一血卍傑 | ナノ



後編



目の前の男は一呼吸して、話しはじめた。

「そうだ…当時は私とオキクルミ殿以外しか回復役がいなかった、自然な流れで陽の巫覡を選んだのだ。後衛を極めるのも、また彼らの力になれると思った」

当時この本殿を立ち上げた頃、ほぼ人のいない状態で戦力不足、回復不足でそうしなければいけなかった。

「ああ、主殿はよく巫覡の役職の者にに世話になったと言っていたな」
「ふふ、懐かしい。主も不慣れで癖が強い英傑の方達と、連携がうまくとれず怪我ばかりしてしまった」
「噂で聞いていた人物像とかけ離れていて、照合するのに時間がかかった」
「噂には尾ひれがつく。大きな事を成せば、人々はそれについて善い方にも悪い方にも変えてしまう」
「…」



「今は能力の上限値に達してしまって、私は隠居して本殿を守護する立場。能力差があれど見ていると危なかっしくて冷んやりするよ。しかし、これ以上強くなれないがそれも運命だ。私は私がやれることをする、それは今も昔も変わらない」

「これは選択の理由を説明しているだけにすぎない。大切なのは、貴方がどうしたいか、だ。主のことを心配しているのだろう?主にとってミチザネ殿の厳しさも大きな支えになっている。主はこの界を善き方向に導こうとするなら、私達はその主ともに歩もう。どんな形であれ」



八咫鴉から聞いた話を思い出す。

『クウヤ殿は八百万界の危機に、最初に立ち上がった方なのです』

まだ誰も脅威に対して対抗する者などいない頃、何を思い一人立ち上がったのか。
理解などできないが、その意思には敵わない。

「そうか」
「では、私はそろそろ床につくとするよ。一方的な話になって申し訳ない、でも話せてよかった。おやすみ、ミチザネ殿」
「おい」

話すだけ話して、立ち去ろうとする男を呼び止めた。

「…ありがとう」




また一人となり、忘れていた飲みかけの梅酒を喉に流した。
先程の会話を思い返す。

「見透かされてたのか。後押しされてばかりだな、俺は」

以前、『大きく持ち上げられるのは嫌だ』と弱音を吐いていた。『自分はそんな器ではないのだ』と。
『だから、貴方の知恵をお貸し頂きたい』
そうあの時は、呆れ果てたものだ。でも、返す言葉はきつく言ったが、見捨てることは出来なかった。


積もりに積もった変化を。

答えは、決まっていた。





「有り余るほどの力を与えて、主殿は俺に何を望む?」

絶大な力を得るのもいいが、今回ばかりはこちら¢Iぼうとしようか。
安心した表情見て、そう思った。








荒荒しく与える攻撃は凄まじい威力だ。
しかし、前線で戦うゆえに相手の攻撃も強烈だ。あんな戦い方では傷がどんどんできていく。体力が削られていくたびに、どんどん悪化している。

勢いのままに敵へ突っ込んでいく仲間達へと其れは降り注ぐ。
暖かな光は彼らへの祝福、それが力になるといい。

「無様だなーーーせいぜい苦しめ」

頭上へ弓を向け、天へと矢を放った。



祝福の恵み



2018/3/4完結

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