その他シリーズ | ナノ





もう一度初めから始めよう八



今回の件、実行したのは確かに三日月ではある。
そして、事の発端の発言したのはーーー俺だ。



見習いの研修が終わりに近づいてきた、何回目かの夜中の会議。

全員揃うときやその場にいる者で、行なわれる刀剣だけのこの会議。元は本丸に変な輩が絡んでくるので対策を考えようという趣旨で開いていたのが、今では座談会になっていた。

『何故、主は俺に逃げ腰なのだろうか』
『幽鬼の様に影から覗いているせいじゃないか?』
『まだそんなことしてたんですか・・・』
『見守っているだけだぞ?』

『断固見守ってるて言い切るんだな・・・この前、押入れ開いたら驚いた』
『ああ、三日月がいたのか』
『じいさんが、はちゃけすぎて俺の驚きが不発に終わったぜ!』
『それは、よかったですね!いろいろそしできましたね!』
『よかったな、主が助かった』

『『それは、どういう意味だ?』』

見習いは噂で聞いたあの話とは程遠い人物で、このまま研修は円満に終わるだろうと三日月と談笑をしていた。茶々をいれるように、今剣や鶴丸が会話に乱入し和やかなにいつも通り。



しかし、その日の雰囲気はどこかいつもと違う。表情が薄暗く会話の内容は、最近の審神者の態度に不安や不満が募るものばかり。空気は不穏。このまま何事もなく終わるとしても、はたしてこの生じた不安はあっさり消えるのだろうか。薄っすら浮かんだ疑問に、直ぐに悪い方向で答えは返ってきてしまった。

『・・・主様は僕たちのこと気にしていないのかな』
『見習いの指導ほったらかしてるのはさすがになぁ』

普段はしっかりした短刀たちが、不安気に言った。この状況にまいっているようだった。

『その気持ちもわからなくもない・・・しかし、何か考えがあってのことだと思うよ?』

すかさず石切丸がこの場の空気を読みとり言うも、本人も煮え着たらず苦笑顔だ。

『不安になってしまうよな』
『大丈夫だって!主様があんななのは、いつも事だろう?』

鶴丸は発言した短刀たちの頭をぽん、とした。鯰尾が乗っかるように、自分の弟たちの不安をなくしてやりたいのか、明るい口調で喋りかける。

『でも、もう、審神者をもうやりたくないのか、なあ。見習いの方が気にかけてくれること多くて、主様はどんどん僕たちから遠ざかっている・・・気がするんだ』

涙声で吐露した言葉を聞いて、なんと言えばいいのか声をかけてやることもできず、その場にいた全員がしばし無言になった。続いた言葉はとどめを刺して、その場にいた者たちは大きく騒ついた。

これはまずい。

何か根本を変えるような起爆剤はないものか、らしくもなく焦るーーーついと、あることを思い出した。



『見習いを利用したらいいんじゃないか?』



見習いの乗っ取りを阻止し、それを乗り越えた刀剣と審神者の関係が強固になる
もうずいぶんと噂に振り回されているが、見習い審神者の噂と共に付属するような噂も聞いていた・・・側にいた三日月が思案しているような顔が見えた。





『え・・・鶯丸君いったい何を言いだすんだ!?』
『燭台切、声を落とせ。主と見習いが起きてしまったらどうするんだ!』
『長谷部殿も言えませんぞ』

しんと静かになる空間で燭台切が叫ぶ。続いて長谷部が怒るが、一期が言っている通りお前も声がでかい。

『ねえ、見習いを利用するてどういうこと?』
『その噂のようなことを、形通りにこちらですればいい』

困惑した声音で、加州が尋ねた。
言葉巧みな方ではない。どう納得させ答えるべきかと逡巡したのち、そのまま答えることにした。

『そ、それは、ちょっと!』
『見習い殿を利用するというのは!?』
『特に過激じゃなくて、見習いの側に集まる回数増やせばいいとか?』
『主も危機感・・・わくのか?』
『見習いに協力してもらうとか、なんですか?』

もう少し付け加えるべきかとも思った。先ほどの緊迫したものはなくなりつつあるが、妙に乗り気になっている?本音を吐露しない刀剣たちも、大なり小なり審神者に不満はあった。まったく気にしていないことはない。それも積み重なって、ついに引き金にとなり表に出てしまったのかすっかり盛り上がる刀剣達。一部の刀剣達の諌める声はあるものの、雰囲気はその方向に傾いていた。

