その他シリーズ | ナノ





きっと君なら大丈夫

時刻は昼過ぎ。本丸。審神者室。落ちこむ女審神者が一人。
押入れに身体を押しこむように、縮こまって体育座りをしていた。

隠れるようにして心置きなく落ちこんでいる彼女だが、ブツブツと独り言を喋っている。場所が場所なので通りがかる刀剣達は、気味悪がって近づいてこない。その上に噂が大変なことになっていると気付いていない。なんせ部屋は暗いまま、少し覗けば押入れという狭いところでブツブツ呟いている上、気分が重くなるようなオーラをだしているのだ。普段の行動から、なにかと微妙に距離を置かれている彼女だが、更にイタい変人に認識を改められている。厄介なことにその事実に彼女は気づいていない。

このまま放置すれば更に厄介になることは目にみえているので、彼らはお互い見合わせて声をかけることにした。






「わあああイヤダアアアもうダメだああああ」

堪えきれず叫んだと同時に、押入れの扉がスパーンと開かれる。

「ついにあんたがおかしくなったて聞いたけど、何してるんだ?」
「もうこれ以上、おかしくならないでくれよ。ある意味イカれてるて思われてんだから」

かける言葉は少々辛辣だった。

私はこの本丸を引き継いだ二代目の審神者だ。この職業に就くときなかなかの修羅場だったので、審神者として精進するため修行する日々。ぶっちゃっけあんまりたいしたことはしていない。
話はうってかわって、私は押入れの中で落ち込んでいた。その押入れの扉を開いたのは同じ制服を着た少年たち、なにもかも疲れきったような色の三白眼が特徴の短髪の少年と、胡乱げな表情をしているツリ目と紫のメッシュが特徴の少年。

「事情があるみたいだけどさ、うちのチビどもが不気味て言って心配してっから、静かにしてくれ」
「周りの奴らが武装しだしてるから、落ち着けよ大将」
「いきなりしんらつだね!?」

理由を聞くでもなく彼等の冷たい言葉に、落ち込んでいたが思わずつっこんだ。
話かけてきてくれたのは、後藤藤四郎くんと厚藤四郎くん。この本丸で関わることの多い刀剣だからか、今日も短刀代表として話かけてきてくれたのだろう。この子ら以外にも話せる刀剣はいるにはいるが。

私のツッコミをスルーして彼は話を続けた。

「ところで、押入れの中で何ぶつぶつ呟いてたんだ?」
「え!声に出てた?」
「自覚なしかよ!まあ、いつものことだけどさ」
「今、本丸内は神妙な空気に包まれているぞ」

そんなにわかるもの?部屋の外にはでてないはず…優しい刀剣たちではあるけど、理由を聞かれているのだからそろそろ話そう。何かあるたびに関わってきてはくれるので、今回もまだ嫌われてはいないと思う。情けはまだある!話を聞いてくれるみたいだし。

「実は見合い話がきてて、ほとんど勝手に結婚が決まっていることが発覚して」

これが私が悩んでいた原因。その発端が私の両親。何時までも一人身の娘に心配してそういう話を持ってくるなら申し訳ないと思う。そうならまだ良かった。今の今まで、私自身のことなど素知らぬ癖してきたのに今更である。

「おめでとう、大将!」
「赤飯だな!」

「ちょっ、えええ、まだなんにも話してないのに!?一言で終わらすな―っ!」

二人の顔がそれはそれは、祝福するような笑顔が浮かべられていた。そうだった!この刀たちからしたら、戦略結婚とかあたりまえの認識だったじゃないか!でも、流石にこれは酷いんじゃない!?

「身を落ち着けてみてもいーじゃね?」
「い、嫌だ!結婚したくないんだよ!て、違うよっ決まっているような物≠ニ言ったけど確定してねーから!!!!確定しそうな雰囲気なの!」

「激しく否定しなくても…もう大将も●●歳だろ?」
「規制音入るくらい歳とってない」

怒りに震えていた私の心は急激にしぼんでいった。そういわれると、なんだか泣きたくなってくる。やっぱりこんな所で悩んでいたのが悪かったのか。いつもならこのくらいで落ち込むことはない、きゅっと身を縮みこませ顔を伏せた。体育座りなので膝を抱えた拗ねた子供みたいになっている。ああ、本当に私はかっこ悪いな。沈黙が続く中、彼等はどう思っているのか?駄々をこねる子供みたいだと呆れているだろうな。いや、彼らから見たら私なんて小娘なもんだけどさ。

「ごめんな」
「えっ?」

少しトーンの落ちた声が上から降ってきた。それと同時にぎこちない手が私の頭を撫でる。彼等を見上げると、困ったように苦笑を浮かべる二人がいた。バツ悪そうに目を泳がせている。ちょっとうなだれている。

「あんまりにも、沈んでいたから…いつも通りに振舞っていたらその内元気が戻るんじゃないかと…逆効果だったみたいだ」
「帰れる手段あるなら、ここにいるよりはいいかなと思ってさ」

最初こそ色々あったけど、彼らは私がここにいることに身を案じてくれている。
後藤くんを見ると瞳がかちあった。いつ見ても少年らしい姿に、本当に付喪神なんだろうかと疑ってしまう。きっと私に認識がまだ足りてない。不謹慎だけれど、嬉しいとか心配してくれていたんだという思いがわきあがる。実際はどう思っているのか本当のところはわからないが、こういう風に接してくれるのは、ここに来てから初めてのことばかりなのだ。

でも、ちょっと珍しい。こんな厚くん初めて見たかも。いつもキリリッとしているから…うなだれた姿可愛い。うん、どうやら私の調子が戻ってきたようだ。

「あいかわらず立ち直り早いよな」

何か察したらしい厚くんが、呆れたような感じで伝えてきた。後藤くんも半目になっている。刀剣男士には全て伝わっていたらしい恥ずかしい!

