その他シリーズ | ナノ





見習いさんどうか諦めて下さい




この本丸に見習いが研修に来てから、一ヶ月経とうとしている。もうすぐ研修も終え、本格的に審神者への道をすすんでーーーいくはずだ。

「研修はちゃんとしてるんだけどね・・・はあ」
「お?どうした、青江?」
「御手杵かい?いや、あっちの方にいる彼女のことだよ」

向こうの方で相変わらず、三日月宗近達に纏わりつく見習いの姿があった。数十分前に見習いの悲鳴が聞こえて、それから気絶しているのをいいことに俵担ぎにして持ち運んできた三日月さんを見たのは気にしない。

そして、通りかかった御手杵が僕の呟きを拾ったようだ。ただ何故か御手杵は鯰尾と骨喰を両肩に俵担ぎしていたが、今日は俵担ぎの日なのかい?

「あーー見習いか。またなんかしたのか?」
「今日はまだ何もしてないとは、思うんだけどね・・・でも、当初よりは落ち着いてきてるいるし。このまま、大人しく研修終えて本丸から去っててほしいものだよ。僕らは彼女に何もする気ないし、彼女についていく気もない」
「そうだな」

その状態を説明することなく、普通に喋り始める。気になるよ・・・彼らは何をしたんだい?

「御手杵、それを担いでるけど何をしたんだい?鯰尾はなんとなくわかるけれど」
「ああ、これな」

「偏見ですよ!さっき、あの見習い呪具っぽいもの使おうとしてたから。うっかり手が滑って主に渡そうと思ってた馬糞に、手ごと埋もれさせちゃっただけですよ」
「兄弟・・・馬当番でことあるごとに、あれを渡そうとするのはどうかと思う」

「鯰尾、またお前は。骨喰・・・気にするとこはそこじゃないだろう。ちなみに骨喰はな、気絶した見習いを引き摺って運ぼうとしたからだ。三日月さんが回収してくれたけどな」
「くだらないものを使って支配しようとする者に、情けも容赦も要らない」
「いや、その気持ちはわかるけどな。もう少し手加減してやれ。とういうことで、だ。まあ、こんなとこだ」

疲れた表情してこちらを見る御手杵の顔。どこかずれた会話をし続ける粟田口脇差組の姿に、生暖かい目で僕は見た。脇差と仲のいい彼がこの二人を押し付けられたのだろうか。一期一振はあちらの輪の中に入るのは、弟に手をだそうしたから監視してるのかな?

骨喰を諌める御手杵の姿を見るのは珍しい。この本丸じゃ、いつもは反対なんだ。淡々とした反応だが、どうやら彼も苛立ちが蓄積していってるらしい。そして、先程の悲鳴はこれか。

「うんうん、概要はわかった。結局、鯰尾がやらかしたんだね。それにしても、彼女どれだけ呪具持ってるのか?大人しくなったとは思ってたんだけど、困ったものだね」

「最初、色仕掛けで攻めて来ましたけど。効かないと気づくと、すぐああいったものに切り替えまし・・・よな。ここで敬語使うのもなんだしな。見習い、いないしいいか」
「あっちの方にいるが、気づていない」

「鯰尾、君この本丸じゃあまりそっちの方≠ナはいないじゃないか」
「案外俺らの大半て主に敬語とか使わないよね!」
「なんか話の趣旨が変わってきたな」

見習いの話をしていたはずが言葉使いの話になっている。話が脱線するのはよくあることだけどね。

「それにしても、この本丸に初の見習い研修が来てもうすぐで一ヶ月近くかーー」

鯰尾が今までの話の流れを変えるように、見習いの話に戻す。

彼女はいわゆるーーー巷で噂の本丸乗っ取りの典型的な見習いだった。乗っ取り被害は二種類の事例があるらしいが、彼女は、霊力の強く見目麗しい場合。性格は難あり・・・だけどね?そして、政府の一部が共犯なのか彼女の担当候補もいかにも、て感じの人間だった。石切丸や太郎太刀がよくない気を感知していたらしいので間違いないだろう。