声を潜め、こちらに聞こる声で鯰尾が言った。

(鶯丸さん、これはやばいんじゃないんですか?)
(困った)
(どう収めましょうか・・・)

鯰尾がどうしようと額に手をあてている。新たな問題を起こしてしまった。この場に鳴狐や骨喰がいたのなら、よくない方向になると止めていただろうが彼らは遠征へと赴いている。


『でもさ、それを直接実行するのは誰なんだ』

『これは、私たちの問題。彼女を巻き込むのは如何なものか?』
『誰もそんなことやりたくないでしょう?』
『それに見習い殿には、この後も穏便に研修を受けてもらいましょう。彼女には、一から一つの本丸を運営していく力や審神者として才能がある』
『主とは一度、話し合いに場を設けた方がいい』

『それに、誰もやりたくないでしょう?』
『それもそうですよね』

(なんとかなりそうだ)

聞いていた周りの者が、ごく当たり前の問い。少し視線を感じる矢先、見計らって石切丸や太郎太刀がここぞとばかりに牽制。念を押して言う太郎太刀に鯰尾が便乗して、傾きかけた提案は保留へと落ち着くかと思えた。




『その役、俺が引き受けよう』


黙っていた三日月が、そう言い出すまでは。

収集つきそうなっていたその場は大混乱になり、三日月が口先で言いくるめ、結果は妙なことになってしまった。遠征で居なかった鳴狐たちに、どう説明したらいいのか鯰尾が頭を抱えていた。





『提案しておいてなんだが・・・請け負うことはしなくてもよかったんだぞ?あまり得策な方法ではない』



どんな真意で引き受けたのか、それは三日月も判っているはず。理由の内に俺が感じた危機感と似たようなものだとは思っているのでは、と予想している。これでも提案者として一応は責任は感じていた。

『・・・・・・・・・あの噂が気がかりだった。雰囲気が落ち着かないと様子見していたら、ここ最近幾度となく不穏な場面を見てしまってな』

数秒目を瞬かせた後に、難しい表情になる。間が長かったので、のらりくらりとかわされるのも想定したが喋ってはくれるようだ。

『誰とは言わないが、見習いの方がいいと思っている者も少なからずいる。あの場を石切丸や太郎太刀殿が一時諌めても、主に対する疑心がくすぶっている状態だ。いずれ近いうちに爆発しそうだと、お前も気づいていたのだろう?』

『予想はしている。でも、そうとはならないだろう』

『来訪した見習いは手際よく聡い人間で安心していた。だが先日、こんのすけ殿がこれから見習い研修とやらは引き受け先として指定されるのではないかと、ぼやいているのを聞いた・・・今回の見習いを見送ったとしても、今度この空気になれば最悪な方に転がりかねない』

『だから、今回が機会として動いておこうという、ことか?』

『いい役回りではないのは重々承知だ。あの場で名乗りあげる者はいない上、最終日に直接言い渡す役も誰もやりたがらないだろう?』

『やせ我慢しなくても』

冷静に淡々と話しているが、かなり無理しているようにみえる。思わず心の声がぽろりとこぼれた。


『どうせ俺はなにをしても、主に好かれはしないのだ。他の者が俺のしようとすることをすれば、主はとてつもなく傷つくかもしれん。だが、もともと負の感情しか抱かれていない俺なら・・・主が憎くての行動ではない。俺とて目一杯甘やかしたい。そうだというのに、皆の者が止めるから耐え忍んで・・・』

どうやら、ナニかの琴線に触れてしまったらしい。猛烈に語り出した。

『それは、お前の行動に問題があるから言ってい』
『しかし、これを乗り越えてこそ絆が生まれるという可能性に賭ける・・・俺は心を鬼にする』

(こいつ、主の思いこみの影響をもろに受けているんじゃないか。妙なところばかり、似てるなぁ)





三日月は、審神者の性格のことは知ってるがそれほど初期の奇行を知らない。演練の件も聞いてはいるそうだが、なのに主いつの日かの演練のようにびしっと言ってくれるはずだと、思っている節があった。

それは、みんなもそうだった。




他人がなんて言うかなんかどうでもいい
それを、ここにはいないあいつに伝えられたらと思っていた。

あいつとはまた違うが、今代の主は常に周りのことを気にしていた。

追い詰められてるようにいつも見えて。

「他人のことなんか気にするな」

言うたびに彼女は困ったように笑う。
時間が経つにつれて彼女の行動から、節々に伝わっているのだとそう感じた。でも、それは違っていたのだと考えが甘かったと痛感した。



16/9/11

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