その他シリーズ | ナノ





もう一度初めから始めよう十

私は離れには向かわず、使われていない別の部屋へと逃げ込んだ。体には振り落とされないように妖精や刀装兵が引っ付いている・・・意識していなかった申し訳ない。労わるように撫でると嬉しそうな表情。

ちょっと気が抜ける。そのまま腰も抜けてその場にへたり込んだ。

(また逃げてしまった)

私はどの面下げて顔を合わせばいいんだ。
だって、誰にも話さず自分に勝手に決めてあの本丸から出てきた。こんのすけも放置してきてしまった、もうさすがに愛想はつかされただろうな。

こんな無責任な主人は必要ないでしょう!かつての本丸の刀剣男士達が助けにきてくれた。こんな元主にも関わらず、なんて忠義に熱いのか。それを私は喜べない。

『向きあってやれよ』

先ほどここの本丸の『同田貫正国』の姿が、元本丸の《同田貫正国》と重なってしまった。言われたことが、何度も何度も。

ここの彼とあの本丸の彼は姿は同じでも違うのに、その言葉があの《同田貫正国》に言われている気がした。彼とはよく出陣で口論した。いつも私が言い負かされ、きつく聞こえる口調でも言い分ははっきりして、いつもまっすぐで。彼だけじゃない。彼らはいつだって向き合ってくれていた。

私はそれが苦手でーーー怖かった。刀剣男士が怖かった。
少し力があるだけの、弱い人間の私が彼らの期待に応えれるのか。その信頼を裏切ることになるんじゃないか。最後は失望に変わるときがくるんじゃないのか、と。なら全部悪くなる前に押し付けて逃げてしまえばいいと・・・。

三日月に話を切り出されたとき、あの言葉の続きを聞かないようにしたのだ。避けたのだ。なにも気づいてないフリをした。これまで彼らに対する言葉や態度で示したことは、きっと本当だった≠ツもり、なのかも。




衣擦れの音が静まりかえる廊下から聞こえた。

(急いで逃げてきたから、戸をちゃんと閉めていなかった!今動けばバレる)

両手で口を押さえ息を殺す。開いた隙間にちらっと見えた、ところどころ破れた布が視界にひらひら。ここの本丸の山姥切?いや、もしかしたら前の本丸の山姥切か?

(でも・・・あれ?それにしては、なんだか全体の雰囲気が山姥切とは違うような)

感じたことのある緊張感。圧倒的な存在感。

「そこにいるのだな、主よ」

その声は紛れもなく三日月宗近の声だった。





正気を戻しあたりの気配を伺った…気のせいでもない。

「主、探したぞ」

三日月の声に、再び心臓と意識が飛びそうになった。扉には触れられておらず、開け放たれていないが時間の問題。何度もしつこいと思うが、私には向き合う度胸などないのだ。現実逃避になんで布を被っているんだろうと考えてみる。このまま立ち去ってくれないだろうか。そのまま幻滅してくれたらよかった。そもそも来てるとは、思っていなかった。思わないようにして、頭の中で思考がぐるぐる。

「これ以上は近づかない。そのままでいい、話を聞いて欲しい」

それも私に向けての言葉。

「主が俺を元から避けていたことは知っている」

(三日月宗近の主≠ノ私は・・・ふさわしくない)

想像していたより、優しい穏やか口調に泣きたくなった。


16/12/12

[ 18/31 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -