンキャン言いながら嘆くこんのすけに返事を返してスルーする。


二年という歳月で不器用な人間が、何故か揃えてしまった四十六振との関係を築くなんて無理な話だったのだ。てか審神者辞めたい。イケメンの赤の他人と職場と自宅が一緒とか・・・この世は地獄です。



私は他人と良い関係を築くのが下手くそだった。そして、のろまで不器用だった。

いじめられはしなかったがいつも一人であった。女子のグループ行動が苦手だし何の会話していい分からない。興味あることが世間一般とあわない。自分から一人を望んでいたのもあった部分もあるけど。(いえ、別に某龍の人とかみたいじゃないですよ!あの人なんだかんだ、周りと協調してたし、知り合いは面倒見の良い方だったみたいだし)

一応、心を許せるというか、友人と呼べる人は一人いた。ある日突然いなくなってしまったけれど。

でも、家族仲は良い方だ。
温厚な父、口煩い部分はあるけど頼りになる母、マセはじめた妹。
父や母はももちろん特に妹の存在は有難かった。口下手で容量悪い私の事を嫌わず、小さい頃から現世にいるまで一緒に遊んでくれたのは仲良くしてくれていたのは本当に救いです。今でも連絡(私から)をとりあってますし!よく家族離れをしろよと、目上の人達に言われていた無理な話ってもんです。


そんな穏やかに暮らしていた私にある日。

時の政府とかいう胡散臭い連中に、審神者という怪しい職業に強引につかされたのが悲劇の始まり。歴史変えようとするテロリストに対抗するため刀の神様を呼び起こし、力を貸してもらって戦ってもらうとかどんなファンタジーだ。そしてそんな主人公立ち位置のポジション?についてしまった哀れなコミュ症一人。無理だわ。無理すっわ。イケメンな神様集団に四十六日中囲まれながら、主、主と慕われ日々を過ごしていくとか無理。人の姿してるからこんな大勢の異性に囲まれるなんざあるわけない。集団で行う学校行事もほぼ一人だったし。

私は彼らを家族≠セと思えなかった。だから住み込みで働き同僚と会社で働いている設定にした。だって家にしたら逃げ道ないじゃん。心の逃げ道ないじゃん!気が休まらない。仕事場と家が一緒とか何それ恐ろしい!その現実に、膝から崩れ落ちたさ。

まあ、あとはお分かりであろう。

器量がないから報告書はなかなか進まない。政府に提出するのに一苦労だ。
それを毎日、時間はかかるが頑張ってやるけど、長谷部や薬研とかの手先の器用な刀剣達が手伝ったらサクッと終わってミスも少ない。彼らが苦笑気味に申し訳なさそうに、ミスを報告してくれるのを何度も繰り返させたのは思い出すと胃がキリキリする。私が申し訳ない。

日々の生活これまですべて母や妹に任せきっりの駄目人間だった私。 い、一応は家事や料理はやったらできるちゃできる。でも、遅い。あんまり美味しくない。数回、ダークマターを作ってしまったことがある。
燭台切や歌仙とかの方が遥かに美味しくて、彼らがこの本丸に来てからはずっとお任せしてる。でも、それじゃ駄目だから遠征や出陣に行ってもらってる間に練習に作るけど不味い。

平和な現代社会で暮らしていた私。
戦事とか兵法とかわからない。 手入以外のことはすべて彼らに丸投げしていた。それに彼ら異論なかったと思う。むしろ、素人が関わってくるなという雰囲気を感じた。刀装とかは骨喰や鳴狐と一緒に作ったりすることが多かったな。口数は少ないけど、ぽつりぽつりと兵法とか色々教えてくれた。こっそり勉強していたのを気付いていたみたいだ・・・彼らは人を見てるタイプだったのか、気遣いが嬉しかった。でも、その勉強したことがなかなか頭に入らなくて悔しかった。

そして刀剣との関わり。

最初の頃はまだ良かった思う。人数も少なかったし。
年数が経つにつれやる事が増えるし人数が増えた。刀剣は積極的に集めていたわけじゃないのに物欲センサーかなんかわからんが実装されてるのはすべてお越しになってしまった。それは栄誉あることでその本丸は、優遇はされるけど更にやることがどっさり増える。他のろくでもない審神者のやっかみとかいわれのない噂に演練をどれだけボイコットしたかったか。

そして、個人個人で関わりあうなんてすっごく大変だ。しかも、刀剣男士だって個性はあるもので相性だってある。衝突したこともあるしそっちの方が多かったと思う。 私は口下手だった。自分が思ってることを伝えるのがなかなか上手く言えなくて、ある時出陣して破壊寸前で帰ってきた刀剣達を急いで手入してことなきを得たけれど、出陣に関して何も指示していない私が何も言える訳にいかず、そのまま黙って手入部屋を後にした。それから、本丸内の見つかりにくい隅っこの方で泣いた。なんで何も言えないだろうて。ああ私もお供の狐ちゃんみたいな存在に代弁してもらいたい。 その上、不器用が足引っ張っていたのも十分あるけど審神者業の仕事の処理に追われて、短刀達や友好的な刀剣達のお誘いを幾度となくお断りしてしまったことがある。徐々に誘われなくなったことにほっとしてる自分が情けなかった。

