一血卍傑 | ナノ



中編




夜が更けた頃。無性に眠れず落ち着かないので、月を見ながら梅酒をあおる。
振り返りみると、物思いにふけることが増えた。

「そろそろ、か」

俺が此処でどういう役割を担うのか、選択が迫っている。転身先を決める日が近づいていた。

職種により後衛ではあるが、後衛でも戦闘役か回復役を選ぶことができる。巫覡における定位置は『陰は後衛からの攻撃』『陽は後衛からの回復』といった攻撃と防御を兼ねていた。儀式で使用するそのどちらの供物も用意されている。本来なら主殿がすべて決める采配、それぞれの英傑の意思が配慮されるこの選択を受け入れがたかった。

(好きに決めればいいものを…)

当初の頃の俺なら、陰を選んでいただろう。しかし、その選択に少し揺らぐ。






人の気配がして、後方を見やる。

「おや?ここでお見かけするのは、珍しい。ミチザネ殿」
「なんだお前≠ゥ」

この本殿の初期から、部隊の回復・後衛を務めているクウヤだった。
あまり関わりのない人間だったが、この界では人格者として有名故にその名は知っていた。

こんな出来事もなければ、関わる機会のない人間。部隊で共にする内にいつの間にか…打ち解けていた一人だった。それには、どんな態度で接しても穏やかに対応する、こいつに絆されたのもある。特にどんなに冷たくあしらっても、この独自の雰囲気に巻き込まればそれも無視ができなくなる。此処には俺を振り回す奴が何人もいると、再認識させられた相手でもあった。

悪霊を説得して和解しようとするところだけは、まったく共感できないが。もうそろそろ、諦めてもいいというもの。見た目の穏やかさに対して、中々の頑固者だ。

穏やかに微笑みながら、こちらを見返している。

「ところで、何か悩んでおられるようだ。もしや、転身先のことでは?」
「…」

(いつも思うが、何故分かる)

ため息をつきたくなった。
人の相談ばかり乗っているのか、何も話さずともおおよそのことが見当つくらしく、見抜いてしまう。それが、俺にとって煩わしい部分であったが、今となってはそれに慣れてしまった。しかし、いつに増して強引な雰囲気がひっかかる気する。こちらの話を切り出すまで、離してもらえなさそうだ。

仕方ない。同じ職種でこいつは陽≠選んだ。参考にするのを、捻くれた思考が癪だと訴えているが、今回ばかりは素直にこいつから話を聞いて見るか。

「少し悩んでいるのは事実だ。お前は今の役割を何故選んだ?」

瞳をぱちりと瞬かせて、こちらを凝視してくる。それから、常に穏やかな表情に笑みが深くなった。

「今夜のミチザネ殿は、私と話してくれるのだな!」

普段の冷めた対応のせいだろうか、なんとなく言いたいことはわかった。
だが、それくらいで嬉しそうにしないで欲しい。こいつに限ってありえないと思うが、ここは意味深く反応を表現する奴が多いので構えてしまう。本当に悩みが尽きない。




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