その他シリーズ | ナノ





もう一度初めから始めよう六






鳴狐と共に遠征していた日だった。

丸一日かかる遠征。野宿し本丸へと戻ると異様な雰囲気を感じとる。本丸の様子がおかしいと思った。数日、見習いに集う刀剣たちの接し方と審神者の振る舞いに違和感を覚えて兄弟たちに尋ねる。

『この前の話し合いでさ。研修で主様に不満を持ったやつが多くて、いや、思ってただけなんだけどね・・・見習いには悪いけど見習いを利用しよう≠ニなったんだ。

それで、なんと言いますか。みんな盛り上がっちゃいまして・・・』

目を泳がせしどろもどろ。そう簡潔に言ったが事態はそう容易ではなさそうだ。

『誰も止めなかったのか?』

『太郎さんとか石切丸さんやあたり苦言した人はいた。それでみんなもしぶしぶ納得して実行するのはやめようとしたときに、思わぬ人のさらなる発言で現在の状態』

『思わぬ人物?まさか』


『三日月さんが主謀者になることを請けおったんだ』





三日月へ話を聞きに行くこととなり、鳴狐とお供も一緒に来るはずが不審な動きをする審神者をまた目撃したので、そこで別れた。


『おお、骨喰か』

縁側で景色を見ながら茶を嗜んでいる三日月宗近はいつも通りの様子。

『どうした?と、しらをきるつもりもない。鳴狐も来るとは思っていたんだが用事かな?他の者から聞いたのだろう』

ぺんぺんと空いた隣をはたくのでそこへ座ると、何故か満足そうに頷く様子。
頭を撫でようとするように手がこちらにきたので阻止する。目をぱちくりさせ瞬かせたのち一息ついて残念そうにしても撫でるのはさせはしない。

別に三日月のことは嫌ってはないがなんだかむずがゆい。見た目はこれでも中身は相当な年月だ。どうみても孫かなにかと思ってるんではないだろうか。この男はじじいと自称しているだけあって、時おり脇差や短刀にそんな態度をとることがあった。これもその一つだ。そういえば、打刀や太刀にまでしようとしてたので逃げられていた。今剣と岩融が慰めていたが。

『撫でるくらいいいと思わんか?主にも逃げられるのだ』

『あれでも主≠セ。孫扱いてどうなんだ?』
『さりげなくアレ扱いしているのはいいのか?』

『聞き返すな。お前だって・・・あんまり気にしないか』
『うむ、俺はスキンシップというやつは嫌いでない』

三日月は昔の俺のことを知っているらしい。
その時の関わりからなのか随分と気にかけられる・・・初めてあったとき俺に記憶がないことを知った三日月は、また改めてよろしく頼むと言った。それもあるんだろう。

良好な関係は築けているとは思う。


『それはそうと、骨喰はやはり今回の件を止めに来たのか』
『その通りだ嫌われるぞ。修復不可能。深い溝どころじゃない』
『骨喰、お主はいきなり容赦ないな』

『そんなことをすれば確実に誤解される』

何もしてなくとも邪推するというのに、すでに不審な行動を伝えるべきだろうか。

審神者と自身ら刀剣男士との距離があることは、指摘されなくてもお互い知っている。
弟たちがそわそわしながらも、審神者の邪魔にならないよう誘いを我慢していると、他の刀剣たちも審神者に気遣っている。

歩みよりが遅いこの主従関係も、それが戦いの中で足を引っ張てることに褒められたことではない。人の姿として過ごす二年の歳月は、長く短いという独自の感覚に戸惑いはある。それもいつか終わりがくるときがある。


それでも何も焦ることはない。多少のすれ違いはいつだってあった。

審神者は不器用だ。
それを自覚していながらも、悔いていても、他の審神者に何か言われても。必死で努力していた。結果をともわなかったことが多かった初期の頃に比べて、少しずつできることが増えていき傷だらけで帰ってきたあのとき震えながらも取りこぼさないように確実に一歩づつ。