これじゃあいけないと思って目安箱のようなものを設置してみたけど、鶯丸が茶葉が切れたとか、大包平とか、新しい茶葉入れてくれとしか、いつもの要望しか書いたやつしかなかった。でも、貴重な利用者なので対応はした。これは結果的に失敗だったのだろうか。

私の頭の中はパンク寸前だった。何度、門(ゲート)から時代にダイブしようかと思った。

ああ、辞めたい。辞めたい。でも、辞めれられない。帰りたい、帰りたい。家に帰りたい。子供の頃に戻りたい。色々、胸が苦しくなって、自分が情けなくて、何度枕を濡らしたことか。

ある日、気晴らしに本丸の天守閣ぽいっところから景色や庭で遊ぶ短刀達を見てたら、腕を鶴丸に掴まれ物凄い後ろに引かれた時はビビった。どうだ驚いたか、と言っていたがめちゃ真顔だったからあれは怖かった。何か盛大に勘違いされてた。そんなに死にそうな顔をしてた?

三日月が来たときとか。泣きそうになった。この人の主になるの?と。なんだアレ。存在感半端ねえ。逃げたい、超逃げたい。



壮観な四十六振の美貌に目が眩む・・・なんて私には無理で、この存在の上に立つとかこの時すでに心折れた。私の性格上、むしろ人の下にいるタイプだ。 そんな時に政府の方から見習いの研修を要請された。その見習いは政府のお偉い方の娘さんだとか。しかも同年代。

期間は一ヶ月。容姿端麗、文武両道、霊力豊満、性格良し、器量良し、の二次元から飛び出して来ちまったようなパーフェクトチートな女神降臨。 この時思った。キタアアア!と見習い展開キター!とね。

本丸に見習いがやってきて乗っ取られるというお話はご存知だろうか?

逆に悪逆非道な審神者から刀剣達を救出しちゃうケースもあるが。でも、私の場合は違う。この見習いならこの本丸、全振揃ってるし性格良さそうだし話に聞くブラック本丸のようにならないだろう。彼女なら自分よりいい主になるかもしれないのは建前で本音はこの見習いに全部放り投げようだった。どうしようもない人間なのは自覚済みだ。 全部放り投げたい私と見習い自身の本音はわからないが政府から本丸明け渡せ指令。利害一致である。私は見習いを利用することにした。こんのすけだけは、風の噂でも聞いたのか政府の報告で聞いたのか、見習いを受け入れてのトラブル多発に危惧していた。そこはいいようにいってそそのかした。



案の定、彼女はすぐに本丸へと馴染んだ。私と同じ同性で年代。比べようないくらいの比較対象がいるわけで。一週間で、すべての刀剣とのいい関係を築いた。公私混同せず、公平に彼らと関わっていた。箱入り娘かと思えば、戦事について知識が豊満らしく。見習いを指揮官として行軍を行ったら、とんでもない結果を残したらしい。これはがっちりと刀達のハートを掴んだと思う。 刀剣達の誘いに快く乗り片手に仕事を驚くスピードではく。仕事については私がのろのろしすぎて、見習いがやった方が早いからか、いつの間にかしてくれてた。その姿に更に刀剣達の視線を集めたことだろう。何もすることがなくなった私。駄目人間なので、本丸の雑用しながらこんのすけに愚痴をいう。通りすがりの刀剣にその姿を晒す。見習いへの好感度は加速するだろう!

こんのすけも私の真意に気付くことなく。まったくこの審神者はという目で見られながらも私の相手をしてくれた。こんのすけごめん。



徐々に彼女の周りに集い慕っていた。

見習いの研修が終わるころが近づいてきた、そろそろ誰かからクビをいわれる時のために荷物をまとめておいた。最近、地味にだけど積極的に関わってくる鳴狐や骨喰に見られて、問い詰めれれたがなんとか誤魔化した。何振か慕ってくれる刀はいるけど、もういいんだ。傷つけるかもしれないけど、連れて行く気はない。せっかくだし仲間や兄弟達といる方がいいだろう。こちらからつきつけるより、あちらからつきけるほうが穏便にすむような気がする。それまでに、バレたら駄目だ。



そしてーーー先程、三日月に大広間に呼び出された。

その理由と。
「ーーー主よ、俺たちはこの者≠ノついて行きたくなった。これは、俺たちの総意だ 」
宣言。

だけど私にとっては主≠ゥらの解放。


見ようによっては乗っ取られたかもしれないな、一応政府の明け渡せ指令もあるし。 今回の件は私の容量不足、能力不足、というか色んなものの積み重ねで自業自得の結果だ。無責任ともいうーーーいずれこうなるだろうと予測はしていた。 ああやって真っ向から言われるのはちょっと寂しいが、解放感の気持ちが勝っている。


これを機にこの件をチラつかせて審神者は辞めれないかなー。無責任な審神者です、てな。 でも、無理だろうな。審神者業界、増えてたのに最近人が少なくなったらしいし。 いやいや、まあ一応言ってみるか。 こんのすけや妖精さん、刀装兵連れていけないかな。現世に。



担当さんに電話が繋がり、見えてきた入り口を通った。
そういや、三日月なんか言いかけてたな。

もう、関係ないか。



15/7/12

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