「なんか、元気になった!今日はお騒がせしてすみません!」

そう言うと、二人はほっとしたように息をはきだした。その姿を改めて見て、改めて申し訳ないと感じる。今回の件まさしく私が精進たりなかったのも原因。無理やり結婚させようとしている奴らを、強引に止めればいいのだ。そう、あいにくここには戦闘のスペシャリストたちと武器はたくさん揃っている。

「うじうじしてても何も解決はしないよね!ちょっと、山伏さんとこに行ってくる!」
「……ん?」

実家に帰って両親≠ノきっちり話そう。審神者の規則がどうのこうのあるけれど、今回の話を聞いたのはこの本丸の担当からだ。金だけはある家だから、何かつかまされたんだろう。もともといけ好かない奴だし、あいつもついでにしょっぴこう。いつまでも逃げちゃダメだ。もし縁を切られてもそれはそれでよい、私が決めたことだしあの家に未練が無い。

「大将!?何やらかす気だ!」

調子を取り戻した私は、すぐさま行動を開始しようと思い立ち上がった。二人はぽかんとした顔のまま硬直していた。はっとしたように後藤くんが叫んだ。

「敵陣に乗り込むには、準備が必要でしょ。私も練度をあげてくる!ということで、今から山伏さんともに修行に行ってくる!」

「そんな話だったか、これ!?」

「だから、そういう行動すんのやめてくれ!!」

私の行動を止めるためか、俊敏な動きで押入れに押し込まれパシンッとしまる。
でてきたはずが逆戻りだ。外の方から厚くんが、援軍を呼んできてくれという声が聞こえた。後藤くんは、ついでに山伏さんの居場所を確認してくると答えかえしている。

「大将とあの人揃うと更に本丸が大変になんだからな!」

大きな声で厚くんが私に言い放った。その大きな声は、襖越しに響く。
初めて彼とあったとき声もでないほど傷だらけで、そんな彼らが今では元気に戦場をこの本丸を動きまわっている姿は、とても眩しい。

結婚したくない。
子供の頃から、常に思うこと。自身の家庭環境に嘆くつもりはないけれど、色恋に対して希望もなにもかも抱けなかった。この環境から抜け出して、これからの人生を邪魔されない場所を必死に探した。なにもかも疲れきった心は自暴自棄になっていたのかもしれない。両親はそのことを知ってか知らずか、私にある話を持ちかけてきた。そもそもそれは私自身、特殊な職業に就ける技能も能力もないから避けていたものだった。選考の時点で落とされるだろうし半信半疑。両親もそのことで私は落ちこぼれだと捨てておいたはずだ。

随時、威圧的な態度にうまい話ではないだろうと感じたーーーしかし、そう私の望む職業は見つからない。逃げ場がないなら迎え撃つ覚悟。もういっそ実家の家系のブッとんだ職業に就職してみようと思いその職業に就く。

翌朝、私の元に政府関係者が訪れた。その場所に連れてかれていたとき覚悟を決めた審神者≠ニいう特殊な世界に、馬鹿な私は自らつっこんでいった。


私はこの本丸を引き継いだ二代目の審神者だ。結婚なんてしたくない。

この本丸を立て直すていう、夢ができたから。









あれから、色々と彼女の行動を止めるのに大変だった。でも、その突拍子もない行動に驚くことはあっても、そんなに嫌じゃなかった。悩みを聞いてもらい全部はきだしてすっきりしたような感じの表情に、こちらも嬉しくなる。

「ーーーじゃあ、二人ともありがとう。今日は、もう寝るよ」
「おやすみ」
「ちゃんと大人しく寝ろよ、おやすみ」

ひらひらと手を振って、審神者から退室した。自分たちの部屋と戻る廊下を歩きながら、ひっそりと会話を交わす。

「ふー」
「今回も、なかなか大変だったな」
「立ち直って、よかった…よな?」
「なんで疑問形なんだよ、そう思う気持ちもわからないでもない。まあ、大丈夫だろ」
「何かあったらその時は、だな」
「な!」

あの審神者が主となり、出会って短くない時が過ぎた。これまで色々と彼女は良いことも悪いことも仕出かしてくれた、その度に怒り呆れたりはしたけれど、開き直りへらっと笑うから、あんなに落ち込んでいる姿を見たのは初めてだから心配した。

「なぁ、今度、俺たちが修行つけてやるか?」
「ははっ」

これでも心配している。



そういえば、なんで結婚したくないのか知らないな。今度聞いてみようか。


18/10/21

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