そして、主≠ヘ渡さなかったのだ。
刀剣をよこせとのたまうあの審神者に、どもりながらも言い返した。


貴方に差し上げる刀剣は一振もいません


確証を得たその言葉は、存在していた主≠ニ刀剣男士のつながりを表していた。




『・・・』

お互い無言へとなる。
喋るのは得意ではない、うまく伝わったともいえない。自身なりに伝えておこうとは思っていた。

『あまり焦るつもりもなかった。あの話とて俺が余計なことを言いださなければ、流れることだった。それに誰も嫌な役をやりたがらないこともな』

『わかっているなら、なぜやるんだ』

『それを聞くか?』

『それを聞きにきたんだ・・・無理には、とは言わない』

三日月は静かに瞳を閉じそれからこちらに向けた瞳には迷いなどなかった。真意はまだわからない。真剣な瞳に、強情なところもあったと思いだす。こうなればもう止められない。

逆に、とんでもない行動を起こすことだけないと願いたい。


『骨喰。俺はやめるつもりはないのだ。どのみちお互いしこりはある、絶好の機会だと思っている』

『見習いを巻き込むのか?現時点で真面目に研修を取り組んで噂の片鱗すらない』

『見習いは申し分もないたいした娘だ。少し手をだしすぎるところもがあるようだが・・・それを利用するというのはもうしわけないが何も言うつもりない。すべて最終日に話すつもりだ』



動いてるのは三日月だけではないか。
あまり良い手段ではないのに周りも重々承知で、なんだかんだと協力している。

それは、変えたいと望んでいるからなのか。


『お主らも、と強要はしないーーーあの子のことをよろしく頼んだ』




『・・・ーーーという、訳だ。三日月も他の者も止めるつもりがないようだ』

いつも肩に乗っているお供の狐は、胃のあたりをおさえうずくまっていた。わたわたした鳴狐が太ももの上に移動させて、背を労わるように撫でていた。仮面ごしでもわかる困惑の表情。

『そんな淡々と。しかし、もう止められないようですね。無理にでも止めようとすれば止められますが亀裂が入り難しい。どのみちなんらかの支障はでると思うのですが、 こんのすけ殿にお伝えすればよいのか、そちらが正しい判断でしょうか。うーん・・・骨喰殿はどうするおつもりで?』

事態に胃をおさえつけたまま、必死に思案するお供の狐がこちらへとふる。

『三日月に頼まれたからでもない。直接は見習いに関わらない。様子を見て中立の立場をとることにした』

『それは今回の件を納得はするということで?』

『そうする。どう転んでも投げだすつもりはない』


悩んだが俺はそう選んだ。


『骨喰殿まで・・・鳴狐も何か』

『僕も、骨喰と同じ』

『!』
『な、鳴狐!』

初期刀である鳴狐は反対すると思っていた。それから、鳴狐は語り始めた。


『僕たちは彼女との距離に焦りはない、でも他のみんなは本当はどうなんだろう、て。
僕たちは彼女の意思を汲んでいると、そう思っている。互いに気を使いすぎて、気持ちを汲み取りすぎるのも、それはこの本丸なりだと。
どう伝えればわからない。どう転ぶともわからない。
良いやり方ではない。でも、みんな向き合いたかったんだ。今の流れに納得はしてても、踏みこみたかったんだ。逃げてほしくないん、だと。
これは大きなきっかけ、だと思う。僕は僕にできることをしたい』


『・・・それで良いのですか、鳴狐?』

語り終えたあとの鳴狐がこくりと頷く。こう長く本音を聞いたのは初めてだった。

精一杯考えたであろう言葉に、お供の狐もただただ深く息を吐いて諦めたようだ。





結局、こんのすけと見習いには何も告げなかった。

審神者は不審を持っていたのは感じとる。しかし、徐々に不審な動きが減っていき、そのかわりこんのすけと常にいるようになったこと以外、心配していたのは消えたように思った。以前、振舞わなかった行動は誰にでもわかるので、その変化に刀剣たちも耐えるのが必死だったようだ。



最終日に、広間に集まる彼女の表情は特に変化はなかった。そして、三日月の言葉が終わらないうちに去っていく。

用意周到に、何も知らないこんのすけ連れて。



16/3/27

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