それから先程の会話の通り、化けの皮は最初からぶん投げられていて露骨に誘惑や呪具を使おうとするなどいろいろとしてくる。いつかは陥落すると思っているのか今の今まで乗っ取ろうとする行動は止めない。まだ、研修のことはしてるみたいだからいい方か。
彼女もそろそろ気づいてほしいものだ。研修も終わりそうなのに、誰一人として陥落していない。いくら、そんなことしようがこの本丸じゃすでに対策は取られていることに。

主≠フ担当は真っ当な部類なので、こんのすけにはなにやら渡していたし、彼が他の刀剣にこの件を話してたのをその刀剣経由で本丸全員に伝わっている。彼曰くあの噂を鵜呑みにしてないが、上から無理に押し付けられた案件なので不安があるらしく、呪具のことや色々な対策はとるようなことは言っていた。

あとは僕らに申し訳なさそうにして気をつけてほしい、とのことだった。要因は様々だが刀剣が見習いに取っ替えする事例が発生してるらしい。

大丈夫と思ってもなにが起きるかわからない。主≠フ担当はある意味、用心深い人間だ。

でも、我が主≠ヘーーー。

「西瓜を食べ過ぎて腹を壊しているって、どういうことなんだろうね?」

「主か、見習いの行動にまったく疑心抱いていないし。寧ろ胸の大きさを想定しようとしてたなぁ」

鯰尾がぼんやり呟く。一応、本丸に危機が迫っているのにこの本丸の主≠ヘこの有り様である。担当の彼が不安を抱くのは無理もない。現在、離れの部屋で布団の上に転がっている。

「主には青江の常に意味深も通用しない。そういうことだ」
「骨喰、言葉が足りなすぎて何が言いたいのかわからないよ?」

「なあ、鯰尾?なんでお前が胸の想定しようとする話してるんだ、そんなこと?」
「だって、会話相手は俺ですからね!」
「お前は何しているんだ!?」

危機感無い会話してる僕らもまた呑気だ。ま、見習いにどうこうされるつもりはないよ。



「そういえば・・・呪具なあ」

会話が終わったかと思えば、御手杵が何か思いだしたようだ。今日は休日だ内番もないから暇だしね。もう少し会話するのもいいかもしれない。

「陸奥守が投石と間違ったふりしてぶん投げて破壊していたな、と」
「そんな雑に破壊して大丈夫かい?」

そこをすかさず、骨喰が補足する。

「太郎太刀が回収して清めの儀式とか、なんかしていたような」

各自、見習いの魂胆を阻止しているのはいいことだろう。

燭台切光忠もこの前、見習いの部屋を掃除してていてヤバそうなもの見つけたらしく僕に相談してきしね。どうしたらいいのかわからず、見なかったことにして元の場所にそっと戻したらしいがどこかで聞いたような行動だ。鶴丸国永が爆笑していたのはそれを思い浮かんだのだろう。

その話をすれば、こんな反応が返ってきた。

「ああ、その話ね。その話聞いた三日月さんがそれを何とかするて、言ってたけど?」
「あ、それな。その後、鶴丸に聞いたが爺さんがさり気なく踏み潰して破壊して処分してたぞ。見習いには普通に謝ったらしいが、見習いは気にしてなかったな。恋に盲目なのかどうなのか・・・あふたーけあとやらは石切丸がしていた≠ニ言ってた。見習いて、抜けてるのか?」

呪具破壊されまくってるが見習いは気にしていない。詰めが甘いところではないけれど。
そっちの方が安全なので、そのままで。

「わあ、祈祷組大活躍?」
「そんなことできるのか、呪具のあれこれ」
「毎回、この本丸でよくないことばかり起きるからね≠ニかと言ってたぞ」

「石切丸は置いといて、三日月さんの行動に何も疑問持たないのかい?見習いはそれでいいのか」
「あの見習い三日月を狙ってるのは誰から見てもわかるが」
「とうの三日月さん相手にはしてるけど、そういう意味≠ナ相手してないというか」

だって三日月さんが一番とばっちり受けてるけどさ、それわかっててあの人謎の祖父力を発揮して呆けたふりしておおいに見習いを相手してるよ?最近、三日月さん露骨におじいちゃんっぽいよね?戦闘ではばりばり刀振り回して活躍してるけど、本丸に戻ると腰痛とか徘徊とか強調して見習いの相手してるし。三日月さん見習いに胸押しつられて誘惑っぽいことされてんのに、体調が悪いのか、とか言いながら姫抱きして喜ばせ、そのまま布団に寝かせて放置に・・・俺の腹筋が危なかった。それから夜這いしてこられ薄着なのに、眠れないのかといって添い寝する。そこからずっと子守唄歌ったらしい。見習いも流石におかしいと思って必死にそういう雰囲気にするんだけどさ、まあ、あれだ子守唄は子供過ぎたなと和歌に変更。

見習いは心を折れ、失礼しますとすごすご帰っていったそうだ。

「以上、俺の目撃情報と鶴丸さんの情報!」

楽しそうに話す鯰尾に緊張感の欠片もない。この本丸は通常運転だ。
三日月さんの見習いに対する扱いに見習いに若干不憫になってきたのを感じる。

「鶴丸は夜中に何しているんだ?」

骨喰がぼそりと突っ込んだ。僕も同じ気持ちだよ。

「その後大人しく寝るのかと思いきや俺のとこにも懲りずに忍びこんできた。残念だが、俺は屋根裏だ!気配察知したので隠れていたぜ!≠ニ鶴丸さんが楽しそうに喋っていたよ」

平安組、余裕を通りこして見習いをおちょくりまわっている。見習いも見習いだが気づかないのかそこら辺。


「でも、ついに長谷部さんとこにも来てさ。誘惑はすっぱり止めた原因作ったらしいよ?」
「鶴丸・・・さん情報かい?で、結果は?わかりきったことだけど」
「奇襲かと勘違いして、曲者!て手元にあった物を投げて頬すれすれに掠ったらしいよ」

「見習いにとってそれは恐ろしい経験だね。それから、長谷部はなにと戦っているんだい?」



そこで、未だ諦めてないので・・・意外と図太いよあの見習い。







「三日月お爺様、さようならーーー!」
「ああ、無理せずゆっくり頑張ってな」
「はい!」


最後の研修日。
見習いとの別れの時、刀剣達も彼女の周りに集まり労いや激励していたりする。賑やかではあるが変なことも起こらず、何故か三日月さんをお爺様呼ばわりしている。あれ?先日まで彼女ものすごく狙っていたよね?全広範囲にこの本丸狙っていたよね?

迎えに来た彼女の担当である政府の者もかなり困惑している。意地悪そうな顔はえ?何これ?と想像もしてない展開に置いてけぼりだ。

「なにがあったんだ・・・あれは?石切丸」

「三日月がお爺さんのふりするのは楽しすぎてね、孫扱いをおおいにしてたらいつの間にか、ああなったらしい。うーん、素質はあったんじゃないかな?」


乗っ取りはされなかったが、改心しておじいちゃんっ子となった見習いは本丸を去っていった。
こうして刀剣達の頑張り?により穏やかな結末で終了する。







「うん、でも、穏便に済んで良かった。ところで、ここの主は結局どうしてたんだい?」

「主は・・・あの子、全然気づいていなかったからね。先程、薬研に今回のことを叱られていたよ。警戒心や疑心がなさすぎるからね、あの子は」


「やれやれ、僕たちがしっかりしないと・・・はたして、しっかりしてたのかな?」



15/8/23

[ 29/31 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
×
- ナノ -